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2026.08.06 暮らし・相続×親なきあと

親なきあとの暮らしを支える地域包括ケアシステム|多職種連携と家族の準備

障害のある子の「親なきあと」について、「自分たちがいなくなった後、この子はどのように暮らしていくのだろう」と不安を抱える親御さんは少なくありません。

住まい、生活、医療、お金、人とのつながりなど、将来に向けて考えることは多岐にわたります。これまで親が担ってきた役割を、そのまま誰か一人に引き継ぐことも現実的ではありません。

大切なのは、親が元気なうちから本人の希望を確認し、医療・介護・障害福祉などの支援を少しずつ暮らしのなかに取り入れていくことです。

この記事では、地域包括ケアシステムや多職種連携の考え方を踏まえ、「親なきあと」の暮らしを地域で支える仕組みと、家族が今からできる準備について解説します。

「親なきあと」に家族が抱える不安

親なきあと問題とは、親が亡くなった後だけを指すものではありません。

親が病気になったとき、介護が必要になったとき、入院したときなど、これまでどおり子どもの生活を支えられなくなる段階から課題は始まります。

食事や入浴などの生活支援、金銭管理、通院や服薬、日中活動、緊急時の対応など、家庭のなかで親が担っていることは想像以上に多くあります。

まずは「親が何をしているか」を見える化し、誰が、どのような方法で引き継げるかを考えることが準備の第一歩です。

将来設計における3つの課題

障害のある本人の将来を考える際には、主に「暮らし」「お金」「住まい」の3つの課題があります。

暮らしの課題には、食事、入浴、買い物、通院、日中活動、人との交流などが含まれます。

お金の課題では、障害年金などの収入で生活費を賄えるか、親の財産をどのように遺し、誰が管理するかを考える必要があります。

住まいについても、実家での生活を続けるのか、グループホーム(共同生活援助)や一人暮らしを選ぶのかによって、必要な支援は変わります。

これらは別々に考えるのではなく、本人が望む生活を中心に、ひとつながりの課題として整理することが大切です。

医療だけでは暮らしのすべてを支えられない

障害のある方が地域で暮らし続けるために、健康管理や通院、服薬などの医療的な支援は欠かせません。

一方で医療だけで、食事の準備、住まいの確保、日中の活動、金銭管理、人とのつながりまで支えることはできません。

特に、本人が体調の変化や痛みを言葉で伝えることが難しい場合には、日頃の様子を知る家族や福祉職から医療者へ情報を伝える必要があります。

医療を単独の支援として捉えるのではなく、その人らしい暮らしを支える一つの要素として、福祉や地域生活とつなげていく視点が重要です。つまり、医療を受け身ではなく、活用するという視点が重要になります。

地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域でその人らしい暮らしを続けられるよう、医療、介護、福祉、住まい、生活支援などを一体的に提供する考え方です。

もともとは高齢者支援を中心に整備されてきた仕組みですが、親なきあとを考えるうえでも参考になります。

障害のある本人の暮らしには、障害福祉サービスだけでなく、医療機関、行政、社会福祉協議会、地域住民、民間サービスなど、さまざまな人や機関が関わります。

家族だけがすべてを抱えるのではなく、それぞれが役割を分担しながら、地域で生活を支える体制をつくることが大切です。

地域で暮らしを支える多職種連携

本人の生活上の課題は、一人の専門家だけで解決できるものではありません。

医師や看護師は健康管理を、相談支援専門員は福祉サービスの調整を、福祉事業所の職員は日々の生活を支えます。必要に応じて、社会福祉士、薬剤師、リハビリ専門職、弁護士、司法書士などが関わることもあります。

