家族が担っている「見えない支援」を、福祉へどう引き継ぐか
障害のある方の暮らしを支えているのは、障害福祉サービスだけではありません。
本人が自宅で家族と暮らしている場合、日々の生活のなかで親や家族がさまざまなことを担っています。
食事を用意する。
服薬を確認する。
通所の準備をする。
予定を管理する。
お金を管理する。
本人の体調の変化に気づく。
本人の言葉を周囲へ伝える。
こうした役割は、家族にとっては長年続けてきた「いつものこと」になっているため、本人も家族も、それを「支援」と認識していないことがあります。
しかし、親の高齢化や病気、入院などによって家族がそれまでと同じように支えられなくなったとき、この「見えない支援」が一気に表面化することがあります。
親なきあとに備えるためには、家族が担っていることを整理するだけでは十分ではありません。
そのなかから、
本人自身でできること。
障害福祉サービスで支えられること。
家族以外の人と分担できること。
専門家や地域との連携が必要なこと。
を整理し、少しずつ本人の暮らしを家族だけに依存しない形へ変えていく必要があります。
この記事では、相談支援専門員をはじめとする支援者の方に向けて、家族が担っている「見えない支援」をどのように把握し、本人の暮らしを支える仕組みへ引き継いでいくのかを考えます。
1.そもそも「見えない支援」とは?
あしたパートナーズでは、家族が日常生活のなかで自然に担っていて、本人や家族自身も支援と意識しにくい行為を「見えない支援」と呼んでいます。
たとえば、朝の場面だけでも、
本人を起こす。
その日の予定を伝える。
服を準備する。
朝食を用意する。
薬を渡す。
持ち物を確認する。
通所時間を伝える。
送迎車が来るまで見守る。
といったことを家族が担っている場合があります。
さらに、日常生活の外側にもあります。
障害福祉事業所からの連絡に対応する。
行政から届いた書類を確認する。
通院を予約する。
薬を受け取る。
障害年金や預貯金を管理する。
本人の不安が強いときに話を聞く。
本人がうまく説明できないことを支援者へ伝える。
こうした一つひとつの行為によって、本人の暮らしが成り立っています。
問題は、その役割が「家族がやっていて当たり前」になっていると、支援者から見えにくいことです。
2.なぜ「見えない支援」を把握する必要がある?
家族が元気なうちは、見えない支援が問題になることは少ないかもしれません。
しかし、親が突然入院したらどうでしょうか。
いつもの時間に本人を起こす人がいない。
服薬を確認する人がいない。
通所の準備ができない。
事業所から電話をしても、家族につながらない。
本人の生活費がどこから支払われているのかわからない。
本人の体調が悪くても、普段の様子を説明できる人がいない。
それまで問題なく続いていた暮らしが、急に不安定になることがあります。
このとき起きているのは、「親がいなくなった」という一つの問題ではありません。
親が担っていた複数の役割が、同時になくなっているのです。
だからこそ、親なきあとへの準備では、
「親がいなくなったら誰が面倒を見るのか」
という大きな問いだけではなく、
「今、家族は何をしているのか」
を一つずつ確認することが重要になります。
3.家族の役割を、どうやって把握すればいい?
「普段、お母さまは何をしていますか?」
と聞くだけでは、すべての役割が出てこないことがあります。
家族にとって日常になりすぎているからです。
そこで、本人の一日を時間軸で追ってみる方法があります。
朝起きてから、家を出るまで。
日中活動や仕事から帰宅してから、寝るまで。
休日。
通院する日。
体調を崩したとき。
お金が必要になったとき。
行政手続きが必要になったとき。
場面ごとに、
本人が自分でしていること。
家族がしていること。
福祉サービスや支援者がしていること。
を確認していきます。
さらに、
「家族が1週間いなかったら、困ることは何ですか」
と考えてみると、普段は見えていなかった役割が見つかることもあります。
大切なのは、家族が担っている役割を「できていないことの一覧」にしないことです。
本人の暮らしが現在どのように成り立っているのかを理解するための整理です。
4.見つかった支援を、すべて福祉サービスへ移せばいい?
