障害のある子の親なきあと準備|未成年のうちから始める生活設計ロードマップ
障害のあるお子さまを育てるなかで、「親がいなくなったあと、この子はどのように暮らしていくのだろう」と不安を感じることは、決して特別なことではありません。
将来の住まいや生活費、日中の活動、支えてくれる人のことなど、考えるべきことが多く、何から手をつければよいのか分からない方もいるでしょう。
この記事では、障害のある子の「親なきあと」に備えるために、未成年のうちから始められる準備を、生活設計のロードマップとして整理します。
すべてを一度に決める必要はありません。お子さまの成長やご家族の状況に合わせて、今できることから少しずつ進めていきましょう。
「親なきあと」の準備を子どもが未成年のうちから始める理由
「親なきあと」の準備を早い段階から始めることには、いくつかの大切な意味があります。
一つは、親に病気や事故などの万が一があった場合でも、お子さまの生活をできる限り途切れさせないためです。
もう一つは、時間をかけて情報を集めることで、お子さまの成長や希望に合った住まい、福祉サービス、日中活動など、より多くの選択肢を検討できることです。
また、早めに準備を始めることで、親自身が抱えている漠然とした不安が整理されることもあります。将来の見通しが少しずつ見えてくると、今のお子さまとの時間にも、これまで以上に落ち着いて向き合いやすくなります。
【年代別】障害のある子の将来設計ロードマップ|未成年の今から始める3ステップ
親なきあとに向けた準備は、お子さまの年齢や発達段階に応じて、少しずつ進めることが大切です。
ここでは、未成年のうちから始められる準備を、3つのステップに分けて紹介します。現在のお子さまの年齢に近いところから確認し、今後の見通しを立てる参考にしてください。
ステップ1:【乳幼児期~学齢期】将来の暮らしの土台をつくる
乳幼児期から学齢期は、将来の自立や生活に向けた土台をつくる時期です。
この段階で具体的な進路や住まいを決める必要はありません。利用できる福祉制度や支援機関とつながりながら、お子さまの特性や生活の様子を理解し、記録しておくことが、将来の選択肢を広げます。
利用できる福祉制度を確認する
まずは、お住まいの自治体で利用できる福祉制度を確認しましょう。
未成年の障害のある子を対象とした制度には、一定の要件を満たす場合に支給される「特別児童扶養手当」や「障害児福祉手当」などがあります。
こうした制度の多くは、対象となっていても自動的に利用できるわけではなく、申請が必要です。
市区町村の障害福祉担当窓口や、医療機関のソーシャルワーカー、相談支援事業所などに、利用できる制度や必要な手続きについて確認しておきましょう。
子どもの特性や希望を記録する「支援ノート」をつくる
お子さまの好きなことや苦手なこと、得意なこと、コミュニケーションの方法、医療情報、服薬内容、かかりつけ医、生活上の配慮などを、ノートやデータにまとめておくことも大切です。
こうした記録は、「支援ノート」や「あんしんノート」などと呼ばれます。
親以外の人が支援に関わることになったときに、お子さまのことを理解してもらうための大切な引継ぎ資料になります。
一度に完成させようとせず、写真やイラストも使いながら、お子さまの成長に合わせて少しずつ更新していきましょう。
生活リズムを整え、できることを少しずつ増やす
将来、地域で安心して暮らしていくためには、毎日の生活リズムが大切な土台になります。
決まった時間に起きる、食事をとる、眠るといった基本的な生活習慣を整えながら、着替えや片付け、身の回りのことなど、お子さまの発達段階に応じた経験を重ねていきます。
すべてを一人でできるようにすることが目的ではありません。
本人ができることと、周囲の支援が必要なことを少しずつ把握していくことが、将来の生活設計につながります。
ステップ2:【思春期~】成人後の生活を具体的に考える
思春期以降は、成人後の暮らしや日中の過ごし方を、少しずつ具体的に考えていく時期です。
本人がどのような暮らしを望んでいるのか、どのような活動に関心があるのかを確認しながら、学校の先生や相談支援専門員などと一緒に準備を進めます。
本人の意思を尊重し、選択するために必要な情報や体験の機会を増やしていくことが大切です。
障害基礎年金の申請に向けて準備する
障害基礎年金は、成人後の生活を支える大切な収入の一つです。
20歳前に初診日がある障害について一定の要件を満たす場合、20歳以降に障害基礎年金を受給できる可能性があります。
申請には診断書や病歴・就労状況等申立書などが必要となり、医療機関への依頼や過去の記録の確認に時間がかかることもあります。
20歳を迎える直前になって慌てないよう、年金事務所や市区町村の国民年金担当窓口で、必要な手続きや書類を早めに確認しておくと安心です。
