障害児の進路選択|卒業後の生活介護や就労、家族ができる支援
障害のあるお子さまの学校卒業が近づくにつれ、「卒業後はどこで、どのように過ごすのだろう」と不安を感じる保護者の方は少なくありません。
日中の居場所や仕事、住まい、将来の生活費、そして親なきあとのこと。考えることが多く、何から準備すればよいのか分からない場合もあるでしょう。
一方で、学校卒業後の進路には、一般企業への就職、就労支援、生活介護、進学など、さまざまな選択肢があります。
この記事では、障害のある子の卒業後の進路や、生活介護・就労系福祉サービスの内容、地域生活に向けた準備、家族ができる支援について分かりやすく解説します。
卒業後のことを親子で考える
特別支援学校や特別支援学級に在籍するお子さまの卒業は、大きな節目の一つです。
同時に、これまで日中の生活を支えてきた「学校」という環境から離れることに、不安を感じるご家族も多いでしょう。
「日中はどこで過ごすのか」「働くことはできるのか」「地域で生活していけるのか」といった疑問は、お子さまの将来を大切に考えているからこそ生まれるものです。
すぐにすべての答えを出す必要はありません。情報を集め、見学や実習を重ねることで、本人に合った進路や暮らし方が少しずつ見えてきます。
特別支援学校卒業は、新しい生活のスタート
学校卒業は教育課程の終わりですが、人生のゴールではありません。
お子さまが一人の成人として、地域の中で自分らしい生活をつくっていくための、新たなスタートです。
学校から社会へ活動の場が移るこの時期には、卒業後の一日を具体的にイメージしておくことが大切です。
平日の日中をどこで過ごすのか、どのような支援が必要なのか、どのような活動に本人が関心を持っているのかを、親子で少しずつ確認していきましょう。
進路選択は高等部在学中から|大まかな準備スケジュール
卒業後の進路選択は、高等部の3年間を通して段階的に進めるのが一般的です。
高等部1年生では、生活介護や就労支援など、卒業後にどのような選択肢があるのか、全体像を把握するところから始めます。
高等部2年生では、事業所や企業の見学、現場実習などを通じて、本人が実際の環境を体験します。
高等部3年生では、本人や家族の希望、実習での様子、必要な支援内容を踏まえて進路先を検討し、福祉サービスの申請や利用契約などの準備を進めます。
ただし、学校や地域によってスケジュールは異なります。学校の進路担当者と早めに確認しておくと安心です。
【全体像】障害のある子の学校卒業後の主な進路
特別支援学校高等部などを卒業した後の主な進路は、次の4つに分けられます。
1.一般企業へ就職する
一般企業への就職を目指す場合、障害者雇用枠での応募が選択肢の一つとなります。
ハローワークの専門窓口や障害者就業・生活支援センターなどでは、求人紹介、就職活動、職場定着に関する支援を受けられます。
在学中の企業実習を通じて、本人がどのような仕事内容や職場環境に合っているのかを確認しておくことが重要です。
就職することだけを目標にするのではなく、必要な配慮を受けながら無理なく働き続けられるかという視点で考えましょう。
2.福祉の支援を受けながら働く
すぐに一般企業で働くことが難しい場合には、福祉的な支援を受けながら働く方法があります。
主な就労系福祉サービスには、次の3つがあります。
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
同じ種類のサービスでも、仕事内容や支援体制、事業所の雰囲気は異なります。
名称や制度だけで判断せず、実際に見学や体験をして、本人が安心して通える場所かを確認することが大切です。
3.生活介護などの日中活動の場へ通う
働くことだけが社会参加ではありません。
日中の活動を通じて生活リズムを整えたり、心身の機能を維持したり、地域の人と関わったりすることも、大切な社会参加の一つです。
生活介護では、食事や排泄、入浴などの介助を受けながら、創作活動、軽作業、運動、レクリエーションなどに取り組みます。
本人が安心して過ごせる日中の居場所を持つことは、卒業後の安定した生活につながります。
4.大学や専門学校などへ進学する
本人の希望や学力によっては、大学、短期大学、専門学校などへ進学する道もあります。
障害学生支援室などを設置し、授業や学生生活に必要な合理的配慮を行う学校も増えています。
進学を検討する場合は、オープンキャンパスへの参加に加えて、入学後に受けられる支援や相談体制について、事前に確認しておきましょう。
「働く」を支える3つの就労支援サービス
就労移行支援|一般就労を目指すための準備
就労移行支援は、一般企業への就職を目指す障害のある方を対象としたサービスです。
原則として2年間の利用期間の中で、職業訓練、ビジネスマナー、パソコン操作、職場実習、就職活動などの支援を受けます。
本人に合う仕事や職場環境を一緒に探し、就職後の定着を支援している事業所もあります。
「働きたい気持ちはあるけれど、どの仕事が合うか分からない」「就職前に必要な経験を積みたい」という場合に検討されるサービスです。
