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2026.07.09 障害者雇用×親なきあと

障害者雇用における親なきあと問題|離職を防ぐ企業の対応と福祉連携

障害者雇用において、「親なきあと問題」は、従業員の働き続ける力や生活の安定に大きく関わるテーマです。

親は、障害のある方にとって、日々の暮らしを支える大切な存在であることが少なくありません。生活リズムの管理、金銭面のサポート、通院や手続きの付き添い、緊急時の対応など、職場からは見えにくい部分で、親が多くの役割を担っているケースがあります。

その親が高齢になったり、病気になったり、亡くなったりしたとき、従業員本人の生活基盤が揺らぎ、結果として勤怠の乱れや不調、休職、離職につながってしまうことがあります。

この記事では、障害者雇用における「親なきあと問題」について、企業が知っておきたいリスクや、親が元気なうちからできる準備、福祉サービスとの連携、職場でできる自立支援の考え方を整理します。

障害者雇用における「親なきあと問題」とは

障害者雇用における「親なきあと問題」とは、従業員の生活を支えてきた親が、亡くなったり、高齢や病気などによりこれまで通りの支援が難しくなったりすることで、本人の暮らしや働く環境に影響が出る状態を指します。

企業にとっては、単に家庭内の問題として捉えるだけではなく、安定雇用や職場定着に関わる大切なテーマでもあります。

たとえば、これまで親が毎朝起こしていた、服薬や通院を管理していた、給与の使い方を一緒に確認していた、体調不良時に会社と連絡を取っていたという場合、親の支えがなくなることで、本人の生活が急に不安定になることがあります。

もちろん、企業が従業員の私生活すべてを支える必要はありません。むしろ、企業だけで抱え込むことはできません。

大切なのは、親が元気なうちから本人や家族の状況を少しずつ理解し、必要に応じて福祉や専門機関につながれる体制を整えておくことです。

親の不在が引き起こす3つのリスク

親の支援が急になくなると、障害のある従業員の生活にはさまざまな変化が起こる可能性があります。

その変化は、本人の暮らしだけでなく、勤怠や業務への集中、職場でのコミュニケーションにも影響することがあります。ここでは、企業が特に意識しておきたい3つのリスクを整理します。

生活リズムの乱れによる勤怠への影響

親が毎朝起こしていたり、食事の準備や身支度の確認をしていたりする場合、その支えがなくなることで、生活リズムが崩れてしまうことがあります。

起床時間や就寝時間が不規則になる、朝食を取れなくなる、服薬を忘れる、身だしなみを整えることが難しくなるなど、日常の小さな乱れが重なっていくことがあります。

その結果、遅刻や欠勤が増えたり、出勤していても集中力が続かなかったりすることがあります。企業としては、勤怠の変化だけを見るのではなく、その背景に生活面の変化がないかを丁寧に見ていくことが大切です。

金銭管理の不安と業務への影響

これまで親が給与や生活費の管理をしていた場合、本人が急に一人でお金を管理することは簡単ではありません。

給与を短期間で使い切ってしまう、必要な支払いを忘れてしまう、悪質な勧誘や契約トラブルに巻き込まれるといったリスクもあります。

金銭面で大きな不安を抱えると、仕事中もそのことで頭がいっぱいになり、集中力の低下やミスにつながることがあります。場合によっては、生活そのものが不安定になり、働き続けることが難しくなることもあります。

金銭管理は、本人の尊厳や権利にも関わる大切なテーマです。企業が直接管理するのではなく、必要に応じて福祉や専門家につなぐ視点が求められます。

緊急時の連絡先を失うことによる不安

体調不良や怪我、災害時など、これまで第一の連絡先だった親に頼れなくなることは、本人にとって大きな不安になります。

また、本人が自分の不調や困りごとをうまく言葉にできない場合、周囲が気づいたときには状況が深刻になっていることもあります。

親以外に相談できる人がいない、緊急時に連絡できる相手がいないという状態は、孤独感や不安感を強めます。その結果、就労意欲の低下や職場でのコミュニケーションの難しさにつながることもあります。

