親なきあとの成年後見制度|財産管理と身上保護の準備と対策
知的障害や精神障害などのある子を持つ親御さんにとって、「親なきあと、この子の暮らしや財産は誰が支えるのだろう」という不安は、とても切実なものです。
親が担ってきた役割には、日々の生活支援だけでなく、預貯金や障害年金の管理、福祉サービスの契約、入院や住まいに関する手続きなども含まれています。
親が支援できなくなったあとも本人の暮らしを守る方法の一つが、成年後見制度です。
この記事では、親なきあとに備えて知っておきたい成年後見制度の基本的な役割や、財産管理と身上保護の内容、利用する際の注意点、親が元気なうちからできる準備について解説します。
なお、成年後見制度については、2026年6月に改正法が公布され、本人に必要な範囲と期間で利用できる制度への見直しが決まっています。具体的な手続きや運用は施行までに整備されるため、実際に利用を検討する際は、その時点の最新情報を確認することが大切です。
親なきあとに備えて知っておきたい2つの支援
親なきあとを考えるうえでは、「財産管理」と「身上保護」という2つの役割を分けて整理することが大切です。
お金だけを残しても、本人が必要な福祉サービスを契約できなければ、安定した生活につながらないことがあります。
反対に、生活を支援する人がいても、本人の財産や収入を適切に管理する仕組みがなければ、生活費の支払いや契約手続きに支障が出る可能性があります。
本人のお金や財産を守る「財産管理」
財産管理とは、本人名義の預貯金、不動産、障害年金、各種手当などを管理し、生活に必要な支払いを行うことです。
具体的には、家賃や光熱費、福祉サービスの利用料、税金、保険料、医療費などの支払いが挙げられます。
本人が契約内容を十分に理解することが難しい場合には、不必要な高額商品を購入したり、悪質商法や詐欺の被害に遭ったりする可能性もあります。
本人の財産を守りながら、本人が望む暮らしのために適切に使える状態をつくることが、財産管理の目的です。
本人の暮らしを法的な手続きから支える「身上保護」
身上保護とは、本人が必要な医療や福祉サービスを受けられるよう、契約や申請などの法律行為を支援することです。
例えば、次のような手続きが含まれます。
・福祉サービスの利用契約
・グループホームや施設への入退去手続き
・病院への入院契約
・介護保険や障害福祉制度に関する申請
・本人の生活状況や支援内容の確認
身上保護は、後見人等が本人を直接介護したり、日常的な見守りを行ったりすることではありません。
本人が適切な支援を受けられるよう、生活環境を確認し、必要な契約や調整を行う役割です。
成年後見制度とは
成年後見制度は、知的障害、精神障害、認知症などにより判断能力が十分でない方について、財産管理や契約手続きを法的に支援する制度です。
家庭裁判所が選任した支援者が、本人に必要な範囲で代理や同意、契約の取消しなどを行い、本人の権利と生活を守ります。
制度を利用する際に最も大切なのは、支援者が本人に代わってすべてを決めることではありません。
本人の意思や希望を確認し、本人が自分で決めるために必要な支援を行ったうえで、どうしても難しい部分を法的に補うことが基本となります。
現行制度と改正後の方向性
現在の法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」に分かれています。
しかし、2026年6月に公布された改正法では、後見と保佐を廃止し、補助制度へ一元化することが決まりました。
改正後は、本人の判断能力を一律の類型へ当てはめるのではなく、本人が実際に必要としている法律行為について、支援者の権限を個別に定める仕組みとなります。
また、必要性がなくなった場合の終了や、本人の状況に応じた支援者の交代など、制度を柔軟に見直せる方向へ改められます。
そのため、今後の成年後見制度を考える際は、「本人の判断能力がどの類型に当たるか」だけではなく、次の点を具体的に整理することが重要になります。
・本人が自分でできること
・意思決定を支援すればできること
・代理や同意が必要な法律行為
・支援が必要となる期間
・本人の暮らしに合う支援者
任意後見制度との違い
成年後見制度には、家庭裁判所が支援者を選任する法定の制度のほかに、任意後見制度があります。
任意後見制度は、本人が契約内容を理解できるうちに、将来判断能力が低下した場合に支援してもらう人や、支援してもらう内容を公正証書で決めておく制度です。
