障害のある子がいるオーナー経営者の事業承継|会社と家族の将来をどう考える?
会社を経営する方にとって、「誰に、どのように事業を承継するか」は、いつか向き合うことになる大切なテーマです。
そして、障害のあるお子さまがいるオーナー経営者の場合、事業承継について考える際には、もう一つ大切な視点があります。
それが、障害のあるお子さまの「親なきあと」です。
誰を後継者にするのか。
自社株を誰に承継するのか。
障害のある子には、どのような財産を残すのか。
他のきょうだいとの相続をどう考えるのか。
そして、経営者である親自身が高齢になったり、判断能力が低下したりした場合に、会社と家族の暮らしをどのように守るのか。
これらは、それぞれ別の問題に見えます。
しかし、オーナー経営者の場合、会社の経営権、自社株、個人財産、相続が密接に関係しているため、「事業承継」と「親なきあと」を切り離して考えることが難しい場合があります。
この記事では、障害のあるお子さまがいるオーナー経営者が、会社の事業承継と家族の親なきあとを考える際に、確認しておきたい基本的な視点を整理します。
1.障害のある子がいると、事業承継で何が変わるのでしょうか?
事業承継そのものの基本的な考え方が変わるわけではありません。ただし、会社の承継と「親なきあと」の双方の視点から検討することが重要です。
事業承継では、一般に、
- 親族内承継
- 従業員・役員等への承継
- 第三者への承継(M\&A)
などの方法が検討されます。
障害のあるお子さまがいるからといって、特別な承継方法が一つ決まっているわけではありません。
大切なのは、
「会社を誰に、どのように継がせるか」
という問題と、
「親なきあとに、障害のある子の暮らしをどのように支えるか」
という問題を、いったん分けて整理することです。
そのうえで、両者をどのように両立させるかを考えます。
経営を担うのに適した人と、相続によって財産を受け取る人が、必ずしも同じである必要はありません。
会社を継続させるための経営判断・事業承継対策と、障害のある子を含めた家族それぞれの将来を考えた相続対策。この二つを一緒に考えることが重要になります。
2.「後継者」と「相続人」は分けて考えた方がいい?
後継者と相続人は、役割が異なります。
たとえば、経営者に長男と次男がいて、長男には障害があり、次男が会社で働いているとします。
この場合、
「子どもは二人だから、自社株も半分ずつ相続させれば公平なのではないか」
と考えることもあるでしょう。
しかし、自社株には財産としての価値だけでなく、議決権など、会社の意思決定に関わる権利が伴います。
株式が複数の相続人へ分散することで、将来の会社運営に影響が生じる可能性もあります。また、長男の障害の程度によっては、株主として意思決定できず株主総会が動かせない、M\&Aなどが進まなくなる、といった事態も予想されます。
一方で、
「会社を継ぐ次男に自社株をすべて承継させれば問題ない」
と単純に考えればよいわけでもありません。
障害のある長男の親なきあとの生活に必要な財産をどのように確保するのか、他の財産とのバランスをどう考えるのか、遺留分を含む相続上の問題をどう整理するのかといった検討も必要になります。
つまり、
会社を誰に任せるか。
自社株を誰に承継させるか。
障害のある子の親なきあとに、どのような財産を残すか。
これらを分けて整理したうえで、全体として設計することが大切です。
3.障害のある子に自社株を相続させてもいい?
障害があることだけを理由に、自社株を相続できないわけではありません。
ただし、自社株を承継させる際には、財産としての価値だけを見るのではなく、その株式が持つ権利や、本人が将来どのように財産を管理していくのかまで考える必要があります。
たとえば、
- 本人は株主としての権利をどのように行使するのか
- 配当がある場合、その収入を親なきあとの暮らしにどう生かすのか
- 本人自身で財産管理や法律行為を行うことが難しい場合、どのような支援が必要になるのか
- 将来的に株式の売却などが必要になった場合、どのように対応するのか
といった問題です。
本人の判断能力の状況によっては、成年後見制度などが関係する場合もあります。
そのため、「財産価値があるから、障害のある子に自社株を残す」という判断だけでなく、親なきあとの財産管理や本人の暮らし、会社の経営への影響まで含めて検討することが重要です。
4.自社株以外の財産とのバランスはどう考える?