企業としては、緊急連絡先を確認するだけでなく、本人が困ったときに誰に相談できるのかを、日頃から一緒に整理しておくことが大切です。

親が元気なうちから企業ができる3つの準備

「親なきあと問題」は、何かが起きてから対応しようとすると、本人も家族も企業も大きな負担を抱えることになりがちです。

だからこそ、親が元気なうちから、少しずつ状況を把握し、将来に向けた準備を進めておくことが大切です。

ここでは、企業が取り組みやすい3つの準備を紹介します。

定期的な面談で本人と家族の状況を共有する

従業員本人、家族、企業の担当者による面談を定期的に行うことは、将来の不安を早めに共有するうえで有効です。

面談では、業務の状況だけでなく、家庭での様子、健康状態、通勤や生活面で困っていること、将来の暮らしについて本人や家族がどのように考えているかを、無理のない範囲で確認します。

大切なのは、企業側が一方的に質問する場にしないことです。本人や家族が安心して話せる関係をつくり、「困ったときに相談してもよい」と思える雰囲気を整えることが第一歩になります。

緊急連絡先を複数確認し、もしもの体制を整える

親だけを緊急連絡先にしている場合、親に何かあったときに連絡が取れなくなる可能性があります。

兄弟姉妹、親族、利用している福祉サービスの支援員、相談支援専門員、グループホームの職員など、本人の生活を支えている人を確認し、複数の連絡先を整理しておくことが大切です。

あわせて、どのような場合に、誰へ、どの順番で連絡するのかを本人と共有しておくと、緊急時の対応がスムーズになります。

このような備えは、企業のリスク管理であると同時に、本人にとっても大きな安心につながります。

生活や将来について相談できる窓口を用意する

障害のある従業員が抱える悩みは、仕事だけに限りません。

住まい、金銭管理、通院、家族関係、将来の暮らしなど、生活全体に関わる悩みが、結果として仕事にも影響することがあります。

そのため、社内で相談しやすい窓口や担当者を明確にしておくことは大切です。産業カウンセラー、社会福祉士、精神保健福祉士などの専門職がいる場合は心強いですが、必ずしも社内に専門職がいなければならないわけではありません。

信頼できる上司や人事担当者が最初の相談先となり、必要に応じて外部の福祉機関や専門家につなぐ仕組みを整えておくことが重要です。

企業だけで抱え込まないための福祉サービスとの連携

従業員の生活に関する課題を、企業だけで解決しようとする必要はありません。

企業の役割は、本人が安心して働ける環境を整えることです。一方で、生活支援、福祉制度、金銭管理、住まいの支援などは、福祉や専門機関が担う領域でもあります。

企業に求められるのは、本人の困りごとを早めに把握し、必要な支援につながるための「橋渡し役」になることです。

グループホームや支援施設との情報連携

従業員がグループホームなどで生活している場合、生活の場と職場が連携することで、本人をより安定して支えることができます。

たとえば、生活の場で睡眠リズムの乱れが見られる、食事が取れていない、休日の過ごし方が不安定になっているといった変化は、職場での勤怠や集中力にも影響することがあります。

逆に、職場で元気がない、ミスが増えている、遅刻が増えているといった変化が、生活面の不調のサインであることもあります。

本人の同意やプライバシーへの配慮を前提に、必要な範囲で情報を共有できる関係を築いておくことが大切です。

成年後見制度などの選択肢を知っておく

金銭管理や契約手続きに大きな不安がある場合、成年後見制度などの仕組みが選択肢になることがあります。

成年後見制度は、判断能力が不十分な方の財産管理や契約行為を支える制度です。ただし、本人の権利に深く関わる制度であり、企業が利用を勧めたり、判断したりするものではありません。

