ポリファーマシー対策とは?薬剤師が進める医療連携と副作用の管理
ポリファーマシー対策とは、多くの薬を服用することで生じる副作用や飲み間違いなどのリスクを減らし、患者一人ひとりに合った薬物治療を整える取り組みです。
特に高齢者は、複数の病気で複数の医療機関を受診していることが多く、知らないうちに薬の種類が増えていることがあります。
大切なのは、単に薬の数を減らすことではありません。必要な薬を適切に続けながら、現在の身体の状態や生活に合わなくなった薬、重複している薬、副作用の原因となっている可能性のある薬を見直すことです。
その中心的な役割を担うのが薬剤師です。患者や家族から日々の様子を聞き取り、処方全体を確認し、医師や看護師、ケアマネジャーなどと医療連携を図りながら、安全で無理のない服薬管理を支えます。
ポリファーマシーとは
ポリファーマシーは、単に服用している薬の種類が多いことだけを意味するものではありません。
複数の薬を服用することで、副作用、薬物相互作用、飲み間違い、服薬負担などの問題が生じ、本人の健康や暮らしに影響している状態を指します。
一般的には、6種類以上の薬を服用している場合に薬物有害事象のリスクが高まるとされていますが、薬の数だけで判断することはできません。
必要な薬が複数ある人もいれば、少ない薬でも身体の状態によって副作用が出る人もいます。
処方内容だけでなく、年齢、肝機能や腎機能、食事、生活状況、本人が薬を管理できるかといった点を含めて考えることが重要です。
多剤服用によって起こりやすい3つのリスク
1.副作用や薬物相互作用が起こりやすくなる
服用する薬が増えるほど、薬同士が影響し合う薬物相互作用の可能性が高まります。
高齢者は、加齢によって肝臓や腎臓の機能が低下し、薬の分解や排泄に時間がかかることがあります。そのため、以前と同じ薬を同じ量で飲んでいても、眠気、ふらつき、食欲不振などの副作用が現れる場合があります。これらの症状をきっかけに食事摂取が難しくなり衰弱が進行してしまうことも少なくありません。
新しい症状が出たときに、病気の悪化だけでなく、薬の影響ではないかという視点を持つことが大切です。
2.飲み忘れや飲み間違いが増える
薬の種類や服用回数が増えると、朝・昼・夕・就寝前などの管理が複雑になります。
その結果、飲み忘れ、重複して服用する、自己判断で中断するなど、服薬アドヒアランスが低下する可能性があります。
一包化や服薬カレンダーを利用する方法もありますが、まずは服用方法を簡単にできないか、同じ目的の薬が重複していないかを確認することが重要です。
本人だけでの服薬管理が難しい場合には、家族や訪問看護、介護職などが、無理なく確認できる方法を考えます。
3.転倒や認知機能低下につながることがある
睡眠薬、抗不安薬、降圧薬などの影響で、眠気、めまい、ふらつきが生じることがあります。
高齢者では、こうした症状が転倒や骨折につながり、その後の生活に大きく影響することもあります。
また、物忘れ、せん妄、食欲低下、便秘、尿が出にくいといった症状が、薬の副作用として現れる場合もあります。
「年齢のせい」と決めつけず、薬を始めた時期や量を変更した時期と、症状が出た時期を照らし合わせることが大切です。
ポリファーマシー対策における薬剤師の役割
薬剤師は、処方箋に記載された薬を調剤するだけではありません。
複数の医療機関から処方された薬、市販薬、健康食品、サプリメントなどを含め、服用しているもの全体を確認し、安全性を評価します。
患者や家族から生活の変化を聞き取る
処方箋だけでは、本人の暮らしや体調の変化までは分かりません。
薬剤師は、患者や家族との対話を通じて、次のような変化を確認します。
・最近ふらつくことが増えた
・日中に眠っていることが多い
・食事量や体重が減った
・便秘が続いている
・以前より物忘れが増えた
・薬が余っている
・錠剤を飲み込むのが難しい
