親が突然入院したら、障害のある子の暮らしはどうなる?今から確認しておきたいこと
「自分がいなくなったあと、この子はどうなるのだろう」
障害のある子どもを育てているご家族にとって、「親なきあと」は大きな心配事の一つです。
けれども、「親なきあと」は、親が亡くなったあとに突然始まるものではありません。
たとえば、親が病気になったとき。突然、入院することになったとき。年齢を重ね、これまで当たり前にできていたことが少しずつ難しくなってきたとき。
そんなときに、一度考えてみたいのが、
「もし自分が明日から1週間入院することになったら、この子の暮らしはどうなるだろう?」
という問いです。
食事はどうするのか。薬は誰が準備するのか。通所先や勤務先への連絡はどうするのか。お金はどう管理するのか。そして、本人が困ったり不安になったりしたとき、誰に相談するのか。
この記事では、親の急な入院などに備えて、本人の暮らしをどのように整理し、家族以外の人へつないでいけばよいのかを考えていきます。
1.「親なきあと」は、親が亡くなってから始まるもの?
「親なきあと」は、親が亡くなったあとのことだけを考える問題ではありません。
親が高齢になったり、病気になったりして、これまでどおり本人を支えることが難しくなったときから、暮らしの変化は始まります。
「親なきあと」という言葉から、遺言や相続、成年後見制度などを思い浮かべる方もいるでしょう。もちろん、財産や契約について考えておくことも大切です。
しかし、その前に考えておきたいのが、本人と家族の「暮らし」そのものです。
- 住まいはどうするのか。
- 日中はどこで過ごすのか。
- 食事や買い物はどうするのか。
- お金はどのように管理するのか。
- 病院にはどうやって通うのか。
- 困ったときには誰に相談するのか。
暮らしは、こうした一つひとつのことが関わり合って成り立っています。
親が元気なうちから現在の暮らしを少しずつ整理しておくこと。それも「親なきあと」の大切な準備の一つです。
2.親が突然入院すると、本人の暮らしで何が困る?
親が日常的に担っていることは、思っている以上に多いかもしれません。
特に長い間一緒に暮らしていると、日常の中で行っていることを、親自身が「支援」と認識していないこともあります。
食事・買い物・家事
食事の準備だけでなく、献立を考える、冷蔵庫の中身を確認する、洗濯をする、衣服や日用品を買い足す。
本人が自分でできることもあれば、親が自然に担っていることもあります。
服薬・通院・健康管理
薬を準備する、病院を予約する、通院に付き添う、医師に本人の状態を伝える。
本人の体調を見て、「今日はいつもと少し違う」と気づくことも、家族が日常的に担っている役割の一つです。
お金・手続き
本人のお金や障害年金を管理したり、家賃や光熱費などを支払ったり、自治体から届く郵便物を確認したりすることもあります。
親が突然入院すると、「どの口座から何を支払っているのか分からない」ということが起こるかもしれません。
通所・仕事・予定管理
通所や仕事の予定を確認する。送迎時間を把握する。必要な持ち物を確認する。欠席するときに連絡する。
こうした日々の予定管理も、暮らしを支える一部です。
困ったときの相談
そして、見落とされやすいのが、本人が困ったときや不安になったときに話を聞くことです。
職場や事業所で嫌なことがあったとき、体調がいつもと違うとき、予定が急に変わったとき。
最初に相談する相手が親だけになっている場合もあります。
こうした役割は書類には表れませんが、本人が安心して暮らすためには、とても大切なものです。
3.親が普段していることは、どう整理すればいい?
まずは「今、親がしていること」を書き出してみましょう。
たとえば、
- 薬を準備する
- 食事を用意する
- 通所や仕事の予定を確認する
- お金を管理する
- 病院を予約する
- 福祉事業所からの連絡を受ける
- 行政から届いた書類を確認する
- 衣服や日用品を購入する
- 本人が困ったときに話を聞く
などです。
ここで大切なのは、これらを「親にしかできないこと」と決めつけないことです。
「親にしかできない」と考えるのではなく、
「今は親がやっていること」
として整理してみます。
そうすると、「これは本人自身でできるかもしれない」「これは支援者と共有できそう」「ここは誰かに相談してみよう」と、一つずつ考えやすくなります。
親が担っていることを減らすこと自体が目的ではありません。
大切なのは、親だけが知っていること、親だけが担っていることを少しずつ見える形にしていくことです。
4.本人ができること・支援があればできることは?
親がしていることを整理したら、次は本人の側から考えてみます。
次の3つに分けると整理しやすくなります。
1.本人が自分でできること
いつもの店なら買い物ができる。スマートフォンで連絡できる。決まったルートなら一人で通所できる。
本人がすでにできていることは、できるだけ大切にします。
2.少し支援があればできること
予定を紙やスマートフォンで確認できれば行動できる。薬を分かりやすく整理すれば自分で飲める。困ったときの連絡先が分かれば、自分から相談できる。
環境や方法を少し工夫することで、本人自身ができることもあります。
3.誰かにお願いしたいこと
複雑な手続きや契約など、本人だけでは難しいこともあります。
その場合も「本人ができないから親がやる」で終わらせず、将来、誰と一緒に行うことができるのかを考えてみます。
本人の状況や希望は一人ひとり違います。
だからこそ、本人の気持ちや意思を確認しながら、「どんな暮らしを続けたいのか」を一緒に考えていくことが大切です。
5.家族以外の誰とつながっておけばいい?