企業としてできることは、必要に応じて情報提供を行い、本人や家族が専門家に相談できるようにつなぐことです。

制度の利用ありきではなく、本人の意思や生活状況を大切にしながら、どのような支援が合っているのかを考える姿勢が求められます。

障害者就業・生活支援センターとの連携

障害者就業・生活支援センターは、障害のある方の就業面と生活面を一体的に支援する機関です。

企業は、従業員の生活面の課題について相談したり、地域の福祉サービスや支援機関を紹介してもらったりすることができます。

日頃から地域の支援機関と顔の見える関係をつくっておくことで、いざというときに相談しやすくなります。特に、企業の担当者だけでは判断が難しい場合、専門的な視点から助言を得られることは大きな支えになります。

職場でできる従業員本人の自立支援

「親なきあと」に備えるうえでは、支援体制を整えることと同じくらい、本人が少しずつ自分でできることを増やしていくことも大切です。

企業は、日々の業務や面談、職場での関わりを通じて、本人の自己管理力や相談する力、判断する力を育てることができます。

大きな変化を一度に求めるのではなく、小さな経験を積み重ねることが、自立への大切な一歩になります。

給与明細を一緒に確認し、働くこととお金のつながりを知る

給与支給のタイミングで、本人と一緒に給与明細を確認することは、金銭感覚を育てるきっかけになります。

総支給額、控除額、手取り額、社会保険料や税金などを一つひとつ説明することで、自分が働いた結果として給与を受け取っていることや、社会の仕組みの中で働いていることを理解しやすくなります。

ただし、給与やお金の話はとても個人的な内容です。本人の同意を前提に、必要な範囲で、丁寧に行うことが大切です。

通院や役所手続きのための休暇取得をサポートする

これまで親が付き添っていた通院や役所での手続きも、少しずつ本人が自分で行えるようになることが、自立につながります。

企業としては、有給休暇の申請方法や、事前に必要な手続きの確認方法などを丁寧に伝えることができます。

一人で行くことに不安がある場合は、必要な持ち物や当日の流れを一緒に確認するだけでも、本人の安心につながります。

自分の予定を自分で管理し、必要な手続きを行う経験は、社会人としての自信にもつながります。

自分で考える機会をつくる業務指導

日々の業務の中でも、自立を支える関わりはできます。

たとえば、常に細かく指示を出すだけでなく、「次は何をすればよいと思いますか」「困ったときは誰に相談しますか」と問いかけることで、本人が考える機会をつくることができます。

もちろん、本人の特性に応じて、手順を見える化したり、判断の選択肢を絞ったりする工夫は必要です。

大切なのは、失敗を責めるのではなく、小さな成功体験を積み重ねられる環境を整えることです。職場での成功体験は、本人の自信となり、生活面での自立にもつながっていきます。

