コラム
Column
2026.09.04 暮らし・相続×親なきあと

障害のある子に、親はいくらお金を残せばいい?「金額」より先に考えたい暮らしのこと

「この子のために、いくらお金を残しておけば安心でしょうか?」

障害のある子どもの「親なきあと」を考えるなかで、多くのご家族が気になることの一つがお金です。

本人が働いて得られる収入はどのくらいあるのか。障害年金だけで生活できるのか。グループホームに入居したら毎月いくらかかるのか。将来の医療費や福祉サービスの利用料はどうなるのか。

そして、

「自分たちが亡くなったあと、この子がお金に困らないためには、いくら残せばいいのだろう」

と考える方もいるでしょう。

もちろん、親なきあとに向けて財産について考えることは大切です。

しかし、すべてのご家庭に共通する「○○万円あれば安心」という金額があるわけではありません。

必要なお金は、本人がどこで、誰と、どのように暮らしていくのかによって変わるからです。

この記事では、「いくら残すか」を考える前に整理しておきたい、障害のある本人の暮らしとお金について考えていきます。

1.障害のある子には、いくらお金を残せば安心?

一律に「この金額を残せば安心」と決めることはできません。

本人の年齢、障害の状況、収入、障害年金の受給状況、住まい、利用する障害福祉サービス、家族構成、本人が希望する暮らしなどによって、必要なお金は異なります。

たとえば、同じ1か月の生活でも、

親と同居するのか。

一人暮らしをするのか。

共同生活援助(グループホーム)を利用するのか。

一般企業で働くのか。

就労継続支援A型・B型や生活介護などを利用するのか。

それぞれで収入と支出は変わります。

だからこそ、

「いくら残すか」から考えるのではなく、「どんな暮らしを続けたいのか」から考える。

これがお金の準備を始める一つの方法です。

2.まず、本人にはどんな収入がある?

親なきあとのお金を考えるときは、「残す財産」だけでなく、本人自身の収入を確認します。

代表的なものとして、まず考えられるのが働いて得る収入です。

一般企業で働いている方もいれば、就労継続支援A型で雇用契約を結んで働いている方、就労継続支援B型で生産活動などに参加し工賃を得ている方もいます。

そして、障害の状態など一定の要件を満たす場合には、障害基礎年金や障害厚生年金を受給できることがあります。

障害年金については、障害の程度だけでなく、初診日や保険料納付要件なども関係するため、障害がある方すべてが受給できる制度ではありません。

ほかにも、本人の状況によって各種手当などを受けている場合があります。

まずは、

  • 給与や工賃
  • 障害年金
  • 各種手当
  • その他の定期的な収入

など、現在、本人自身にどのくらいの収入があるのかを整理してみましょう。

3.本人の暮らしには、毎月いくらかかっている?

次に確認したいのが、本人の現在の生活費です。

食費、住居費、光熱費、通信費、日用品、医療費、交通費、趣味や余暇など、本人が暮らしていくためにはさまざまなお金がかかります。

ところが、親と同居していると、本人の生活費と家族全体の生活費が一緒になっていることがあります。

たとえば、

「食費のうち、本人分はいくらだろう」

「水道光熱費は親が払っている」

「スマートフォン料金は家族口座から引き落としている」

「本人の日用品や衣服は親が購入している」

という家庭もあるでしょう。

この状態では、親がいなくなったあとに本人一人の暮らしにどのくらいお金が必要なのかが見えにくくなります。

最初から1円単位で計算する必要はありません。

まずは現在の暮らしのなかで、

本人の収入はいくらか。
本人のために毎月どのくらい使っているか。
その差額を現在誰が負担しているか。

を大まかに把握するだけでも、将来のお金を考えやすくなります。

4.住まいが変わると、必要なお金も変わる?

住まいは、親なきあとの生活費を考えるうえで大きな要素の一つです。

現在は親と一緒に実家で暮らしていても、将来も同じ家に住み続けるとは限りません。

共同生活援助(グループホーム)を利用する場合には、家賃や食費、光熱水費、日用品費などが必要になります。

一人暮らしをする場合には、家賃や光熱費などに加えて、必要に応じて居宅介護(ホームヘルプ)などの障害福祉サービスを利用することも考えられます。

また、障害福祉サービスには所得に応じた利用者負担の仕組みがあり、共同生活援助の利用者については、一定の要件を満たす場合に家賃負担を軽減する特定障害者特別給付費(補足給付)の対象となる場合があります。

つまり、「グループホームなら毎月○万円」と一律には言えません。

住む地域や事業所、本人の所得、利用するサービス、生活スタイルなどによって実際の負担は異なります。

だからこそ、将来の住まいを考えるときには、場所だけでなく「その暮らしに毎月いくら必要なのか」まで一緒に確認することが大切です。

5.「毎月足りない金額」から考えると、必要な財産が見えやすくなる?