多職種連携で重要なのは、専門家の数を増やすことではなく、本人がどのような暮らしを望んでいるかを共有することです。

それぞれの役割と連絡方法を明確にし、本人の状態が変わったときにも支援が途切れない体制を整えることが大切です。。

親が元気なうちに始めたい4つの準備

親なきあとの準備は、「生活」「お金」「住まい」「医療」の4つに分けると整理しやすくなります。

すべてを一度に決める必要はありません。本人の年齢や状況に合わせて、できることから少しずつ進めます。

1.生活面|親以外の人と暮らす経験を増やす

親が日常的に行っている支援を整理し、本人が自分でできること、見守りがあればできること、誰かの介助が必要なことに分けてみましょう。

自立とは、すべてを一人で行うことではありません。自分では難しいことを誰かに頼ることも大切です。必要な支援を受けながら、自分らしい生活をつくることも自立の一つです。

料理、掃除、買い物、公共交通機関の利用などは、本人の得意・不得意に合わせて練習します。

短期入所やグループホームの体験利用を通じて、親元を離れて過ごす経験を重ねておくことも、将来の急な環境変化を和らげる備えになります。

2.経済面|収入と支出、財産管理を整理する

まずは、障害年金、就労収入、各種手当など、本人が将来得られる収入を確認します。

次に、住居費、食費、福祉サービスの利用料、医療費など、将来必要になる支出を試算します。

親の財産を本人へ遺す場合には、金額だけでなく、「誰が、どのように管理し、本人の生活のために使うか」まで考えることが重要です。

成年後見制度、遺言、生命保険、信託などは、それぞれ役割や利用条件が異なります。制度の名称から選ぶのではなく、本人の判断能力や家族構成、財産の内容に合う方法を検討します。

3.住まい面|選択肢を知り、実際に体験する

将来の住まいには、実家での生活、グループホーム、一人暮らしなどの選択肢があります。

本人の障害特性、生活スキル、医療的ケアの必要性、地域とのつながりによって、適した環境は異なります。

空き状況だけを基準に決めるのではなく、本人が安心して暮らせるか、必要な支援を受けられるか、日中活動や医療機関へ通いやすいかなどを確認しましょう。

見学だけでは分からないことも多いため、可能であれば短期入所や体験利用を行い、本人の様子や気持ちを確かめることが大切です。

4.医療面|健康情報を家族の外へ引き継ぐ

病歴、アレルギー、服薬内容、かかりつけ医、体調を崩したときのサインなど、親だけが把握している情報は少なくありません。

これらをサポートブックやお薬手帳などにまとめ、定期的に更新しておきましょう。

本人が痛みや不調を言葉で伝えにくい場合には、普段の表情、食事、睡眠、排せつなど、体調変化に気づくための情報も記録します。

支援者が変わっても必要な医療につながれるよう、親以外の家族や福祉職、かかりつけ医と共有しておくことが重要です。

多職種連携で支える具体的な役割

医療・福祉・法律の専門職

医師や看護師は、診療、健康管理、医療的ケアを担います。薬剤師は服薬状況を確認し、飲み合わせや副作用について助言します。

相談支援専門員や福祉事業所の職員は、本人の日常生活や福祉サービスを支えます。社会福祉士は、制度利用や権利擁護、生活上の課題について相談に応じます。

財産管理、遺言、相続、成年後見などが関係する場合には、弁護士や司法書士などが手続きを支援します。

ただし、専門職へ任せればすべて解決するわけではありません。本人と家族が大切にしたいことを共有し、それぞれの専門職が何を担うのかを整理する必要があります。そうすることで、画一的な対応ではなく、個別性を重視した対応が可能になります。

