フレイル予防から認知症・老障介護まで。医療介護連携の最新事例
超高齢社会を迎えた日本では、認知症、フレイル、老障介護といった課題が、それぞれ別々に生じているわけではありません。
高齢者本人の身体機能の低下、認知機能の変化、家族の介護負担、障害のある子の生活支援などが重なり、一つの家庭のなかに複数の課題が生じることもあります。
こうした状況に対応するためには、要介護状態への移行を防ぐフレイル予防を入り口としながら、医療、介護、障害福祉、地域の支援が切れ目なくつながることが重要です。
この記事では、フレイルと認知症の関係、老障介護や8050問題への支援、医療介護連携の進め方、データを活用した介護予防の取り組みについて解説します。
認知症・フレイル・老障介護が重なり合う時代
高齢化が進むなか、複数の病気や生活上の課題を抱える高齢者が増えています。
要介護状態の前段階とされるフレイルに加え、認知症や慢性疾患を抱えながら生活している人も少なくありません。
また、高齢の親が障害のある子の生活を支える「老障介護」や、高齢の親と中高年のひきこもり状態にある子が同居する「8050問題」など、一つの制度だけでは対応しにくい家庭もあります。
こうした課題は、本人だけ、親だけ、子だけを支援しても解決しないことがあります。
世帯全体の状況を見ながら、医療、介護、障害福祉、生活支援を組み合わせていく視点が必要です。
フレイルとは|早めの気づきが予防につながる
フレイルとは、加齢に伴って心身の活力が低下し、健康な状態と要介護状態の間にある段階を指します。
単なる老化とは異なり、早めに気づいて適切な支援や生活改善を行うことで、状態の維持や回復が期待できます。

東京都医師会HPより引用
フレイルには3つの側面がある
フレイルは、主に次の3つの側面から捉えられます。
・筋力や歩行能力が低下する「身体的フレイル」
・物忘れや意欲低下などが見られる「精神・心理的フレイル」
・人との交流や外出が減る「社会的フレイル」
これらは、それぞれ独立したものではありません。
外出が減ることで運動量が落ち、食欲も低下し、さらに人と話す機会が減るといったように、互いに影響し合いながら進行することがあります。
「最近、歩く速度が遅くなった」「食事量が減った」「外出しなくなった」といった小さな変化を見逃さないことが大切です。

東京都医師会HPより引用
フレイル予防の3つの柱
フレイル予防の基本は、「栄養」「運動」「社会参加」の3つです。
栄養面では、肉、魚、卵、大豆製品などのたんぱく質を意識しながら、主食、主菜、副菜をバランスよく摂ることが大切です。
運動は、ウォーキングや体操など、無理なく続けられるものから始めます。筋力を維持するためには、立ち座りやかかと上げなど、日常生活に取り入れやすい運動も役立ちます。
社会参加については、地域のサロン、趣味の活動、ボランティアなどを通じて、人と関わる機会を持つことが心身の活力につながります。
特別なことを始めるというよりも、食べる、動く、人と話すという日常の積み重ねがフレイル予防の基本です。

東京都医師会HPより引用
オーラルフレイルにも注意する
オーラルフレイルとは、噛む、飲み込む、話すといった口腔機能の軽微な衰えを指します。
食べこぼしが増えた、むせやすくなった、滑舌が悪くなったといった変化は、オーラルフレイルのサインかもしれません。
噛む力が低下すると、柔らかい食事に偏り、低栄養や筋力低下につながることがあります。飲み込む力の低下は、誤嚥性肺炎のリスクにも関係します。
毎日の歯磨きや口の体操、義歯の調整など定期的な歯科受診を通じて、口腔機能を保つことも全身のフレイル予防につながります。
フレイルと認知症の関係
フレイルと認知症は、互いに影響し合う関係にあります。
身体活動量が低下すると、脳への刺激や人と交流する機会が減り、認知機能にも影響することがあります。
一方で、認知機能が低下すると、食事や服薬の管理が難しくなり、外出を避けるようになるなど、フレイルが進みやすくなることもあります。
運動や社会参加によって認知症を完全に防げるわけではありませんが、心身の機能を維持し、発症リスクを下げるための取り組みとして重要です。
特に、運動、栄養、睡眠、生活習慣病の管理、人との交流を一つずつ整えていくことが、認知症予防とフレイル予防の両方につながります。
切れ目のない支援をつくる医療介護連携
高齢者が住み慣れた地域で生活を続けるためには、病院での治療と、自宅や施設での介護が分断されないことが重要です。