ただし、親が障害のある子に代わって任意後見人を決めておける制度ではありません。
任意後見契約を結ぶのは本人であり、本人が契約の意味や内容を理解し、自分の意思で契約できることが必要です。
そのため、障害のある子の親なきあと対策では、本人の判断能力や意思確認の方法を踏まえ、法定の成年後見制度、任意後見制度、その他の支援方法のうち、何が適しているかを個別に考える必要があります。
成年後見制度で支援できること
預貯金や障害年金の管理
本人の収入と支出を確認し、預貯金、障害年金、各種手当などを管理します。
生活費や福祉サービスの利用料などを支払い、本人の財産が不適切に使われないようにします。
支援者には、財産の状況や支援内容について家庭裁判所などへ報告することが求められます。
福祉サービスや住まいの契約
本人がグループホームや障害福祉サービスを利用する際の契約、変更、終了などを支援します。
契約すること自体を目的にするのではなく、本人の希望や生活状況を確認し、本人にとって適切なサービスかを検討することが大切です。
不利益な契約から本人を守る
付与された権限の範囲に応じて、本人が十分に理解しないまま締結した契約を取り消したり、契約前に同意したりすることで、消費者被害から本人を守ります。
改正後は、本人に必要な法律行為を個別に定める仕組みとなるため、どの契約について、どのような支援が必要かを具体的に検討することになります。
成年後見制度では対応できないこと
成年後見制度を利用しても、親が行ってきたすべての支援を後見人等が引き継ぐわけではありません。
後見人等は、原則として次のような役割を直接担いません。
・食事、入浴、排泄などの身体介護
・日常的な付き添いや見守り
・本人と同居すること
・医療行為そのものを決定すること
・入院や施設入所時の身元保証
・本人の借金などを代わりに支払うこと
介護や日常生活の支援は、ホームヘルプ、グループホーム、生活介護、訪問看護などの福祉・医療サービスによって整える必要があります。
成年後見制度だけで親なきあとの生活全体が支えられるわけではないため、住まいや日中活動、見守り、緊急時の対応も含めて考えることが大切です。
成年後見制度を利用するメリット
法的な権限によって本人の権利を守れる
成年後見制度では、家庭裁判所によって認められた権限に基づき、本人の契約や財産管理を支援します。
悪質商法や詐欺などによる不利益を防ぎ、本人の生活に必要な契約を進められることが大きな特徴です。
支援内容を公的に確認できる
支援者は、家庭裁判所などの監督を受けながら職務を行います。
本人の財産や支援内容が定期的に確認されるため、家族や第三者による財産の使い込みを防ぎやすくなります。
親族以外の人にも法的な役割を託せる
親族のなかに財産管理や契約手続きを担える人がいない場合でも、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職や、法人が選任されることがあります。
きょうだいや親族に負担を集中させず、本人に必要な役割を法的に託せる点もメリットです。
成年後見制度を利用する際の注意点
本人が自由に使えるお金とのバランス
成年後見制度は、財産を減らさないことだけを目的とするものではありません。
本人の生活、趣味、外出、旅行など、本人らしい暮らしのために財産を使う視点も大切です。
一方で、本人の利益と関係のない家族への贈与や、リスクの高い資産運用などは、原則として難しくなります。
本人が日常的に使うお金と、支援者が管理する財産の範囲をどのように分けるかを考えておく必要があります。
支援者への報酬が発生する場合がある
専門職や法人などが支援者に選任された場合、本人の財産から報酬が支払われることがあります。
報酬額は一律ではなく、財産の内容や支援事務の難しさ、活動内容などを踏まえて決められます。
将来の制度運用によって報酬の考え方が変わる可能性もあるため、固定的な金額を前提とせず、利用時点で確認することが大切です。
親が希望する人が必ず選ばれるとは限らない
申立ての際に支援者の候補を伝えることはできますが、本人の利益や財産状況、候補者との関係などを踏まえて家庭裁判所が選任します。
そのため、親族を候補者として挙げても、専門職や法人などが選ばれることがあります。
大切なのは、特定の人を選ぶことだけではなく、本人がどのような暮らしを望み、どのような支援を必要としているかを整理して伝えることです。
親が元気なうちにできる5つの準備
STEP1:本人が望む暮らしを整理する