支援の調整役となる相談支援専門員

障害福祉の分野で、本人と各サービスをつなぐ役割を担うのが相談支援専門員です。

本人や家族から希望や困りごとを聞き取り、必要な障害福祉サービスを組み合わせた「サービス等利用計画」を作成します。

サービス開始後も、本人の生活に合っているかを定期的に確認し、必要に応じて計画を見直します。

親なきあとへの準備についても、将来の住まいや日中活動、生活支援について早めに相談しておくことで、選択肢を知るきっかけになります。

本人の希望を中心に計画をつくる

サービス等利用計画は、支援者が本人のために一方的に作るものではありません。

本人がどのような生活をしたいか、何が好きで、何を不安に感じているかを確認し、その希望を支援内容に反映します。

言葉で意思を伝えることが難しい場合も、表情、行動、普段の選択などから本人の意思をくみ取り、分かりやすい方法で選択肢を示すことが大切です。

本人の意思を中心に据えることが、親なきあともその人らしい暮らしを続けるための土台になります。

親なきあとについて相談できる窓口

市区町村の障害福祉担当窓口

障害福祉サービスや地域の相談先を知りたい場合は、市区町村の障害福祉担当窓口が身近な相談先です。

本人や家族の状況を伝えることで、利用できる制度や地域の相談支援事業所について案内を受けられます。

相談支援事業所

障害福祉サービスの利用や将来の生活について具体的に相談したい場合は、指定特定相談支援事業所や障害児相談支援事業所が窓口になります。

サービス等利用計画の作成、事業所との調整、利用開始後のモニタリングなどを行います。

地域包括支援センター

地域包括支援センターは、主に高齢者とその家族を対象とした相談窓口です。

高齢になった親の介護と、障害のある子の生活課題が重なっている場合には、親の支援を入り口として相談できます。障害福祉の担当窓口や相談支援事業所と連携してもらえることもあります。

社会福祉協議会

社会福祉協議会では、日常生活自立支援事業による福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理などについて相談できます。

成年後見制度の中核機関を担っている地域では、後見制度や権利擁護に関する相談にも対応しています。

親の会や家族会

同じ立場の家族とつながることで、地域の事業所や暮らしに関する具体的な情報を得られることがあります。

専門職への相談とは異なり、親としての不安や迷いを共有できることも、孤立を防ぐ大切な支えになります。

地域包括ケアと親なきあとに関するよくある質問

親なきあとの準備は何から始めればよいですか?

最初に、親が日常的に担っていることと、本人が希望する暮らしを書き出してみましょう。

そのうえで、現在の収入と支出、利用しているサービス、住まい、医療情報を整理します。

すぐに制度を決めるのではなく、今後不足しそうな支援を見つけることが第一歩です。

どのような専門職が関わりますか?

医師、看護師、薬剤師、相談支援専門員、社会福祉士、福祉事業所の職員などが、本人の状況に応じて関わります。

財産管理や相続などの課題があれば、弁護士や司法書士などが加わることもあります。

大切なのは、多くの専門職につながることではなく、必要な人が本人の希望と情報を共有することです。

障害のあるきょうだいの将来はどこへ相談すればよいですか?

まずは、市区町村の障害福祉担当窓口や相談支援事業所へ相談します。

親にも介護や生活上の支援が必要な場合には、地域包括支援センターにも状況を伝えましょう。

親と障害のある本人を別々に考えず、家族全体の状況を共有することが重要です。

まとめ|親だけで支える暮らしから、地域で支える暮らしへ

親なきあとへの不安は、家族だけで抱え込むものではありません。

医療、介護、障害福祉、住まい、お金などの支援をつなぎ、本人の暮らしを地域で支えていくことが大切です。

そのためには、親が元気なうちから本人の希望を確認し、親以外の人やサービスとのつながりを少しずつ増やしていく必要があります。

親が担っている役割を整理すること、体験利用を始めること、医療情報をまとめることなど、今からできる準備はあります。本人の支援を多くの人が支えることができる環境を整えることが大切です。

すべてを一度に整えなくても構いません。

本人がどのような暮らしを望んでいるのかを出発点に、一つずつ準備を重ねることが、親なきあとも安心して地域で暮らし続けるための土台になります。

なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。

個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。

きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。

「何から考えればよいか分からない」

「家族だけでは話し合いが進まない」

という段階でも構いません。

まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。


執筆者

中村 大輔(なかむら だいすけ)
一般社団法人あしたパートナーズ アドバイザー
一般財団法人ひふみ会 まちだ丘の上病院 院長
医療法人社団元気会横浜病院 院長補佐

ともに、“あした”を
つくる。

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