将来の住まいについて情報を集める
親なきあと、お子さまがどこで暮らすのかは、生活設計のなかでも大きなテーマです。
選択肢には、自宅で福祉サービスを利用しながら暮らす方法のほか、数人で共同生活を送る「グループホーム(共同生活援助)」や、生活全般について支援を受ける「障害者支援施設」などがあります。
地域によっては空きが少ない場合や、希望する支援内容に合う住まいが限られている場合もあります。
在学中から見学や体験利用を行い、本人が安心して過ごせる環境や、必要な支援内容を確認していきましょう。
日中の活動場所や就労先を見学する
学校を卒業したあとの日中活動についても、早めに情報を集めておきましょう。
一般企業への就職を目指すための「就労移行支援」、雇用契約を結んで働く「就労継続支援A型」、本人のペースで作業などに取り組む「就労継続支援B型」、創作活動や日常生活上の支援を受ける「生活介護」など、さまざまな選択肢があります。
名称が同じ福祉サービスであっても、事業所によって支援内容や雰囲気は異なります。
学校とも相談しながら複数の事業所を見学し、本人の特性や希望に合う場所を探していくことが大切です。
ステップ3:【親の万が一に備える】年齢にかかわらず始めたい準備
親の病気や事故など、予測できない出来事への備えは、お子さまの年齢にかかわらず考えておきたいことです。
すべてをすぐに法的な手続きへ結びつける必要はありません。まずは、親に何かあったときに誰へ連絡するのか、どこで暮らすのか、必要な支援は何かを整理するところから始めましょう。
成年後見制度について正しく理解する
成年後見制度は、判断能力が十分でない人の財産管理や契約手続きなどを支援する制度です。
本人の判断能力が低下する前に契約を結ぶ「任意後見制度」と、支援が必要になったあとに家庭裁判所が成年後見人等を選任する「法定後見制度」があります。
なお、障害のある子が未成年の段階で、親が子どもの任意後見人を決めておく制度ではありません。本人が成人し、契約内容を理解して任意後見契約を結ぶことができるかどうかなど、個別の検討が必要です。
制度には財産を守る役割がある一方、原則として本人が亡くなるまで続くことや、後見人等への報酬が発生する場合があることなども理解しておく必要があります。
成年後見制度だけを前提にせず、本人の意思決定をどのように支えるかという視点から検討することが大切です。
きょうだいに将来のことを伝えておく
障害のあるお子さまにきょうだいがいる場合、親なきあとの支援を、無意識のうちにきょうだいへ期待してしまうことがあります。
しかし、きょうだいにもそれぞれの生活や人生があります。親の代わりをすべて担ってもらうことを前提にするのではなく、何をお願いしたいのか、何は福祉サービスや制度によって支えるのかを整理しておくことが重要です。
親が元気なうちから、将来について家族で話し合い、準備している内容を共有しておくことが、障害のある子ときょうだいの双方の安心につながります。
障害のある子にお金を残すために考えたい3つの方法
親なきあとの生活を考えるうえで、お金は重要なテーマです。
ただし、財産を多く残すことだけが準備ではありません。毎月の収入と支出を確認し、お子さまが必要なときに必要な金額を使える仕組みまで考えることが大切です。
方法1:障害年金や各種手当などの公的制度を活用する
成人後の生活を支える基本的な収入には、障害基礎年金や自治体の各種手当などがあります。
まずは利用できる制度を把握し、必要な申請を確実に行うことが生活設計の出発点です。
障害年金の受給額だけで生活費のすべてを賄えるとは限らないため、住居費、食費、光熱費、福祉サービスの自己負担、医療費、余暇費などを整理し、不足する金額を確認しておきましょう。
方法2:「遺言」や「家族信託」で財産の引継ぎ方を考える
親の財産を誰に、どのように引き継ぐかを決める方法として「遺言」があります。
遺言によって財産の分け方を指定することはできますが、相続後のお金を誰がどのように管理し、本人のために使うのかまでは十分に設計できない場合があります。
一方、「家族信託」は、財産を管理する人に託し、あらかじめ定めた目的やルールに沿って管理・活用してもらう仕組みです。
ただし、家族信託がすべての家庭に適しているわけではありません。財産の内容や家族関係、受託者を担える人がいるかなどを踏まえ、遺言や成年後見制度との違いを確認しながら検討する必要があります。
方法3:生命保険や障害者扶養共済制度を活用する
生命保険は、親に万が一のことがあったときに、まとまった生活資金を準備する方法の一つです。
ただし、お子さまを死亡保険金の受取人にする場合、受け取った保険金を本人が管理できるか、支援する人がいるかについても考えておく必要があります。