制度を選ぶ前に、本人がどこで、誰と、どのように暮らしたいのかを確認します。
住まい、日中活動、休日の過ごし方、人との関わりなどを整理し、本人が大切にしていることを家族や支援者で共有しましょう。
言葉で希望を伝えることが難しい場合には、日頃の表情や行動、見学や体験利用での様子から本人の意思を確認します。
STEP2:親が担っている役割を書き出す
お金の管理、福祉サービスの契約、通院、服薬、事業所との連絡など、現在親が担っている役割を整理します。
そのうえで、将来どの役割に法的な支援が必要か、福祉サービスで補える役割は何かを分けて考えます。
STEP3:成年後見制度以外の方法も比較する
日常的な金銭管理であれば日常生活自立支援事業、親の財産の引継ぎであれば遺言や信託など、成年後見制度以外の方法が適している場合もあります。
それぞれの制度は目的が異なり、どれか一つで親なきあとの課題をすべて解決できるものではありません。
本人の支援に必要な機能を整理し、役割ごとに適した方法を考えましょう。
STEP4:遺言などで財産の引継ぎ方を決める
成年後見制度は、本人が所有する財産を管理する制度です。親の財産を障害のある子へどのように相続させるかを決めるものではありません。
親の財産を誰に、どのような割合で引き継ぐのかを指定したい場合には、遺言の作成を検討します。
ただし、多くの財産を残すことだけでなく、その財産を本人の生活のためにどのように管理するかまで考えることが重要です。
STEP5:情報を記録し、定期的に見直す
本人の希望、財産、収入、支援者、福祉サービス、緊急連絡先などを、引継ぎノートやサポートブックにまとめます。
成年後見制度の改正や本人の生活状況の変化に合わせて、準備の内容を定期的に見直していきましょう。
親なきあとの成年後見制度に関するよくある質問
成年後見制度と家族信託は、どのように違いますか?
成年後見制度は、本人の財産管理や契約手続きを法的に支援する制度です。
家族信託は、主に親などが所有する財産を、決められた目的に沿って管理・承継するための仕組みです。
家族信託だけでは、本人の福祉サービスや住まいに関する契約を包括的に代理できるわけではありません。目的と役割が異なるため、本人や家族の状況に応じて検討する必要があります。
支援者への報酬は、いつまで支払う必要がありますか?
報酬が発生する場合には、支援者が実際に職務を行っている期間について、本人の財産から支払われます。
改正後は、本人に必要な範囲と期間で制度を利用する方向へ見直されるため、従来のように一律に長期間継続することを前提とせず、支援の必要性を定期的に確認することになります。
具体的な報酬や終了時期は、制度施行後の運用と個別の事情によって異なります。
成年後見制度を利用すれば、本人の介護や身元保証も任せられますか?
成年後見制度が担うのは、主に財産管理や契約などの法律行為です。
食事や入浴などの介護、日常的な見守り、身元保証を当然に引き受ける制度ではありません。
本人の生活を支えるためには、福祉サービス、医療、住まい、相談支援などを組み合わせる必要があります。
まとめ|制度を使うことではなく、本人の暮らしを守ることが目的
成年後見制度は、親なきあとにおける本人の財産管理や身上保護を法的に支える方法の一つです。
一方で、成年後見制度だけで、住まい、介護、日中活動、見守り、家族とのつながりなど、暮らしのすべてを支えられるわけではありません。
大切なのは、最初から制度の利用を前提にするのではなく、本人がどのような暮らしを望み、どの場面で法的な支援を必要としているかを整理することです。
今後の制度改正では、本人に必要な範囲と期間で支援を利用し、状況の変化に合わせて内容を見直す考え方が、これまで以上に重視されます。
親が元気なうちから本人の希望や生活状況を記録し、財産の引継ぎ方や必要な支援を一つずつ整理することが、親なきあとの安心につながります。
なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。
個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。
きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。
「何から考えればよいか分からない」
「家族だけでは話し合いが進まない」
という段階でも構いません。
まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