就労継続支援A型|雇用契約を結んで働く
就労継続支援A型は、事業所と雇用契約を結び、支援を受けながら働くサービスです。
雇用契約に基づいて賃金が支払われ、原則として最低賃金が適用されます。
仕事内容は、事務作業、清掃、製造、調理補助、接客など、事業所によってさまざまです。
一般企業で働くことは難しくても、一定の支援があれば継続して働ける方が主な対象となります。
就労継続支援B型|本人のペースで作業に取り組む
就労継続支援B型は、雇用契約を結ばず、本人の体調やペースに合わせて作業などに取り組むサービスです。
作業の対価として支払われるのは、給与ではなく「工賃」です。
軽作業、製品づくり、農作業、清掃、菓子製造など、活動内容は事業所によって異なります。
生活リズムを整えたい方や、まずは定期的に外出し、社会とのつながりを持ちたい方にとっても選択肢となります。
本人に合う就労支援を選ぶポイント
就労支援を選ぶ際は、「就職できるか」だけで判断するのではなく、本人の体力、得意なこと、苦手な環境、必要な支援、通所時間などを総合的に考えます。
将来的に一般就労を目指す場合は就労移行支援、雇用契約のもとで働きたい場合はA型、本人のペースで作業や社会参加を続けたい場合はB型が主な選択肢です。
ただし、本人に合うかどうかは、実際の環境でなければ分からないこともあります。複数の事業所を見学し、実習後の本人の表情や疲れ方も含めて確認しましょう。
「日中の暮らし」を支える生活介護
生活介護では何をするのか
生活介護は、日常的に介護や見守りを必要とする方が、日中の時間を安心して過ごすための福祉サービスです。
事業所では、食事、排泄、入浴などの日常生活上の支援に加えて、創作活動、軽作業、散歩、音楽、運動、レクリエーションなどが行われます。
理学療法士や作業療法士などによる機能訓練を取り入れている事業所もあります。
活動内容だけでなく、本人が落ち着いて過ごせるか、職員が本人の特性を理解しているかという点も大切です。
生活介護の利用対象となる障害支援区分
生活介護の利用には、原則として障害支援区分3以上が必要です。50歳以上の場合は、区分2以上が対象となります。
障害支援区分は、心身の状態や日常生活上の支援の必要性などをもとに、市区町村が認定します。
利用を希望する場合は、市区町村の障害福祉担当窓口や相談支援事業所へ相談し、申請手続きを進めます。
医療的ケアが必要な場合の確認事項
たんの吸引や経管栄養など、日常的な医療的ケアが必要な場合は、看護師の配置状況や受入体制を確認する必要があります。
見学時には、次のような点を確認しましょう。
- 看護職員が配置される時間帯
- 対応可能な医療的ケア
- 緊急時の連絡・受診体制
- 医療機関との連携状況
- 送迎時の対応
同じ生活介護事業所でも、対応できる医療的ケアは異なります。本人が安心して通える体制があるかを、具体的に確認することが大切です。
親元を離れた地域生活と住まいの選択肢
卒業後の進路を考える際には、日中の活動だけでなく、将来どこで暮らすのかという視点も欠かせません。
卒業後すぐに親元を離れる必要はありませんが、時間をかけて準備することで、本人と家族の選択肢が広がります。
グループホーム(共同生活援助)での暮らし
グループホームは、障害のある方が地域の住居で、世話人や生活支援員の支援を受けながら暮らす福祉サービスです。
食事、服薬、金銭管理、相談など、必要な支援を受けながら生活します。
支援体制や夜間の職員配置、建物の形、入居者の人数、食事の提供方法などは、グループホームごとに異なります。
本人の性格や生活リズムに合うかを確認するためにも、複数のホームを見学して比較することが大切です。
一人暮らしに向けた自立訓練(生活訓練)
将来的に一人暮らしを希望する場合には、自立訓練(生活訓練)を利用する方法があります。
金銭管理、食事、掃除、洗濯、公共交通機関の利用、対人関係など、地域生活に必要な力を身につけるための支援を受けます。
利用期間には原則として限りがあるため、本人がどのような暮らしを目指すのかを整理したうえで活用することが大切です。
ショートステイや体験利用から始める
親元を離れて暮らすことに不安がある場合は、ショートステイ(短期入所)やグループホームの体験利用を活用する方法があります。
短期間でも親と離れて過ごす経験は、本人にとって新しい環境に慣れる機会となります。
家族にとっても、本人がどのような支援を必要としているのか、親以外の人とどのように過ごすのかを知る機会になります。
最初から長期間の利用を目指すのではなく、本人の様子を見ながら段階的に経験を重ねていきましょう。
子どもの意思を尊重した進路選択
進路選択で大切なのは、本人の意思や希望をできる限り丁寧に確認することです。
言葉で自分の気持ちを伝えることが難しい場合でも、表情、しぐさ、行動、体調の変化などに、本人の気持ちが表れることがあります。
本人の「やりたい」を見つける意思決定支援