そうとは限りません。
「家族がやっていることを全部福祉へ移す」
ことが親なきあとへの準備ではありません。
まず考えたいのは、本人自身でできる可能性です。
たとえば、母親が毎朝服を準備している場合でも、
本人が選択肢のなかから服を選ぶことはできるかもしれません。
親がお金を管理していても、
少額の買い物であれば本人自身でできるかもしれません。
通所の準備も、写真やチェックリストなどを使えば本人自身でできる可能性があります。
家族が長年支えてきたからこそ、本人が経験する機会がなかったこともあります。
そのため、
本人自身でできること。
工夫や練習によってできそうなこと。
見守りがあればできること。
誰かの支援が必要なこと。
を分けて考えることが大切です。
親なきあとへの準備は、本人から家族を引き離すことではありません。
本人が自分で選び、自分でできることを増やしながら、必要なところを社会と一緒に支えていくことでもあります。
5.福祉サービスで引き継げること、引き継げないことを整理する
家族が担っている役割のなかには、障害福祉サービスによって支援できるものがあります。
たとえば本人の状況に応じて、
居宅介護。
共同生活援助(グループホーム)。
短期入所。
生活介護。
就労系障害福祉サービス。
計画相談支援。
地域生活支援事業。
などが関係することがあります。
ただし、家族が担ってきたことと、障害福祉サービスで提供できる支援が、そのまま一対一で対応するとは限りません。
家族は、制度上の支援時間やサービス区分を意識せず、必要なときに必要なことを行っています。
一方、障害福祉サービスにはそれぞれ目的や対象、支援内容があります。
そのため、
「お母さまがやっていたことを、そのままヘルパーにお願いする」
という発想だけでは引き継げないことがあります。
家族が担っている役割を整理したうえで、本人にどのような支援が必要なのかを改めてアセスメントし、利用できる制度や地域資源と組み合わせていく必要があります。
6.福祉だけでは引き継げない「見えない支援」もある
見えない支援を整理すると、障害福祉サービスだけでは対応しにくいことも見えてきます。
たとえば、
預貯金や財産の管理。
相続。
契約や法律行為。
医療に関すること。
自宅や不動産の管理。
親族間の調整。
こうした課題については、必要に応じて弁護士、司法書士、税理士、社会福祉士など、それぞれの専門家との連携が必要になる場合があります。
一方で、制度や専門職だけでは代替しにくいものもあります。
本人が不安になったときに、どのような言葉をかけると落ち着くのか。
どんな食べ物が好きなのか。
何が苦手なのか。
体調が悪くなる前に、どんな変化が見られるのか。
本人が大切にしている習慣は何か。
こうした情報は、長年一緒に暮らしてきた家族だからこそ知っていることがあります。
つまり、見えない支援の引き継ぎには、
「誰がその行為を代わりにするか」
だけではなく、
「本人について家族が知っていることを、どう残すか」
という視点も必要です。
7.一人の支援者に「親の代わり」を求めない
見えない支援を整理すると、その量の多さに驚くことがあります。
すると、
「では、誰が親の代わりになるのか」
という発想になりがちです。
しかし、親が担ってきた役割を、一人の相談支援専門員や一つの障害福祉事業所がすべて引き継ぐ必要はありません。
相談支援専門員。
居宅介護事業所。
グループホーム。
日中活動の事業所。
医療機関。
行政。
成年後見人等。
地域の人。
家族や親族。
それぞれが必要な部分を担い、情報を共有しながら本人を支える形もあります。
あしたパートナーズが大切にしているのは、「私たちだけが支える関係になっていないか」という視点です。
これは家族だけでなく、支援者にも当てはまります。
誰か一人が親の役割を背負うのではなく、本人を中心に複数の人や仕組みがつながっている状態をつくる。
それが、親なきあとにも続く暮らしを考えるうえで重要です。
8.家族が元気なうちに「小さく引き継ぐ」
見えない支援は、親が支援できなくなった日に一斉に引き継ぐ必要はありません。
むしろ、家族が元気なうちから少しずつ移していくことが大切です。
たとえば、
これまで親とだけ行っていた通院に、別の支援者も関わってみる。
短期入所を一度利用してみる。
本人自身でできそうなことを一つ増やしてみる。
金銭管理の方法を整理する。
緊急連絡先を家族以外にもつくる。
本人についての情報を支援者と共有する。
家族が参加していた支援者との打ち合わせで、本人自身の意思を確認する機会を増やす。
こうした小さな経験を積み重ねていくことができます。
本人にとっても、突然すべてが変わるより、慣れた家族がいるうちに新しい人や環境と関係をつくる方が負担を小さくできる場合があります。
親なきあとへの準備は、将来のためだけにするものではありません。
本人が今できることを増やしたり、家族の負担を少し軽くしたりすることにもつながります。
9.「引き継ぎ」は、一度つくって終わりではない
家族の役割を整理し、支援体制をつくったとしても、それで完成ではありません。
本人の状態は変わります。
親の健康状態も変わります。
支援者も変わります。
利用している障害福祉サービスが変わることもあります。
本人自身の希望も変わっていきます。
だからこそ、相談支援におけるモニタリングなどの機会を活用しながら、
家族が新たに負担していることはないか。
以前は家族が担っていたことを、本人自身でできるようになっていないか。
新たに支援が必要になったことはないか。
本人の希望に変化はないか。
を継続的に確認していくことが大切です。
親なきあとへの準備は、一枚の引き継ぎ書を完成させることではありません。
本人の暮らしの変化に合わせて、支える仕組みを更新していくプロセスです。
よくある質問(FAQ)
Q1.家族が担っていることは、どこまで細かく確認した方がいいですか?