親が残す財産を考える一つの方法は、本人の収入と支出の差を見ることです。

たとえば、

本人の収入 - 本人の生活に必要なお金 = 毎月の収支

という考え方です。

仮に本人の収入だけでは生活費をすべて賄えない場合には、その不足分を現在誰が負担しているのか確認します。

ただし、ここで、

「毎月3万円不足するから、30年分で1,080万円必要」

と単純に決めてしまうことには注意が必要です。

将来の物価や本人の生活状況、収入、障害福祉制度、医療の状況などは変化する可能性があります。

また、年齢を重ねることで必要な支援そのものが変わることもあります。

大切なのは、将来を完全に予測することではなく、現在の暮らしを基準に、お金の全体像を把握することです。

6.お金を「残すこと」だけ考えればいい?

財産額だけでなく、「そのお金を本人がどのように使っていくのか」も考える必要があります。

親が十分な財産を残したとしても、本人が預貯金を自分で管理することが難しい場合があります。

反対に、本人自身で管理できる方もいます。

本人の判断能力や生活状況などによっては、成年後見制度などの支援が関係する場合もあります。

また、親の財産を本人へどのように引き継ぐかを考える際には、遺言、相続、生命保険、信託などが検討されることもあります。

ただし、それぞれ仕組みも法的な効果も異なります。

「障害のある子がいるなら、この制度を使うべき」という一つの正解があるわけではありません。

だからこそ、

①本人にどのくらいのお金が必要なのか
②本人自身でどこまで管理できるのか
③どのような支援があれば管理できるのか
④親の財産をどのようにつないでいくのか

という順番で考えていくことが大切です。

遺言や成年後見制度、信託などについて具体的に検討する場合には、弁護士、司法書士、税理士など、それぞれの分野の専門家へ確認することも必要になります。

7.お金のことを考えるとき、本人の希望も確認している?

お金の準備は、本人がどのような暮らしをしたいのかと切り離して考えることはできません。

「できるだけたくさん残してあげたい」

そう思うことは、親として自然な気持ちかもしれません。

一方で、その前に考えてみたいことがあります。

本人はどこで暮らしたいのか。

今の仕事や日中活動を続けたいのか。

休日には何をしたいのか。

好きなものは何か。

どんな人とのつながりを大切にしたいのか。

本人の希望をすべて実現できるとは限りません。

それでも、本人が望む暮らしを知ることで、「何のためにお金を準備するのか」が見えてきます。

親なきあとのお金は、単に財産を残すためのお金ではありません。

本人がこれからも自分らしい暮らしを続けていくためのお金として考えてみることが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q1.障害年金だけで生活することはできますか?

障害年金の受給額だけでなく、本人の住まい、給与や工賃などの収入、利用する障害福祉サービス、生活費などによって異なります。

そのため、「障害年金だけで暮らせるか」ではなく、本人の収入と支出を合わせて考えることが必要です。

Q2.グループホームに入居すると、毎月いくら必要ですか?

共同生活援助(グループホーム)では、家賃、食費、光熱水費、日用品費などが必要になりますが、金額は事業所や地域などによって異なります。

また、所得状況などによって障害福祉サービスの利用者負担や補足給付が関係する場合があります。検討している事業所へ実際の費用を確認することが大切です。

Q3.障害のある子には、多めに相続させた方がいいですか?

家族構成や本人の暮らし、財産状況などによって異なるため、一律には言えません。

また、他の相続人との関係や遺留分など、相続上の検討が必要になる場合もあります。

まず本人の暮らしに必要なお金を整理したうえで、具体的な遺産分割や遺言については専門家に相談することが考えられます。

Q4.本人がお金を管理することが難しい場合はどうすればいいですか?

本人がどの程度自分で管理できるのか、どの部分に支援が必要なのかによって方法は異なります。

日常生活自立支援事業や成年後見制度などが関係する場合もありますが、対象となる方や支援内容はそれぞれ異なります。

まずは相談支援専門員や地域の相談機関などに相談し、必要に応じて社会福祉協議会や法律専門職などにつないでもらう方法があります。

まとめ|「いくら残すか」の前に、「どんな暮らしを支えるお金か」を考える

障害のある子の親なきあとを考えると、

「いくらお金を残せば安心なのだろう」

という問いに答えを求めたくなるかもしれません。

けれども、必要な金額は本人の暮らしによって変わります。

まずは、

本人にはどんな収入があるのか。

現在の暮らしにいくらかかっているのか。

将来どこで暮らしたいのか。

どんな障害福祉サービスを利用する可能性があるのか。

本人自身でどこまでお金を管理できるのか。

そして、どんな暮らしを続けたいのか。

一つずつ整理してみる。

その先に、「わが家では、どのくらいのお金を、どのような形で準備しておくとよいのか」が見えてきます。

親なきあとのお金を考えることは、単に財産を残すことではありません。

本人のこれからの暮らしを支える方法を考えること。

その視点から始めてみてはいかがでしょうか。

「本人の将来の生活費を整理したい」「障害年金や住まい、相続などを含めて、わが家の場合は何から考えればよいのか分からない」というときは、あしたパートナーズの「親なきあと相談」もご利用いただけます。

住まい、生活・就労、お金、人とのつながりなど、ご家族ごとに異なる状況を伺いながら、これからの暮らしについて一緒に整理していきます。

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執筆者

首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役

ともに、“あした”を
つくる。

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