コラム
Column
2026.09.24 暮らし・相続×親なきあと

利用者の親が突然入院したとき、障害福祉事業所はどう動く?

「利用者のお母さまが、救急搬送された」

「いつも送迎の連絡をしていたお父さまが、突然入院することになった」

障害福祉事業所では、こうした連絡を突然受けることがあります。

本人が普段どおり生活介護や就労継続支援などを利用していたとしても、家に帰れば、食事、服薬、入浴、お金の管理、翌日の準備などを家族が担っていることがあります。

その家族が突然支援できなくなれば、

「今日、本人はどこへ帰るのか」

というところから考えなければならないこともあります。

親なきあとは、必ずしも親が亡くなったときから始まるものではありません。

親の病気や入院によって、それまでの暮らしを支えていた家族の役割が突然失われることも、本人の生活にとって大きな転換点になります。

では、そのとき障害福祉事業所はどこまで対応すればよいのでしょうか。

事業所だけで本人の生活すべてを支えようとするのではなく、まず状況を整理し、相談支援専門員や行政、地域の支援機関など必要な人へつないでいくことが重要です。

この記事では、利用者の親が突然入院した場面を想定し、障害福祉事業所が確認しておきたいことを整理します。

1.親の入院が、なぜ本人の「緊急事態」になる?

親が入院したからといって、すべての利用者に緊急対応が必要になるわけではありません。

一人暮らしをしている方もいます。

グループホームで生活している方もいます。

家族以外の支援者によって生活が支えられている方もいます。

重要なのは、本人の現在の暮らしが、どの程度その親によって支えられているかです。

たとえば、本人が日中は生活介護を利用していても、

朝起こす。

食事を用意する。

服薬を確認する。

送迎の準備をする。

帰宅後の食事や入浴を支援する。

お金を管理する。

翌日の準備をする。

といったことを親が担っている場合があります。

この場合、親の入院によって失われるのは「家族が一人家にいなくなること」だけではありません。

本人の暮らしを支えていた複数の役割が、同時に失われることになります。

だからこそ、最初に確認したいのは、

「お母さまは何日くらい入院するのか」

だけではなく、

「お母さまがいないことで、本人の暮らしの何が止まるのか」

です。

2.まず確認したいのは「今日の暮らし」

突然の入院を知ったとき、将来のことまで一度に解決しようとする必要はありません。

まず確認したいのは、本人の今日からの暮らしです。

今日、本人はどこへ帰るのか。

自宅に本人以外の家族はいるのか。

食事は用意できるのか。

服薬は自分でできるのか。

夜間に一人で過ごせるのか。

翌日、事業所へ来ることができるのか。

緊急時に連絡できる親族や支援者はいるのか。

本人は親の入院についてどこまで理解しているのか。

まずは、生活を継続するために緊急性の高いことから整理します。

ここで重要なのは、事業所だけで判断しないことです。

本人の相談支援専門員がいる場合には、できるだけ早く状況を共有することが考えられます。

必要に応じて、市区町村の障害福祉担当部署、基幹相談支援センターなど、地域の相談機関との連携も検討します。

3.「緊急連絡先に電話した」で終わっていない?

多くの障害福祉事業所では、利用開始時などに緊急連絡先を確認しているでしょう。

しかし、その連絡先が親一人だけになっていることがあります。

父親が第一連絡先。

母親が第二連絡先。

というケースでも、二人が同居しており、一方が入院したことで、もう一方も病院対応などに追われている場合があります。

また、登録された連絡先自体が古くなっていることもあります。

緊急時には、

親以外に連絡できる家族・親族はいるか。

相談支援専門員は誰か。

利用している他の障害福祉サービスはあるか。

本人を普段から知っている支援者は誰か。

などを確認する必要があります。

大切なのは、連絡先の数を増やすことだけではありません。

「何かあったときに、本人について一緒に考えられる人が誰なのか」

を把握しておくことです。

4.本人について、家族しか知らないことはない?