医療介護連携とは、医師、歯科医師、看護師、薬剤師、リハビリ専門職、ケアマネジャー、介護職員などが情報を共有し、本人の暮らしを支えることを指します。
地域包括ケアシステムの考え方
地域包括ケアシステムとは、医療、介護、介護予防、住まい、生活支援を地域のなかで一体的に提供する仕組みです。
大切なのは、サービスを多く利用することではなく、本人がどのような生活を送りたいかを中心に支援を組み立てることです。
例えば、病気の治療だけでなく、退院後の住まい、食事、服薬、移動、家族の負担などを含めて考えます。
多職種が同じ目標を共有することで、本人や家族が何度も同じ説明をする負担を減らし、支援の抜けや重複を防ぐことができます。
連携シートやICTによる情報共有
医療介護連携では、正確で速やかな情報共有が欠かせません。
入退院時には、病歴、服薬状況、生活状態、家族の状況などを記載した情報連携シートが活用されます。
お薬手帳も、医師や薬剤師、看護師が服薬状況を確認するうえで重要なツールです。
近年では、医療・介護関係者がICTシステムを通じて情報を共有する地域も増えています。
ただし、ツールを導入するだけで連携が進むわけではありません。
何を、誰が、いつ共有するのかを決め、緊急時と通常時の連絡方法を分けておくことが大切です。
顔の見える関係をつくる
医療介護連携を円滑に進めるためには、日頃から関係者同士がつながっていることが重要です。
定期的なカンファレンスや研修会を通じて、それぞれの専門性や役割を理解しておくことで、急な体調変化があった際にも相談しやすくなります。
ケアマネジャーが調整役となることは多いものの、すべてを一人に任せるのではなく、本人や家族を含めたチームで情報を共有することが大切です。
老障介護と8050問題を世帯全体で考える
老障介護とは、高齢になった親が、成人した障害のある子の生活を支えている状態を指します。
親自身に介護や医療が必要になっても、子の生活を優先し、支援につながらないまま無理を重ねている家庭もあります。
8050問題も同様に、親の高齢化と子の社会的孤立が重なり、生活、医療、経済、住まいなどの課題が一度に表面化することがあります。
こうした世帯では、親と子を別々に見るのではなく、家族全体の生活を整理する必要があります。
障害のある本人の高齢化
「親なきあと」というと、親が亡くなった後の住まいやお金が注目されます。
しかし、親が元気なうちから、障害のある本人自身の高齢化も始まっています。
加齢に伴い、体力の低下、生活習慣病、認知機能の変化などが生じる可能性があります。
これまで利用してきた障害福祉サービスだけでは、医療や高齢期の介護ニーズに十分対応できない場合もあります。
かかりつけ医を持つ、健康診断を受ける、服薬情報を整理するなど、親あるうちから本人の健康管理を仕組みにしておくことが大切です。
介護保険と障害福祉サービスの関係
障害福祉サービスを利用している人が65歳になると、同様の内容を持つサービスについては、原則として介護保険サービスが優先されます。
ただし、すべての障害福祉サービスが一律に利用できなくなるわけではありません。
同行援護、行動援護、就労支援など、介護保険に相当するサービスがない場合には、引き続き障害福祉サービスを利用できることがあります。
また、本人の障害特性や必要な支援内容によって、介護保険サービスだけでは十分でないケースもあります。
65歳になる直前に考えるのではなく、早い段階から相談支援専門員や市区町村の窓口などと確認しておくことが重要です。
共生型サービスという選択肢
共生型サービスは、介護保険または障害福祉の指定を受けた事業所が、一定の基準を満たすことで、もう一方の制度の利用者も受け入れられる仕組みです。
障害福祉サービスを利用していた人が、高齢になった後も同じ事業所を利用しやすくなるなど、環境の変化を抑えられるメリットがあります。
ただし、すべての地域や事業所で利用できるわけではありません。
本人が慣れた支援を継続できるか、医療ニーズに対応できるかなどを含めて確認する必要があります。
データを活用した介護予防の取り組み
介護予防は、体操教室などを一律に提供するだけでなく、地域や個人の健康状態に応じて支援する方向へ変化しています。
市区町村では、健診、医療、介護のデータを活用し、フレイルや生活習慣病のリスクが高い人を早期に把握する取り組みが進められています。