親以外にも本人の暮らしを知っている人がいることは、大切な備えの一つです。
たとえば、
- 相談支援専門員
- グループホームや生活介護、就労支援などの障害福祉事業者
- 医療機関
- 学校
- 勤務先
- 自治体や地域の相談機関
- 本人や家族が信頼している人
などです。
ただし、たくさんの人とつながれば安心、というわけではありません。
本人がどのような人との関係を望んでいるのか、どこまで自分の情報を共有したいのかにも配慮する必要があります。
まずは、
「困ったときに相談できる人が、親以外にもいるだろうか」
と考えてみる。
そして必要に応じて、本人の意思を確認しながら、暮らしに必要な情報を少しずつ共有していく。
その積み重ねが、家族だけで抱え込まないための準備になります。
6.親の入院に備えて、今から確認しておきたい5つのこと
最初からすべてを準備する必要はありません。まずは5つに分けて確認してみましょう。
1.本人の生活
生活リズム、食事、通所や仕事、休日の過ごし方、苦手なこと、安心できることなどを整理します。
2.医療・服薬
かかりつけ医、服用している薬、通院方法、薬を誰が管理しているのかなどを確認します。
3.お金・契約
日常のお金をどのように管理しているのか、家賃や光熱費などをどう支払っているのか、親が管理している契約や書類はどこにあるのかを確認します。
4.福祉サービス・学校・仕事
現在利用している障害福祉サービスや学校、勤務先などの連絡先を整理します。
相談支援専門員などがいる場合には、「親が急に入院した場合には、どこへ相談すればよいか」を平時から確認しておくのも一つです。
5.緊急時の連絡先
親以外に連絡できる人がいるか確認します。
連絡先だけではなく、本人の暮らしやコミュニケーションについて、どの程度知っている人なのかも考えておきましょう。
7.すべてを一度に準備する必要はある?
いいえ。大きな将来を一度に決める必要はありません。
親なきあとについて考え始めると、住まい、お金、福祉制度、成年後見、遺言、相続など、さまざまな課題が見えてきます。
全部を同時に考えようとすると、何から手をつければよいのか分からなくなることもあります。
そんなときは、
「もし自分が1週間入院したら、本人の暮らしで何が困るだろう?」
というところから始めてみてください。
「薬のことは自分しか分からない」
「お金のことは全部自分が管理している」
「本人は困ったとき、私以外には相談したことがない」
一つでも見つかれば、そこが準備の入口になります。
今の暮らしの中にある小さな課題を、一つずつ整理していく。
それも「親なきあと」の大切な準備です。
よくある質問(FAQ)
Q1.親が急に入院した場合、まずどこへ相談すればいいですか?
本人に相談支援専門員がいる場合には、現在の状況を相談することが考えられます。
相談支援専門員がいない場合には、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、地域の相談支援事業所、基幹相談支援センターなども相談先になります。
地域によって相談体制が異なるため、平時から「緊急時にはどこへ相談するのか」を確認しておくことが大切です。
Q2.短期入所(ショートステイ)は事前に考えておいた方がいいですか?
短期入所は、家族の病気などの際に利用されることがある障害福祉サービスの一つです。
一方で、本人にとって初めての場所で突然過ごすことが大きな負担になる場合もあります。
利用を考える場合には、緊急時になって初めて検討するのではなく、本人の状況や地域の受入体制も含め、相談支援専門員や自治体などに事前に相談しておくとよいでしょう。
Q3.グループホームに入居していれば、親なきあとも安心ですか?
グループホームは住まいを考えるうえで大切な選択肢の一つですが、入居しただけですべての課題が解決するとは限りません。
医療、お金、仕事や日中活動、本人の意思決定、人とのつながりなど、暮らしにはさまざまな要素があります。
「どこに住むか」だけではなく、その場所でどのような暮らしを続けたいのかまで考えることが大切です。
Q4.本人が障害福祉サービスを利用していない場合は?
まずは、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や地域の相談支援機関などへ相談する方法があります。
現在特に困っていなくても、「親が病気になった場合にはどこへ相談できるのか」を知っておくことは、将来への備えになります。
まとめ|「親がいなくても大丈夫」にするのではなく
「親なきあと」の準備というと、住まいやお金、成年後見、相続など、大きなことから考えなければならないように感じるかもしれません。
でも、最初からすべてを決める必要はありません。
まずは、
「もし自分が1週間入院したら、この子の暮らしで困ることは何だろう?」
と考えてみる。
そこから、今は親が担っていること、本人ができること、家族以外に相談できる人を少しずつ整理していくことも、大切な一歩です。
目指すのは、「親がいなくても何も困らない状態」をつくることではありません。
困ったときに相談できる人がいること。
本人のことを知っている人がいること。
暮らしの変化を一緒に考えてくれる人がいること。
そして、親自身も、これからのことをひとりで抱え込まなくていいこと。
必要な人とつながりながら、本人と家族それぞれの暮らしを少しずつ考えていく。その積み重ねが、「親なきあと」への備えにつながっていきます。
「何から考えればいいのか分からない」「わが家の場合は、何を準備しておけばいいのだろう」と感じたときは、あしたパートナーズの「親なきあと相談」もご利用いただけます。
住まい、生活・就労、お金、人とのつながりなど、ご家族ごとに異なる状況を伺いながら、これからの暮らしについて一緒に整理していきます。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