親が突然入院すると、家族が日常的に持っていた本人の情報も確認しにくくなることがあります。

たとえば、

服薬している薬。

かかりつけ医。

アレルギー。

食事上の注意。

お金の管理方法。

本人が強い不安を感じること。

パニックになったときの対応。

夜間の過ごし方。

本人が落ち着くために必要なこと。

コミュニケーションの特徴。

こうした情報を親だけが把握している場合があります。

日中の事業所では問題なく過ごしていても、自宅での生活についてはほとんど知らないということもあるでしょう。

だからこそ、緊急事態が起きたときだけでなく、平時から本人の暮らしについて必要な情報を共有しておくことが大切です。

もちろん、本人や家族のプライバシーに関わる情報を何でも共有すればよいわけではありません。

本人の意思や個人情報の取扱いに配慮しながら、緊急時に本人の生活や安全を守るために必要な情報は何かを考えておく必要があります。

5.自宅での生活が難しい場合、どんな選択肢がある?

親が入院しても、本人が自宅で生活を続けられる場合もあります。

一方で、家族による支援への依存が大きい場合には、一定期間、自宅での生活が難しくなることもあります。

その場合には、本人の状況や地域の支援体制に応じて、

短期入所。

居宅介護。

共同生活援助(グループホーム)。

地域生活支援拠点等による緊急時の支援。

その他、自治体や地域で用意されている支援。

などを検討することがあります。

ただし、

「親が入院したから、短期入所を使えばいい」

と単純にはいきません。

空きがあるとは限りません。

本人が短期入所を利用した経験がない場合もあります。

環境の変化に強い不安を感じる方もいます。

医療的ケアや行動面などから、受入先の調整が必要になることもあります。

制度上存在するサービスと、今すぐ本人が利用できる支援は同じではありません。

だからこそ、相談支援専門員や行政、地域の関係機関と連携しながら、現実的な選択肢を確認することが必要です。

6.障害福祉事業所は、どこまで対応すればいい?

親が突然入院すると、

「本人が困っているのだから、事業所で何とかしなければ」

と考える支援者もいるでしょう。

その気持ちは大切です。

しかし、一つの障害福祉事業所が、家族が担っていたすべての役割を引き受けることは現実的ではありません。

たとえば日中活動の事業所が、

夜間の見守り。

財産管理。

行政手続き。

通院。

自宅の管理。

相続や契約。

まで担うことは、本来の役割や支援体制を超える場合があります。

重要なのは、

「できること」と「できないこと」を明確にすることです。

そのうえで、できないことを放置するのではなく、

「この課題は誰につなぐ必要があるか」

を考えます。

障害福祉事業所がすべてを抱えるのではなく、本人を中心に必要な支援者へつなぐ。

それも重要な支援です。

7.本人への説明と意思確認を忘れていない?

親の突然の入院では、支援者同士が対応に追われることがあります。

どこで生活するのか。

誰へ連絡するのか。

どのサービスを利用するのか。

緊急性が高いほど、大人同士で話が進みやすくなります。

しかし、その中心にいるのは本人です。

親がいないことについて、本人はどう感じているのか。

自宅で過ごしたいのか。

別の場所で過ごすことについて、どのような不安があるのか。

誰がそばにいると安心するのか。

本人が理解しやすい方法で説明し、可能な限り意思を確認することが大切です。

言葉による意思表示が難しい方であっても、本人の表情、行動、これまでの経験、普段の選択などから意思を丁寧にくみ取ることができます。

緊急時であっても、

「支援者が決めた暮らしに本人を合わせる」

のではなく、

「本人にとってどのような暮らしがよいか」

という視点を失わないことが重要です。

8.緊急対応が終わったあとに、必ず振り返る

親が退院し、本人の生活が元に戻ると、

「無事に終わってよかった」

で対応が終了することがあります。

しかし、ここは親なきあとへの準備を進める重要なタイミングでもあります。

今回、何に困ったのか。

家族しか知らなかった情報は何だったのか。

連絡できる人は十分だったか。

利用できると思っていたサービスは実際に使えたか。

本人は環境の変化にどう反応したか。

家族が担っていた「見えない支援」は何だったか。

次に同じことが起きたら、どうすればよいか。

を振り返ります。

そして必要に応じて、相談支援専門員によるアセスメントやサービス等利用計画の見直し、事業所の個別支援計画などにも反映していくことが考えられます。

一度起きた出来事を「一時的なトラブル」で終わらせず、今後の支援体制を考える材料にすることが大切です。

9.平時に確認しておきたいことは?