「親なきあと」を見据えた企業の取り組み例

障害のある従業員の「親なきあと」に向き合う企業では、すでにさまざまな取り組みが始まっています。

ここでは、企業が取り組みを検討する際の参考として、代表的な例を紹介します。

家族向けセミナーを開催し、早めの意識共有を行う

従業員の家族を対象に、将来の暮らしや制度について学ぶセミナーを開催する企業があります。

親が元気なうちから「親なきあと」について考える機会をつくることで、家族だけで抱え込まず、早めに準備を始めるきっかけになります。

セミナーでは、成年後見制度、障害年金、福祉サービス、住まい、相続など、将来に関わるテーマを扱うことが考えられます。

企業が家族と一緒に学ぶ場をつくることは、本人の将来を支える関係づくりにもつながります。

専門相談員を配置し、福祉サービスへの橋渡しを行う

社内に社会福祉士や精神保健福祉士などの専門職を配置し、従業員や家族からの相談に対応している企業もあります。

専門相談員がいることで、本人の状況に応じた助言ができ、必要に応じて地域の福祉サービスや支援機関につなぐことができます。

また、プライバシーに配慮された相談体制があることで、問題が大きくなる前に相談しやすくなるというメリットもあります。

専門職を社内に置くことが難しい場合でも、外部の相談先と連携する仕組みを整えることで、同じような役割を補うことができます。

生活スキルを学ぶ機会を設ける

特例子会社などでは、業務スキルだけでなく、生活スキルを学ぶ機会を設けているケースもあります。

金銭管理、健康管理、コミュニケーション、休日の過ごし方、困ったときの相談方法など、働き続けるために必要な力は、仕事の中だけで育つものではありません。

生活スキルを学ぶ機会があることで、本人が自分の暮らしを少しずつ整えられるようになり、長期的な職場定着にもつながります。

障害者雇用の「親なきあと問題」に関するよくある質問

障害のある従業員の「親なきあと問題」に対して、企業はまず何から始めればよいですか?

まずは、本人との信頼関係をつくり、現状を丁寧に把握することから始めることが大切です。

いきなり将来の話に踏み込むのではなく、日々の業務や体調、生活の中で困っていること、家族以外に相談できる人がいるかなどを、本人のペースに合わせて確認していきます。

そのうえで、必要に応じて家族や支援機関とも連携し、少しずつ将来に向けた準備を進めていくことが望ましいです。

家族と「親なきあと」について話すとき、企業はどのような点に配慮すべきですか?

「親なきあと」は、家族にとって非常にデリケートなテーマです。

企業側の不安や課題感を一方的に伝えるのではなく、まずは家族の思いや悩みに耳を傾ける姿勢が大切です。

「会社として何かを管理したい」という伝え方ではなく、「本人が安心して働き続けるために、会社としてできることを一緒に考えたい」という姿勢で向き合うことが望ましいです。

また、本人の同意やプライバシーへの配慮を欠かさないことも重要です。

企業は従業員の私生活までサポートすべきなのでしょうか?

企業が従業員の私生活を直接管理する必要はありません。

ただし、生活面の課題が勤怠や就労継続に影響することはあります。そのため、企業としては、困りごとに気づいたときに必要な支援先へつなぐ、相談できる窓口を案内する、緊急時の連絡体制を整えるといった間接的な支援が大切になります。

どこまで企業が関わるのかは、本人の意思やプライバシーを尊重しながら、社内ルールとして整理しておくことが望ましいです。

まとめ|親なきあとも安心して働き続けられる職場をつくるために

障害者雇用における「親なきあと問題」は、家庭だけの問題ではなく、企業の安定雇用や職場定着にも関わる大切なテーマです。

親が元気なうちから、本人や家族と少しずつ対話を重ね、緊急時の連絡体制を整え、必要に応じて福祉サービスや専門機関につながれる仕組みをつくっておくことが、将来の安心につながります。

企業がすべてを抱え込む必要はありません。

大切なのは、本人の働く力を信じながら、職場としてできることを整理し、必要な支援につながるための橋渡しを行うことです。

その積み重ねが、障害のある従業員が親なきあとも安心して働き続けられる職場づくりにつながり、企業にとっても、長く人を支える組織づくりの土台になっていきます。

なお、あしたパートナーズでは、障害のある従業員とそのご家族が、将来への不安を一人で抱え込まず、安心して働き続けられる環境づくりを、企業・法人の皆さまとともに進めています。

企業向けの「親なきあと支援プログラム」では、親なきあと問題に関するセミナー・ウェビナーの開催、オンラインコミュニティの利用優待、企業・法人の担当者からの相談対応などを通じて、従業員とご家族のこれからを支える仕組みづくりをサポートしています。

https://www.ashita-partners.com/service/support.html

障害者雇用における定着支援や、ご家族を含めた将来への備えに課題を感じている企業・法人の皆さまは、ぜひ一度ご相談ください。


執筆者

首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役

ともに、“あした”を
つくる。

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