高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施
高齢者は、複数の病気を抱えながら、低栄養や筋力低下などの生活機能上の課題を抱えていることがあります。
そこで、市区町村が医療保険と介護保険の情報を活用し、健康状態に応じた保健指導や介護予防を一体的に行う取り組みが進められています。
例えば、健診を受けていない人や、医療にも介護にもつながっていない人を把握し、保健師などが訪問するケースがあります。
病気の治療だけでなく、生活機能の低下を早めに見つけることが目的です。
KDBシステムの活用
KDBシステム(国保データベースシステム)は、健診、医療、介護に関するデータを地域単位で分析する仕組みです。
地域ごとの健康課題を把握し、低栄養、生活習慣病、要介護化などのリスクが高い人への支援に活用されます。
データは支援の対象を見つける手がかりになりますが、数字だけで本人の生活状況を判断することはできません。
最終的には、本人との対話や生活環境の確認を通じて、必要な支援を考えることが重要です。
地域住民によるフレイル予防
地域によっては、住民がフレイルに関する知識を学び、通いの場などでフレイルチェックや体操を行う「フレイルサポーター」の取り組みがあります。
専門職だけでなく、地域住民が担い手になることで、参加への心理的なハードルが下がり、日頃から声を掛け合える関係が生まれます。
社会参加そのものがフレイル予防につながるため、支える側と支えられる側を固定しないことも大切です。
フレイル・認知症・老障介護に関するよくある質問
フレイルになると、必ず認知症になりますか?
フレイルの人が必ず認知症になるわけではありません。
ただし、身体活動の低下や社会的孤立など、フレイルと認知症に共通するリスク要因があります。
運動、栄養、社会参加、生活習慣病の管理などに取り組むことは、心身の機能を維持するうえで大切です。
医療介護連携では、誰に相談すればよいですか?
介護サービスを利用している場合は、担当のケアマネジャーが相談先の一つになります。
まだ介護保険を利用していない高齢者については、地域包括支援センターで相談できます。
障害福祉サービスを利用している場合は、相談支援専門員や市区町村の障害福祉窓口に相談します。
老障介護世帯は介護保険と障害福祉サービスを併用できますか?
必要に応じて、介護保険サービスと障害福祉サービスを組み合わせて利用できる場合があります。
ただし、介護保険優先の考え方や、サービスごとの対象要件があります。
本人と家族の状況を整理し、それぞれの制度で利用できる支援を確認することが大切です。
まとめ|本人と家族の暮らしを一つにつなげて考える
フレイル、認知症、老障介護、8050問題は、それぞれ別の課題に見えても、一つの家庭のなかで重なって生じることがあります。
だからこそ、病気、介護、障害、住まいといった分野ごとに切り分けるだけではなく、本人と家族がどのような生活を続けたいかを中心に考えることが重要です。
フレイル予防では、栄養、運動、社会参加を日常生活に取り入れ、小さな変化に早めに気づくことが第一歩になります。
医療介護連携では、多職種が情報を共有し、治療から在宅生活までを切れ目なく支える体制が求められます。
また、障害のある本人と高齢の親が暮らす世帯では、「親なきあと」だけでなく、親と子がともに年齢を重ねていく過程を見据える必要があります。
すべてを一度に整える必要はありません。
まずは本人と家族の今の生活を振り返り、健康、介護、住まい、支援者について、気になることを一つずつ整理していくことが、将来への備えにつながります。
なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。
個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。
きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。
「何から考えればよいか分からない」
「家族だけでは話し合いが進まない」
という段階でも構いません。
まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。
執筆者
中村 大輔(なかむら だいすけ)
一般社団法人あしたパートナーズ アドバイザー
一般財団法人ひふみ会 まちだ丘の上病院 院長
医療法人社団元気会横浜病院 院長補佐
