親なきあとを見据えた個別支援計画とは?
障害福祉事業所で作成する個別支援計画では、本人の希望や生活状況、支援上の課題を踏まえて、具体的な支援目標や支援内容を整理していきます。
では、そのなかに「親なきあと」の視点は入っているでしょうか。
「親なきあと」という項目を新しく設ける必要がある、という意味ではありません。
大切なのは、
今の本人の暮らしが、家族のどのような支えによって成り立っているのか。
本人自身でできることは何か。
家族が支えられなくなったときに、現在の暮らしを続けるためには何が必要なのか。
本人はこれから、どのような暮らしをしたいのか。
といった視点を、日々の支援や個別支援計画のなかに少しずつ取り入れていくことです。
親なきあとは、親が亡くなったあとに突然始まるものではありません。
親の高齢化や病気、入院などによって、それまで家族が担ってきた役割を続けられなくなるところから、本人の生活に変化が生じることがあります。
この記事では、生活介護、就労継続支援、共同生活援助(グループホーム)などの障害福祉事業所が、個別支援計画のなかで親なきあとをどのように捉えればよいのかを考えます。
1.個別支援計画に「親なきあと」を入れる必要はある?
親なきあとという言葉そのものを、すべての個別支援計画に記載する必要があるわけではありません。
重要なのは、本人の現在と将来の暮らしを考えるなかで、家族の状況も必要に応じて確認できていることです。
たとえば、
本人は現在、親と同居している。
毎日の服薬は母親が確認している。
金銭管理は父親が行っている。
通院は親が付き添っている。
事業所との連絡はすべて家族を通じている。
休日は親としか外出しない。
といった状況があるとします。
本人が事業所で安定して過ごしていれば、日中の支援だけを見る限り、大きな課題はないように見えるかもしれません。
しかし、家族が支えられなくなった場合には、その生活が続かなくなる可能性があります。
つまり、親なきあとの視点を持つということは、
「将来、親が亡くなったらどうするか」
だけを考えることではありません。
現在の本人の暮らしが、家族を含めてどのような支援によって成り立っているのかを見ることです。
2.まず確認したいのは「本人ができないこと」ではなく「今の暮らし」
個別支援計画を作る際には、本人の課題や支援ニーズを確認します。
そのとき、
一人では服薬管理ができない。
金銭管理が難しい。
予定管理が苦手。
といった「できないこと」に目が向きやすくなります。
しかし、親なきあとを見据えるのであれば、
今、そのことを誰が支えているのか。
まで確認することが重要です。
たとえば、
「服薬管理ができない」
ではなく、
「現在は母親が毎朝薬を準備し、服薬を確認している」
と捉える。
「お金の管理が苦手」
ではなく、
「障害年金の管理や生活費の支払いは父親が行っている」
と捉える。
そうすると、本人の課題だけでなく、現在の暮らしを支えている家族の役割が見えてきます。
親なきあとへの備えでは、この家族の役割を把握することが大切です。
3.家族が担う「見えない支援」を個別支援計画にどう反映する?
家族が担っている支援のすべてを、そのまま個別支援計画に書き込む必要はありません。
大切なのは、本人の支援に関係する部分を整理することです。
たとえば、
母親の声かけがないと朝の準備が進まない。
予定変更があると父親が事前に説明している。
買い物では親が金額を確認している。
体調が悪いときは母親が表情の変化から気づいている。
本人が不安になったときは、家族へ電話すると落ち着く。
こうした情報が分かれば、支援の方法を考える材料になります。
たとえば、
写真や予定表を使って、自分で翌日の準備ができるようにする。
予定変更を本人が理解しやすい方法で伝える。
少額の買い物を経験する機会をつくる。
本人の体調変化のサインを支援者間で共有する。
家族以外にも安心して相談できる人を増やす。
といった支援目標につながる可能性があります。
家族が担っていることを「次の誰かに丸ごと引き継ぐ」のではなく、本人の力や支援の仕組みへ少しずつ分けていく。
それが個別支援計画のなかでもできる親なきあとへの準備です。
4.本人が「できること」を増やすことも親なきあとへの備え?