「誰にいくら残すか」だけではなく、「どの財産を誰に残すか」という視点が重要です。
オーナー経営者の財産には、
- 自社株
- 会社に対する貸付金
- 事業用不動産
- 自宅
- 賃貸不動産
- 預貯金
- 有価証券
- 生命保険
など、性質の異なる財産が含まれていることがあります。
たとえば、後継者には会社経営に必要な自社株を承継させ、障害のあるお子さまには、親なきあとの生活を支えることを念頭に別の財産を残すという考え方もあります。
もっとも、具体的な財産配分を考える際には、相続人の構成、財産額、遺留分、税務上の問題などを確認する必要があります。
ここで重要なのは、
「平等に分けること」と「家族それぞれに適した形で残すこと」は、必ずしも同じではない
という点です。
形式的な金額だけでなく、それぞれの家族がその財産をどのように使い、どのような暮らしをしていくのかまで考えることが大切です。
5.遺言を作っておけば、事業承継と親なきあとは解決する?
遺言は重要な手段の一つですが、遺言だけで事業承継や親なきあとのすべてが解決するわけではありません。
遺言によって、自社株や不動産、預貯金などを誰に承継させたいのか、自らの意思を一定の形で残すことができます。
特に、自社株など会社経営に関係する財産を特定の後継者へ承継させたい場合には、遺言を含めた相続対策を検討することが考えられます。
しかし、
「誰に財産を渡すか」
を決めても、
「親なきあとに、障害のある本人がその財産を使いながらどのように暮らすのか」
という問題は残ります。
住まいはどうするのか。
生活介護や就労継続支援など、現在利用している障害福祉サービスをどう続けるのか。
障害年金や預貯金を誰がどのように管理するのか。
通院や医療について誰と相談するのか。
困ったときに相談できる人はいるのか。
本人の意思決定をどのように支えるのか。
こうした暮らしの準備は、遺言だけで整えられるものではありません。
遺言は財産をつなぐための仕組みの一つであり、親なきあとの暮らしを支える体制そのものではない。
この二つを区別して考えることが大切です。
6.成年後見制度を使えば、自社株の問題も解決する?
成年後見制度も、事業承継や親なきあとの課題をすべて解決する仕組みではありません。
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方について、本人の権利や財産を法律的に支えるための制度です。
本人の判断能力などによって成年後見制度の利用が必要となる場合、家庭裁判所が成年後見人等を選任します。
成年後見人等には財産管理や身上保護に関する役割がありますが、本人の日常生活のすべてを直接支援する人というわけではありません。
また、成年後見人等は本人の利益のために職務を行う必要があります。
そのため、
「障害のある子に自社株を残し、親なきあとは成年後見人に管理してもらえばよい」
とだけ考えるのではなく、
会社の経営権は誰に託すべきなのか。
本人にはどのような財産を残すのが適切なのか。
本人の財産管理にはどのような支援が必要なのか。
本人の日々の暮らしは誰と支えていくのか。
という問題を、それぞれ整理する必要があります。
7.経営者である親自身の認知症や突然の病気にも備える必要がある?
事業承継も「親なきあと」も、親が亡くなったあとのことだけを考える問題ではありません。
経営者が高齢になり、認知症などによって判断能力が低下した場合、自社株の議決権行使や会社経営に必要な意思決定、個人財産の管理などに影響が生じる可能性があります。
また、病気や事故によって、突然経営を続けることが難しくなることもあります。
同時に、障害のあるお子さまについても、食事や家事、服薬や通院、障害年金や生活費の管理、障害福祉事業所との連絡、行政手続きなどを親が担っている場合があります。
経営者である親が突然動けなくなれば、
「会社を誰が支えるのか」という問題と、「障害のある子の暮らしを誰が支えるのか」という問題が、同時に表面化する可能性があります。
あしたパートナーズでは、「親なきあと」を親が亡くなったあとのことだけではなく、加齢や病気などによって、それまでと同じように本人を支えることが難しくなっていく段階から考えています。
だからこそ事業承継についても、
「自分が亡くなったらどうするか」だけではなく、「自分が会社や家族を今までと同じように支えられなくなったらどうするか」
という視点が重要になります。
8.後継者がいない場合、どんな選択肢がある?
親族に後継者がいないからといって、直ちに廃業だけが選択肢になるわけではありません。
会社の状況によっては、
- 従業員や役員への承継
- 第三者への株式譲渡や事業譲渡などのM\&A
- 事業の一部を承継する方法
- 廃業
など、複数の方向性を検討することができます。
大切なのは、「子どもに継がせること」を事業承継の唯一の前提にしないことです。
障害のあるお子さまが経営を望んでいない場合もあれば、本人の状況や会社の事情から、別の人へ経営を託した方がよい場合もあります。
第三者へ会社を承継し、その結果として得られた財産を、障害のあるお子さまの親なきあとの暮らしや、家族それぞれの将来に生かすという考え方もあり得ます。
M\&Aも、単に会社を「売ること」だけを目的とするものではありません。
従業員の雇用や取引先との関係など、これまで育ててきた事業を次の担い手へつなぐための選択肢として検討される場合があります。
9.事業承継と親なきあとについて、誰に相談すればいい?