意思決定支援とは、本人が理解しやすい方法で情報を伝え、自分で選択できるように支えることです。
写真やイラストを使って選択肢を示したり、実際に見学や体験をしたあとに反応を確認したりする方法があります。
「どちらが正解か」を大人が決めるのではなく、本人が選びやすい環境を整え、選んだ結果を尊重する経験を重ねていきましょう。
学校生活や実習から適性を確認する
高等部で行われる現場実習は、本人の得意なことや苦手な環境を知る大切な機会です。
作業内容だけでなく、通勤や通所の負担、休憩の取り方、周囲とのコミュニケーション、実習後の疲れ方も確認しましょう。
学校生活の中で本人が楽しそうに取り組んでいる活動や、集中している場面にも、進路選択のヒントがあります。
「親なきあと」に向けて家族ができる準備
卒業後の進路は、成人後の暮らしや「親なきあと」にもつながっています。
今すぐすべてを決める必要はありませんが、公的制度や相談先について知り、親以外の支援者とのつながりを少しずつつくっておくことが大切です。
障害年金や各種手当を確認する
成人後の生活を支える収入の一つに、障害基礎年金があります。
20歳前に初診日がある障害について、一定の要件を満たす場合には、20歳以降に受給できる可能性があります。
重度の障害がある場合には、特別障害者手当などの対象となることもあります。
いずれも申請が必要なため、20歳を迎える前から、年金事務所や市区町村の窓口で必要書類や手続きを確認しておきましょう。
成年後見制度を正しく理解する
成年後見制度は、判断能力が十分でない方の財産管理や契約手続きを支援し、権利を守る制度です。
家庭裁判所が成年後見人等を選任する「法定後見制度」と、本人が判断能力のあるうちに契約を結ぶ「任意後見制度」があります。
制度には財産を守る役割がある一方で、利用開始後は原則として本人が亡くなるまで継続することや、報酬が発生する場合があることなども理解しておく必要があります。
本人の状況や将来の暮らしを踏まえ、必要性を慎重に考えましょう。
相談支援専門員とつながる
相談支援専門員は、福祉サービスの利用に関する相談を受け、サービス等利用計画の作成や関係機関との連絡調整を行います。
進路選択の段階から関わってもらうことで、生活介護、就労支援、住まい、短期入所など、本人に必要なサービスを整理しやすくなります。
卒業後の暮らしを家族だけで考えるのではなく、本人を知る支援者を少しずつ増やしていくことが、将来の安心につながります。
障害のある子の進路選択に関するよくある質問
生活介護と就労支援のどちらを選べばよいですか?
本人の希望、体力、心身の状態、必要な介護や支援の程度を踏まえて考えます。
働くことや作業への関心があり、一定時間活動できる場合には就労支援が選択肢となります。
日常的な介護や見守りが必要で、日中を安心して過ごすことを重視する場合には、生活介護が考えられます。
制度の名称だけで決めず、見学や実習を通じて本人の様子を確認しましょう。
成人後の準備はいつから始めればよいですか?
高等部に入学した頃から、少しずつ情報収集を始めるとよいでしょう。
1年生では選択肢を知り、2年生では見学や実習を行い、3年生では進路決定や申請手続きを進めるという流れが一つの目安です。
住まいや親なきあとの準備については、卒業後すぐに結論を出す必要はありません。将来を見据え、体験利用などを重ねていくことが大切です。
子どもの意思を尊重するには、どのように関わればよいですか?
本人が理解しやすい言葉や写真を使って選択肢を伝え、実際に見学や体験をする機会をつくりましょう。
言葉だけでなく、表情や行動、体調の変化にも目を向けます。
本人の小さな「好き」「楽しい」「行きたくない」というサインを受け止め、家族や学校、支援者で共有することが大切です。
まとめ|本人に合った卒業後の暮らしを少しずつ考える
障害のあるお子さまの進路選択は、卒業先を決めるだけではありません。
日中をどのように過ごすのか、どのような支援があれば力を発揮できるのか、将来どこで暮らしたいのかを考える、生活設計の一部です。
生活介護、就労移行支援、就労継続支援A型・B型、一般就労、進学など、選択肢は一つではありません。
大切なのは、周囲が先に答えを決めるのではなく、見学や実習を重ねながら、本人の意思や日々の様子を丁寧に確認することです。
学校卒業を新しい生活の始まりとして捉え、家族のペースで、一つずつ準備を進めていきましょう。
なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。
個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。
きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。
「何から考えればよいか分からない」
「家族だけでは話し合いが進まない」
という段階でも構いません。
まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
