「将来はお願いね」と言われたきょうだいへ――親なきあとを背負わないために
「私たちがいなくなったら、この子のことをお願いね」
障害のある兄弟姉妹がいる方のなかには、親からこのような言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
親としては、「将来もきょうだい同士で支え合ってほしい」という想いから出た言葉かもしれません。
一方、言われたきょうだいにとっては、
「自分が面倒を見なければいけないのだろうか」
「一緒に暮らすことになるのだろうか」
「お金の管理も自分がするのだろうか」
「結婚や仕事、住む場所も自由に決められなくなるのだろうか」
と、将来への不安につながることがあります。
障害のある兄弟姉妹を大切に思う気持ちと、自分自身の人生を大切にしたいという気持ちは、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。
親なきあとを「きょうだいが親の役割を引き継ぐこと」と考えるのではなく、本人を中心に、家族や障害福祉、地域、専門家などがそれぞれの役割を担える状態をつくっていく。
この記事では、そんな視点から、きょうだいと親なきあとについて考えていきます。
1.親なきあと、きょうだいが「面倒を見る」必要がある?
親が担ってきたことを、きょうだいがすべて引き継ぐ必要はありません。
親は長い年月のなかで、障害のある本人の暮らしをさまざまな形で支えていることがあります。
食事や家事。
服薬や通院。
障害年金や生活費などのお金の管理。
生活介護や就労継続支援などの障害福祉事業所とのやり取り。
行政手続き。
困ったときの相談。
そして、本人の気持ちを受け止めること。
こうした役割を、
「親ができなくなったら、次はきょうだいが全部やる」
と考えてしまうと、きょうだいに大きな負担が集中します。
大切なのは、親の代わりを探すことではありません。
本人が自分でできること、障害福祉サービスで支えられること、専門家に相談できること、そして家族だからこそできることを整理していくことです。
2.きょうだいには、どんな不安がある?
きょうだいの不安は、「介護をするかどうか」だけではありません。
親なきあとを考えると、さまざまな疑問が出てきます。
1.住まいのこと
「親が亡くなったら、兄はどこで暮らすのだろう」
「自分と一緒に住まなければいけないのだろうか」
本人が現在実家で暮らしている場合には、特に気になる問題です。
将来的には、実家での生活を続けるほか、共同生活援助(グループホーム)や一人暮らしなど、本人の状況や希望に応じてさまざまな選択肢が考えられます。
2.お金のこと
「本人の生活費はどうなるのか」
「自分がお金を出さなければならないのか」
「障害年金や預貯金は誰が管理するのか」
本人の給与や工賃、障害年金、預貯金、相続する財産などを含めて考える必要があります。
3.手続きや金銭管理のこと
親がこれまで行政手続きや契約、預貯金の管理などを担っている家庭もあります。
本人の状況によっては、将来的な金銭管理や契約支援について、成年後見制度や日常生活自立支援事業などが関係する場合もあります。
4.自分自身の人生のこと
就職、転職、結婚、子育て、転居。
きょうだいにも自分自身の人生があります。
「本人のことを考えると、遠くへ引っ越せない」
「結婚相手にどう説明すればいいのだろう」
「自分の子どもにも負担が続いてしまうのではないか」
こうした不安も、親なきあとを考えるうえで大切な問題です。
3.きょうだいは、障害のある兄弟姉妹を扶養しなければならない?
法律上の関係と、実際にどこまで生活を支えるのかは、分けて考える必要があります。
民法上、兄弟姉妹は一定の場合に扶養義務が問題となる関係にあります。
ただし、「扶養義務がある」という言葉だけを見て、
「きょうだいが親の代わりになり、本人の生活費や介護をすべて担わなければならない」
と考えるのは適切ではありません。
実際には本人の収入や資産、障害年金、利用できる社会保障制度や障害福祉サービス、きょうだい自身の生活状況など、さまざまな事情が関係します。
個別のケースで法的な義務や金銭負担が問題になる場合には、自治体の窓口や弁護士などの専門家へ確認することが大切です。
少なくとも、親なきあとについて家族で話し合う段階から、
「きょうだいが全部やることが前提」
にする必要はありません。
4.「成年後見人は、きょうだいがなればいい」と決めていい?
成年後見人になることと、きょうだいであることは別の問題です。
本人の判断能力などによって成年後見制度の利用が必要になった場合、家庭裁判所が成年後見人等を選任します。
親族が選任される場合もありますが、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選任される場合もあります。
そのため、
「親が亡くなったら妹が成年後見人になる」
と家族だけで決めて、そのとおりになるとは限りません。
また、成年後見人等には財産管理や身上保護に関する役割がありますが、本人の日常生活のすべてを直接支援する人というわけでもありません。
成年後見制度を利用するかどうかも含め、本人にどのような支援が必要なのかを整理して考えることが大切です。
5.親が元気なうちに、きょうだいへ伝えておきたいことは?
「将来お願いね」ではなく、「今、どんな支援があるのか」を共有することが大切です。
きょうだいが不安になる理由の一つに、本人の暮らしがよく分からないことがあります。
たとえば、
「本人は障害年金を受給しているのか」
「預貯金はどのくらいあるのか」
「相談支援専門員は誰なのか」
「どんな障害福祉サービスを利用しているのか」
「生活介護や就労継続支援の事業所とは誰が連絡を取っているのか」
「親が入院したときに相談できる場所はあるのか」
「本人は将来どこで暮らしたいと思っているのか」
こうしたことを知らないまま、
「将来はお願いね」
とだけ言われれば、不安が大きくなるのも無理はありません。
逆に、本人を支える人や制度が見えてくると、
「自分一人ですべてを背負うわけではない」
と考えられるようになることがあります。
6.きょうだい以外に、誰とつながっておけばいい?