事業承継と親なきあとを一緒に考える場合、一つの専門分野だけでは整理しきれないことがあります。
たとえば、会社法や相続、遺言については弁護士や司法書士、相続税や自社株評価、事業承継税制については税理士、M\&AについてはM\&Aの専門家など、それぞれ異なる専門性が関係します。
一方、障害のある本人の暮らしや障害福祉サービスについては、相談支援専門員や障害福祉事業者などとのつながりも重要になります。
だからこそ、最初から「遺言を作る」「成年後見制度を使う」「M\&Aをする」と手段を決めるのではなく、
会社をこれからどうしたいのか。
障害のある本人は、親なきあとにどのような暮らしをしたいのか。
家族それぞれが、どのような人生を望んでいるのか。
これらのお考えを、ぜひお聞かせください。
あしたパートナーズには、親なきあと問題、事業承継、相続、税金、M\&Aなど、幅広い専門家が所属し、あなたのご相談をお待ちしています。
よくある質問(FAQ)
Q1.障害のある子を会社の後継者にしなくても問題ありませんか?
障害があるかどうかにかかわらず、誰を後継者とするかは、本人の意思や状況、会社の状況などを踏まえて検討する問題です。
「子どもだから継がせる」「障害があるから継がせない」と最初から決めるのではなく、本人の希望や適性、会社の状況も含めて考えることが大切です。
Q2.障害のある子に自社株を相続させることはできますか?
障害があることだけを理由に、自社株を相続できないわけではありません。
ただし、自社株には財産価値だけでなく株主としての権利が伴うため、本人の財産管理の状況、親なきあとの生活、会社経営への影響なども含めて検討する必要があります。
Q3.後継者に自社株を集中させると、障害のある子の相続はどうなりますか?
自社株以外の財産も含めた相続財産全体や相続人の構成などによって異なります。
遺留分などの法律上の問題が生じる可能性もあるため、障害のあるお子さまの親なきあとに必要な財産も含め、具体的な財産配分について専門家と検討することが重要です。
Q4.成年後見人がいれば、障害のある子が相続した自社株を管理してもらえますか?
成年後見人には本人の財産を管理する役割がありますが、本人の利益のために職務を行う必要があります。そのため、必ずしも経営上適切な判断・議決権行使が行われるとは限りません。
自社株を誰に承継させるかを考える際には、成年後見制度だけを前提とせず、会社の経営権、本人に残すその他の財産、親なきあとの暮らしまで含めて検討することが大切です。
まとめ|「事業承継」と「親なきあと」を別々に考えない
障害のあるお子さまがいるオーナー経営者の事業承継では、
誰を後継者にするか。
自社株を誰に承継させるか。
障害のあるお子さまにどのような財産を残すか。
他のきょうだいとの相続をどう考えるか。
そして、親なきあとの本人の暮らしを誰と支えていくのか。
複数の問題が重なります。
だからこそ、最初から遺言やM\&A、成年後見制度といった「手段」を決めるのではなく、
会社をこれからどうしたいのか。
障害のある本人には、親なきあとにどのような暮らしをしてほしいのか。
そして、家族それぞれが、どのような人生を歩んでいきたいのか。
を整理することが大切です。
事業をつなぐこと。
財産をつなぐこと。
そして、親なきあとの暮らしを、家族だけで抱え込まない形へつないでいくこと。
「事業承継」と「親なきあと」を一つの時間軸のなかで考えていくことが、障害のあるお子さまがいるオーナー経営者にとって、大切な備えの一つではないでしょうか。
具体的な事業承継や相続については、会社の状況、株主構成、財産、ご家族の状況などによって適切な方法が異なります。法律・税務に関する個別の判断については、弁護士・税理士など、それぞれの専門家へご相談ください。
親なきあとについて、どこから考えればよいか迷ったら
事業承継や相続を考えるなかで、「障害のある子の親なきあとについては、何から準備すればよいのだろう」と迷うこともあるかもしれません。
あしたパートナーズの「親なきあと相談」では、障害のある本人やご家族の暮らしを中心に、住まい、生活・就労、お金、人とのつながり、相続など、これから考えていきたいことを一緒に整理しています。
まだ何を相談すればよいのか整理できていない段階でも構いません。
執筆者
弁護士 伊藤 良太(いとう りょうた)
一般社団法人あしたパートナーズ 理事・アドバイザー
株式会社あしたパートナーズ 取締役
弁護士法人ベイス法律事務所 代表パートナー弁護士