保険金を一定のルールに沿って交付する「生命保険信託」が利用できる場合もあります。
また、「障害者扶養共済制度」は、保護者が掛金を納め、保護者が亡くなった場合などに、障害のある方へ終身にわたり年金が支給される制度です。
加入できる年齢や健康状態などの要件があるため、お住まいの自治体に早めに確認しましょう。
一人で抱え込まないための相談先
親なきあとの準備には、福祉、住まい、お金、相続、法律など、さまざまな分野が関係します。
一つの窓口だけですべてが解決するとは限りませんが、最初から多くの専門家へ相談する必要もありません。現在困っていることや知りたいことに応じて、身近な相談先からつながっていきましょう。
地域の福祉に関する相談窓口
福祉サービスや生活全般については、市区町村の障害福祉担当窓口、基幹相談支援センター、相談支援事業所などが相談先となります。
18歳未満のお子さまについては、児童相談所のほか、児童発達支援センターや学校、医療機関などに相談できる場合もあります。
まずは身近な支援者へ、「何を相談したらよいか分からない」と伝えるところから始めても問題ありません。
お金や法律に関する相談先
遺言、成年後見制度、家族信託、相続などについては、弁護士、司法書士、税理士などが相談先となります。
生活費や教育費、老後資金、保険を含めた家計全体の見通しを確認したい場合は、ファイナンシャルプランナーへの相談も選択肢の一つです。
資格だけでなく、障害のある方の暮らしや福祉制度について理解があるか、本人や家族の希望を丁寧に聞いてくれるかという点も確認しましょう。
親の会やNPO法人など、同じ立場の家族とのつながり
地域の親の会や家族会、NPO法人などでは、同じ立場の家族同士で情報交換を行っていることがあります。
実際に福祉サービスを利用した経験や、住まいを探した経験など、当事者家族だからこそ分かる情報に触れられることもあります。
一人で不安を抱え続けず、安心して話せる場所をいくつか持っておくことも、長期的な備えの一つです。
障害のある子の「親なきあと」準備に関するよくある質問
子どもがまだ小さい場合、何から始めればよいですか?
まずは、利用できる福祉制度を確認し、お子さまの情報をまとめた「支援ノート」をつくることから始めましょう。
医療情報や生活上の配慮、好きなこと、苦手なことなどを記録しておくと、将来支援者へ引き継ぐ際にも役立ちます。
同時に、親に万が一のことがあった場合の緊急連絡先を整理しておくことも大切です。
親なきあとの生活費として、いくら残せば安心ですか?
必要な金額は、将来の住まいや受ける支援、本人の収入などによって異なるため、一律には決められません。
まずは、障害年金や手当などの収入を確認し、グループホームの家賃や食費、医療費、日中活動にかかる費用など、毎月の支出を試算します。
そのうえで不足する金額を算出し、預貯金、生命保険、共済、相続財産などを組み合わせて準備します。
成年後見制度を利用すると、子どもの自由がなくなるのでしょうか?
成年後見制度を利用したからといって、本人の自由がすべてなくなるわけではありません。
制度は、本人の財産や権利を守り、不利益な契約などを防ぐことを目的としています。
一方で、制度の類型によっては契約や財産管理に一定の制限が生じます。本人の意思をどのように尊重するか、ほかの支援方法で対応できないかも含めて、慎重に検討することが必要です。
まとめ|焦らず、子どもの成長に合わせて将来の準備を進めよう
障害のある子の「親なきあと」準備は、一度にすべてを決めるものではありません。
お子さまの成長やご家族の状況、福祉制度の変化に合わせて、何度も見直しながらつくっていく生活設計です。
大切なのは、将来への不安だけに目を向けるのではなく、親子で過ごす今の時間を大切にしながら、できることを一つずつ積み重ねていくことです。
福祉制度を調べる、支援ノートをつくる、住まいや日中活動の場所を見学する、家族で将来について話してみる。そうした一つひとつの準備が、お子さまとご家族のこれからの安心につながっていきます。
なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。
個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。
きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。
「何から考えればよいか分からない」
「家族だけでは話し合いが進まない」
という段階でも構いません。
まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