本人の暮らしを知っている人が、家族以外にもいることが大切です。
たとえば、
- 相談支援専門員
- 生活介護や就労継続支援などの障害福祉事業者
- 共同生活援助(グループホーム)の支援者
- 医療機関
- 市区町村の障害福祉担当窓口
- 基幹相談支援センターなどの相談機関
- 成年後見制度などに関わる専門職
- 本人が信頼している人
などがあります。
地域によっては、障害のある方の重度化・高齢化や「親なきあと」を見据え、相談や緊急時の受入れなどを地域で支える地域生活支援拠点等の整備も進められています。
大切なのは、支援者をたくさん集めることではありません。
本人が困ったときに、家族以外にも相談できる人や場所があること。
そして、きょうだい自身も「困ったらここに相談できる」と知っていることです。
7.相続や遺言も、きょうだいと一緒に考えた方がいい?
親の財産をどう残すかは、障害のある本人だけでなく、きょうだいにも関係する問題です。
親として、
「障害のある子には将来お金が必要だから、多く残したい」
と考えることもあるでしょう。
一方で、相続には他の相続人も関係します。
遺言を作成する場合にも、財産の分け方だけではなく、遺留分など法律上の問題を確認する必要があります。
また、障害のある本人へ財産を多く残したとしても、
「本人がその財産をどのように管理するのか」
という問題は別に残ります。
だからこそ、「障害のある子にいくら残すか」だけでなく、「家族それぞれの暮らしをどう考えるか」という視点が必要です。
相続や遺言について具体的に検討する場合には、家族だけで結論を出さず、弁護士、司法書士、税理士などの専門家へ相談することも考えられます。
8.きょうだいは、どこまで関わればいい?
「ここまで関わらなければならない」という一つの正解はありません。
近くに住み、日常的に関わりたい人もいるでしょう。
離れて暮らしながら、ときどき本人の様子を確認したい人もいるでしょう。
必要なときに相談に乗るくらいの距離を望む人もいるかもしれません。
本人との関係や家族の状況は、それぞれ違います。
大切なのは、親が決めた役割をそのまま引き継ぐのではなく、本人の希望と、きょうだい自身の希望の両方を大切にしながら、関わり方を考えていくことです。
きょうだいが自分の人生を大切にすることと、障害のある兄弟姉妹を大切にすることは、矛盾するものではありません。
よくある質問(FAQ)
Q1.親が亡くなったら、きょうだいが障害のある本人と同居しなければなりませんか?
一律に同居しなければならないわけではありません。
本人の希望や支援の必要性に応じて、共同生活援助(グループホーム)や一人暮らしなどを含め、住まいを検討していくことになります。
相談支援専門員や市区町村の障害福祉担当窓口などに相談する方法があります。
Q2.きょうだいが成年後見人にならなければなりませんか?
きょうだいだから成年後見人にならなければならないわけではありません。
成年後見制度を利用する場合、成年後見人等は家庭裁判所が選任します。親族だけでなく、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選任される場合もあります。
Q3.親の財産は、障害のある子に多く残した方がいいですか?
本人の生活費や資産、家族構成、他の相続人との関係などによって異なります。
「多く残せば安心」とは限らないため、本人の将来の暮らしと必要なお金を整理したうえで、相続や遺言について考えることが大切です。
Q4.親と「親なきあと」の話をするのが難しいです。どうすればいいですか?
いきなり「親が亡くなったあと」の話から始めなくても構いません。
「今、本人はどんな障害福祉サービスを使っているの?」「相談支援専門員は誰?」など、現在の暮らしについて確認するところから始める方法もあります。
家族だけで話すことが難しい場合には、第三者の相談機関や専門家に入ってもらうことも選択肢の一つです。
まとめ|きょうだいが「次の親」になる必要はない
親なきあとを考えるとき、
「親が担ってきた役割を、次はきょうだいが担う」
という形だけを前提にする必要はありません。
本人自身ができること。
障害福祉サービスで支えられること。
相談支援専門員や地域の支援者と一緒に考えられること。
成年後見制度など専門的な仕組みを検討できること。
そして、家族だからこそできること。
それぞれを整理していくことで、きょうだい一人に役割を集中させない形を考えることができます。
あしたパートナーズが大切にしているのは、障害のある本人だけでなく、家族それぞれの人生を大切にすることです。
きょうだいにも、自分の仕事があります。
暮らしたい場所があります。
大切にしたい人がいます。
そして、自分自身の人生があります。
だから、「将来はお願いね」という一言で将来を決めるのではなく、
本人はどんな暮らしをしたいのか。
親は今、何を担っているのか。
家族以外に誰とつながっているのか。
そして、きょうだい自身はどのように関わりたいのか。
家族それぞれの想いを少しずつ言葉にしていくことから、親なきあとへの準備を始めてみてはいかがでしょうか。
「親から将来のことを頼まれているけれど、どう考えればよいか分からない」「きょうだいだけに負担が集中しない親なきあとを考えたい」というときは、あしたパートナーズの「親なきあと相談」もご利用いただけます。
住まい、生活・就労、お金、きょうだい、人とのつながりなど、ご家族それぞれの状況や想いを伺いながら、これからの暮らしについて一緒に整理していきます。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