はい。
親なきあとへの準備というと、グループホームや成年後見制度など、大きな制度や仕組みを考えがちです。
しかし、本人自身ができることを少しずつ増やしていくことも、とても大切です。
たとえば、
自分で翌日の持ち物を準備する。
スマートフォンで家族以外の人へ連絡する。
自分のお金で買い物をする。
体調が悪いことを支援者へ伝える。
自分で選択する機会を増やす。
困ったときに「助けて」と伝える。
こうしたことも、親なきあとに本人の暮らしを支える力になります。
もちろん、すべてを本人自身でできるようにすることが目標ではありません。
本人によって必要な支援は異なります。
重要なのは、
本人ができること。
支援があればできること。
他の人に支えてもらう必要があること。
を分けて考えることです。
個別支援計画に本人の小さな経験や選択を積み重ねる視点を入れることで、家族だけに依存しない暮らしへ少しずつ近づいていくことができます。
5.本人の意思は、どこまで個別支援計画に反映されている?
親なきあとを考える際に、特に大切なのが本人の意思です。
親が高齢になると、
「そろそろグループホームに入った方がいい」
「今のうちにこのサービスを使った方がいい」
と、周囲が将来を先回りして考えることがあります。
それ自体は、本人を心配しているからこその行動でしょう。
しかし、その支援が本人の望む暮らしと一致しているとは限りません。
本人はどこで暮らしたいのか。
今の仕事や日中活動を続けたいのか。
誰と過ごしたいのか。
休日に何をしたいのか。
何が不安なのか。
どんなことを自分でやってみたいのか。
こうしたことを個別支援計画のなかでも丁寧に確認することが大切です。
言葉による意思表示が難しい場合でも、日常の表情、行動、選択、これまでの生活歴などから本人の意思を推定し、意思決定を支援していくことができます。
親なきあとへの準備だからこそ、
「周囲が本人の将来を決める」
のではなく、
「本人と一緒に本人の将来を考える」
という姿勢が重要です。
6.個別支援計画だけで親なきあとを考えられる?
個別支援計画だけで、親なきあとのすべてを整理することはできません。
本人の暮らしには、事業所での支援以外にもさまざまな要素があります。
住まい。
生活・就労。
医療。
お金。
相続や財産管理。
家族関係。
地域とのつながり。
一つの障害福祉事業所が、これらすべてを担う必要はありません。
そのため重要になるのが、相談支援専門員との連携です。
計画相談支援を利用している場合には、サービス等利用計画を通じて本人の暮らし全体を捉えながら、それぞれの障害福祉事業所が個別支援計画を作成します。
たとえば、生活介護事業所で見えてきた、
「親の送迎が難しくなっている」
「最近、母親から将来への不安を聞くことが増えた」
「本人がお金の使い方を練習したいと言っている」
といった情報を、相談支援専門員と共有することで、暮らし全体の支援を考える材料になります。
事業所のなかだけで完結させず、必要な情報をつないでいくことが大切です。
7.家族の高齢化は、個別支援計画を見直すきっかけになる?
なる場合があります。
親が高齢になったからという理由だけで、本人の支援内容を変える必要はありません。
一方で、
これまでできていた送迎が難しくなった。
親自身が通院することが増えた。
家事の負担が大きくなっている。
本人の通院に付き添えなくなってきた。
家族から将来への不安が聞かれるようになった。
といった変化があれば、本人の暮らしにも影響する可能性があります。
その場合には、
現在の支援目標は適切か。
本人が新しく経験した方がよいことはないか。
家族だけが担っている役割はないか。
他の障害福祉サービスや地域資源とつながる必要はないか。
相談支援専門員へ共有すべきことはないか。
などを確認します。
家族の高齢化を「家族の問題」として切り離すのではなく、本人の暮らしに関係する変化として捉えることが大切です。
8.「緊急時」を個別支援計画のなかで考えている?
親なきあとは、計画どおりに進むとは限りません。
親が突然入院する。
事故に遭う。
認知症が進む。
こうしたことが突然起こる可能性があります。
そのため、本人の状況によっては、
主な家族が支援できなくなったとき、誰へ連絡するのか。
相談支援専門員は誰か。
本人が利用している他のサービスは何か。
本人が安心できる場所はどこか。
服薬や医療について必要な情報は何か。
本人が環境の変化に強い不安を感じる場合、どのような支援が必要か。
といった情報を、支援者間で確認しておく意味があります。
もちろん、個別支援計画にすべてを書き込むことが目的ではありません。
重要なのは、緊急時に必要となる情報が整理され、必要な支援者につながる状態になっていることです。
9.「目標」を大きくしすぎていない?