すべてを一度に洗い出す必要はありません。
まずは本人の一日の生活や、通院、金銭管理、行政手続き、緊急時など、暮らしに影響が大きい場面から確認すると整理しやすくなります。
家族自身が支援と認識していないこともあるため、「何を支援していますか」だけではなく、「朝起きてから家を出るまで、どのように過ごしていますか」と具体的に聞く方法もあります。
Q2.親がまだ元気でも、福祉へ引き継ぎ始めた方がいいですか?
親の年齢だけで一律に判断する必要はありません。
ただし、家族しか知らないこと、家族しかできないことが多い場合には、元気なうちから少しずつ本人の経験や支援者とのつながりを増やしておく意味があります。
緊急事態になってから一度に変えるのではなく、本人や家族のペースで進めることが大切です。
Q3.親が「自分ができるうちは全部やりたい」と言っている場合は?
その気持ちを否定する必要はありません。
長年本人を支えてきた家族にとって、役割を手放すことに不安や寂しさを感じることもあります。
「支援を取り上げる」のではなく、「もしものときにも本人の暮らしが続くように、知っている人を少し増やしておきませんか」といった形で、一緒に考えていくことが大切です。
Q4.見えない支援を整理したら、誰が全体を調整するのでしょうか?
本人の状況や地域の支援体制によって異なりますが、相談支援専門員が関係機関との連携やサービス等利用計画を通じて重要な役割を担う場合があります。
ただし、相談支援専門員だけがすべてを抱えるのではなく、必要に応じて障害福祉事業者、行政、医療機関、専門家、家族などが役割を分担することが重要です。
まとめ|「親の代わり」を探すのではなく、本人を支える仕組みをつくる
親なきあとについて考えると、
「親がいなくなったら、誰がこの子を支えるのか」
という問いになりがちです。
しかし、親が担っていることを丁寧に見ていくと、その役割は一つではありません。
生活を整えること。
お金を管理すること。
健康を支えること。
予定を管理すること。
本人の気持ちを理解すること。
周囲と連絡を取ること。
困ったときに相談すること。
これらを一人の「親の代わり」へ引き継ぐ必要はありません。
本人自身でできることは本人へ。
障害福祉サービスで支えられることは福祉へ。
専門的な判断が必要なことは専門家へ。
そして、本人について家族が知っている大切な情報は、これから関わる人たちへ。
一つずつ社会へつないでいくことができます。
親がやっていることを、社会へつないでいく。
その積み重ねによって、家族だけが支え続けなくても、本人の暮らしが続いていく状態をつくる。
それが、私たちが考える親なきあとへの準備の一つです。
親なきあとについて、支援者だけでは整理が難しいときは
家族が担っていることを整理していくと、障害福祉だけでは対応しにくい、お金、相続、住まい、家族関係などの課題が見えてくることがあります。
あしたパートナーズの「親なきあと相談」では、障害のある本人やご家族の暮らしを中心に、住まい、生活・就労、お金、人とのつながり、相続などを整理し、必要に応じて各分野の支援者・専門家との連携を考えています。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