一見すると薬と関係がないように思える変化が、副作用や服薬管理上の問題を見つける手がかりになります。
お薬手帳から処方全体を確認する
複数の医療機関を受診している場合には、お薬手帳を一冊にまとめることが大切です。
薬剤師は、お薬手帳や持参薬を確認し、同じような作用を持つ薬の重複、飲み合わせ、服用方法の複雑さなどを整理します。
市販薬やサプリメントも相互作用を起こすことがあるため、服用しているものはすべて伝えましょう。
医師へ処方の見直しを提案する
薬剤師が処方内容に課題を見つけた場合には、薬学的な根拠と患者の状態を医師へ伝えます。
長期間続いている薬について現在も必要性があるか、量を調整できないか、より服用しやすい薬へ変更できないかなどを検討します。
ただし、薬剤師が独自の判断で薬を中止するわけではありません。
処方の変更や減薬は、患者の病状や治療目標を踏まえ、医師と相談しながら慎重に進めます。
高齢者の副作用を見逃さないための観察ポイント
高齢者の薬物有害事象は、典型的な副作用として現れるとは限りません。
本人が症状をうまく説明できない場合もあるため、家族や支援者が日常の変化に気づくことも重要です。
新しく出た症状と処方変更の時期を確認する
新しい薬が追加された後や、薬の量が増えた後に体調の変化があれば、副作用の可能性を考えます。
特に注意したい変化には、次のようなものがあります。
・ふらつき、転倒
・強い眠気
・食欲や体重の低下
・便秘、下痢
・物忘れや混乱
・排尿しにくい
・むくみ
・口の渇き
症状が現れた場合も、自己判断で薬を中止せず、医師や薬剤師へ相談しましょう。
「処方カスケード」が起きていないか確認する
処方カスケードとは、薬の副作用を新しい病気の症状と判断し、その症状を抑えるために別の薬が追加される状態です。
例えば、ある薬によるふらつきに対して、原因となる薬を見直さず、めまいを抑える薬が追加されることがあります。
薬が追加された理由と、その前にどのような症状があったのかを時系列で整理することが、処方カスケードの予防につながります。
生活状況の変化も確認する
薬の効き方は、本人の生活状況によって変わります。
食事量が減った、脱水気味である、体重が大きく減った、活動量が低下したといった変化によって、これまで問題なく飲めていた薬が合わなくなることもあります。
高齢者施設への入所や退院、介護者の変更など、生活環境が変わったときにも、服薬管理の方法を見直す必要があります。
医療連携によって薬を一体的に管理する
ポリファーマシー対策は、薬剤師だけで完結するものではありません。
医師、看護師、ケアマネジャー、介護職、本人、家族がそれぞれの立場で情報を持ち寄り、医療連携を行うことが重要です。
医師と薬剤師の情報共有
薬局で把握した服薬状況や副作用の可能性は、トレーシングレポートなどを通じて医師へ共有することがあります。
トレーシングレポートには、患者の訴え、残薬、生活状況、薬剤師による評価、処方変更の提案などを記載します。
ただし、緊急性の高い副作用や処方内容の疑問については、トレーシングレポートではなく、速やかに医師へ確認する必要があります。
看護師やケアマネジャーとの連携
訪問看護師や介護職は、服薬後の様子や日常生活の変化に気づきやすい存在です。
ケアマネジャーは、本人の生活全体や介護サービスの利用状況を把握しています。
薬剤師は、残薬、飲み忘れ、副作用と思われる症状を共有し、看護師や介護職からも本人の日常の様子を聞き取ります。
こうした双方向の情報共有によって、診察室や薬局だけでは見えない問題を把握しやすくなります。
入退院時には薬の変更内容を引き継ぐ
入院中に薬が変更された場合、退院後に以前の薬が再び処方されることがあります。
これを防ぐには、入院前の薬、入院中に中止・変更された薬、その理由、退院後の注意点を、地域の医療機関やかかりつけ薬局へ伝えることが重要です。
薬剤管理サマリーや退院時の薬剤情報を活用し、病院と地域が切れ目なく連携することで、ポリファーマシーの再発を防ぎます。