親なきあとを見据えた支援というと、
「一人暮らしができるようになる」
「金銭管理ができるようになる」
「親から自立する」
といった大きな目標を設定したくなることがあります。
しかし、本人にとってその目標が現実的とは限りません。
そして、「自立」は何でも一人でできることを意味するものでもありません。
たとえば、
自分で今日着る服を選ぶ。
いつもと違うことがあったら支援者へ伝える。
お金を使うときに相談する。
自分の好きなことを言葉や行動で表現する。
家族以外にも相談できる人を一人増やす。
短期入所を一度経験してみる。
こうした小さな目標でも、本人の将来の暮らしにつながります。
親なきあとへの準備は、「将来の完成形」を急いでつくることではありません。
本人が現在の生活のなかで経験できることを少しずつ増やしていくこと。
それを個別支援計画のなかに落とし込むことが大切です。
10.親なきあとを見据えた個別支援計画で大切にしたいこと
親なきあとを意識すると、
本人の将来が心配。
親が高齢だから急いだ方がいい。
今のうちに決めておかなければ。
という気持ちになりやすいものです。
しかし、個別支援計画の中心にいるのは、あくまで本人です。
支援者が本人の将来を決めるのではありません。
家族の不安だけをもとに支援を組み立てるのでもありません。
今の本人の暮らしを見る。
本人の意思を確認する。
家族が担っていることを把握する。
本人ができることを増やす。
必要な人やサービスとのつながりを増やす。
その積み重ねが、親なきあとにも続く本人の暮らしにつながっていきます。
よくある質問(FAQ)
Q1.個別支援計画に「親なきあと」という目標を入れた方がいいですか?
必ずしも「親なきあと」という言葉を記載する必要はありません。
本人の暮らしや家族の状況を踏まえ、本人ができることを増やす、家族以外の人とのつながりをつくる、必要なサービスを経験するといった具体的な目標に落とし込む方がよい場合があります。
Q2.家族の情報を、どこまで個別支援計画に書けばいいですか?
本人の支援に必要な範囲で整理することが大切です。
家族の病気や家庭事情など、本人の支援に直接必要のない個人情報まで記載する必要はありません。
本人の生活へどのような影響があるのかという視点で確認します。
Q3.親が将来のことを考えたがらない場合はどうすればいいですか?
無理に「親なきあと」の話を進める必要はありません。
本人の現在の暮らしや、最近家族が大変になっていること、本人自身がやってみたいことなどから話を始める方法があります。
将来の不安を一度に解決するのではなく、現在の支援をよりよくすることから始めることもできます。
Q4.個別支援計画で見つかった家族の課題は、事業所が対応すべきですか?
すべてを事業所で対応する必要はありません。
相談支援専門員、行政、他の障害福祉事業所、医療機関など、必要な関係者と連携することが重要です。
相続や財産管理など専門的な課題については、必要に応じて専門家へつなぐことも考えられます。
まとめ|個別支援計画を「今の支援」だけで終わらせない
個別支援計画は、現在のサービス利用を整理するだけのものではありません。
本人がどのような暮らしをしたいのか。
そのために今、どんな経験を積むのか。
何を本人自身でできるようにしていくのか。
どの部分は誰かに支えてもらうのか。
どんな人とつながっておくのか。
そうした本人の暮らしを考えるための大切な機会でもあります。
親なきあとを見据えるからといって、将来の住まいや制度を今すぐ決める必要はありません。
むしろ、
今、家族が担っていることに気づく。
本人の意思を確認する。
本人ができることを少し増やす。
家族以外の支援者との関係をつくる。
必要な情報を相談支援専門員と共有する。
こうした小さな積み重ねが大切です。
親なきあとに必要なのは、「親の代わり」を見つけることではありません。
本人を中心に、必要な人やサービスがつながり、家族だけが支え続けなくても暮らしが続いていく状態をつくること。
個別支援計画も、そのための一つの大切な道具になるのではないでしょうか。
親なきあとを見据えた支援を、事業所だけで抱え込まないために
個別支援計画を考えるなかで、
「家族の高齢化まで含めると、事業所だけでは整理しきれない」
「住まいやお金、相続など、福祉以外の課題も見えてきた」
ということもあります。
あしたパートナーズの「親なきあと相談」では、障害のある本人やご家族の暮らしを中心に、住まい、生活・就労、お金、人とのつながり、相続などを整理し、必要に応じて各分野の支援者・専門家との連携を考えています。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