緊急時の対応を少しでも円滑にするためには、何も起きていないときの準備が重要です。

たとえば、

緊急連絡先は最新か。

親以外に連絡できる人はいるか。

相談支援専門員や他の支援機関を把握しているか。

家族が日常的に担っていることを把握しているか。

服薬や医療に関する必要な情報が整理されているか。

親が支援できなくなった場合の相談先を確認しているか。

本人が短期入所などを利用した経験はあるか。

本人の希望や苦手なことを共有できているか。

といったことです。

すべての利用者について「親なきあと計画」を作る必要があるということではありません。

しかし、家族による支援への依存が大きい利用者については、

「この家族に突然何かあったら、本人の暮らしはどうなるだろう」

という視点を持っておくことに意味があります。

よくある質問(FAQ)

Q1.利用者の親が入院した場合、まず相談支援専門員へ連絡すればよいですか?

相談支援専門員が関わっている場合には、早めに状況を共有することが考えられます。

ただし、本人の安全確保など緊急性が高い場合には、状況に応じて市区町村の障害福祉担当部署や地域の相談機関などへの連絡も必要になることがあります。

地域の支援体制によって対応が異なるため、平時から緊急時の連携先を確認しておくことが大切です。

Q2.短期入所は、親が突然入院したその日から利用できますか?

必ず利用できるとは限りません。

利用に必要な手続き、受給者証の状況、事業所の空き、本人の支援内容などによって異なります。

地域生活支援拠点等を含め、地域でどのような緊急時支援が用意されているのかを事前に確認しておくことが重要です。

Q3.親以外の緊急連絡先がいない場合はどうすればいいですか?

親族がいない、または関係が薄い家庭もあります。

大切なのは、必ず親族を探すことではありません。

相談支援専門員や利用している障害福祉事業所、行政、地域の相談機関など、本人を支える関係者を確認し、家族以外にも相談できるつながりを少しずつつくっていくことが重要です。

Q4.親が退院したら、それまでの支援体制に戻して問題ありませんか?

元の生活に戻ること自体が問題というわけではありません。

ただし、今回の入院によって明らかになった課題があれば、そのままにせず振り返ることが大切です。

親の健康状態や年齢によっては、同じ状況が再び起こる可能性もあります。本人や家族の希望を確認しながら、必要な準備を少しずつ進めることが考えられます。

まとめ|緊急時こそ、事業所だけで抱え込まない

利用者の親が突然入院したとき、障害福祉事業所に求められるのは、

「親の代わりになること」

ではありません。

まず、本人の今日の暮らしを確認する。

家族が担っていた役割を整理する。

本人の意思を確認する。

相談支援専門員や行政などへ状況を共有する。

必要なサービスや支援機関へつなぐ。

そして、事業所としてできることと、他の人につなぐべきことを整理する。

こうした連携によって、本人の暮らしを支えていくことが重要です。

さらに、緊急対応が終わったあとには、

「今回、家族がいなくなったことで何が困ったのか」

を振り返ってみてください。

そこには、それまで見えていなかった家族の役割や、本人の暮らしを支えるうえで足りていなかったつながりが見えてくることがあります。

親なきあとは、いつか遠い将来に突然やってくるものとは限りません。

親の入院や病気によって、家族がこれまでと同じように支えられなくなるところから始まることがあります。

だからこそ、何かが起きてから事業所だけで何とかするのではなく、平時から本人を中心に、家族、障害福祉事業所、相談支援、行政、医療、地域などがつながっておく。

それが、本人の暮らしを守る備えになります。

親なきあとへの対応を、事業所だけで抱え込まないために

利用者の親の高齢化や入院をきっかけに、

「福祉サービスだけでは整理できない課題が出てきた」

「家族が担っていることを、これから誰と支えていけばよいのかわからない」

ということもあります。

あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の親なきあとについて、住まい、生活・就労、お金、人とのつながりなど暮らし全体から課題を整理し、必要な支援者・専門家との連携を考えています。

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執筆者

首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役

ともに、“あした”を
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