本人や家族ができるポリファーマシー対策
お薬手帳は一冊にまとめる
医療機関ごと、薬局ごとに別のお薬手帳を使うと、処方全体を確認できません。
一冊のお薬手帳にまとめ、受診時や薬局へ行く際に必ず持参しましょう。
電子版のお薬手帳を使う場合も、利用している医療機関や薬局で確認できるかを確認しておくと安心です。
薬を自己判断で減らさない
薬が多いと感じても、自分の判断で中止したり、量を減らしたりすることは避けましょう。自己判断で中断すると処方している薬の効果が分からず、処方変更が難しくなります。
急に中止すると、病気が悪化したり、離脱症状が現れたりする薬もあります。
気になる薬がある場合には、「この薬は何のために飲んでいるのか」「いつまで続けるのか」を医師や薬剤師に確認することが大切です。定期受診以外でも、受診し調整の相談をしてみましょう。
体調の変化を記録する
新しい薬を飲み始めた日、薬の量を変更した日、体調に変化があった日を簡単に記録しておくと、副作用との関係を確認しやすくなります。
本人が説明することが難しい場合には、家族や支援者が睡眠、食事、排せつ、歩行、表情などの変化を記録しておくと役立ちます。
ポリファーマシー対策に関するよくある質問
薬を6種類以上飲んでいれば、すべてポリファーマシーですか?
薬が6種類以上あるだけで、直ちに問題があるとは限りません。
治療に必要な薬であり、適切に管理され、副作用や服薬上の問題がなければ、薬の数だけを理由に減らす必要はありません。
重要なのは、薬の数ではなく、現在の本人にとって必要か、安全に服用できているかという点です。
薬剤師へ何を相談すればよいですか?
薬の目的、飲み忘れ、残薬、飲みにくさ、眠気やふらつきなど、気になっていることは何でも相談できます。
複数の病院から薬を処方されている場合や、市販薬・サプリメントを利用している場合には、その情報も伝えましょう。
ふらつきや物忘れは薬の副作用でしょうか?
薬の副作用によって起こることもありますが、病気や体調変化など、ほかの原因も考えられます。
症状が出た時期と薬の変更時期を確認し、医師や薬剤師へ相談することが大切です。
自己判断で薬を中止せず、専門的な評価を受けましょう。
まとめ|薬の数ではなく、本人の暮らしに合っているかを考える
ポリファーマシー対策とは、薬を減らすこと自体を目的とするものではありません。
患者にとって必要な薬を残しながら、副作用、薬物相互作用、飲み間違いなどのリスクを減らし、現在の身体や暮らしに合った薬物治療を整える取り組みです。
そのためには、薬剤師が処方全体を確認し、患者や家族から生活状況を聞き取り、医師や看護師、ケアマネジャーなどと医療連携を進めることが欠かせません。
本人や家族も、お薬手帳を一冊にまとめ、体調の変化や残薬について伝えることで、より安全な服薬管理につながります。
薬が多いことに不安を感じたときは、自己判断で中止するのではなく、まずは「この薬は今も必要なのか」「最近の体調変化と関係がないか」を、医師や薬剤師と一緒に確認することから始めましょう。
なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。
個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。
きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。
「何から考えればよいか分からない」
「家族だけでは話し合いが進まない」
という段階でも構いません。
まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。
執筆者
中村 大輔(なかむら だいすけ)
一般社団法人あしたパートナーズ アドバイザー
一般財団法人ひふみ会 まちだ丘の上病院 院長
医療法人社団元気会横浜病院 院長補佐
