障害者雇用における「従業員の親の高齢化」|企業が知っておきたい現状と雇用継続への備え
障害者雇用を進める企業にとって、従業員本人の年齢だけでなく、その暮らしを支えてきた親の高齢化も、これからますます大切なテーマになっていきます。
障害のある従業員の中には、日々の生活リズム、通院、服薬、金銭管理、緊急時の対応など、職場からは見えにくい部分を親に支えられながら働いている方も少なくありません。
その親が高齢になり、これまで通りのサポートが難しくなったとき、本人の生活基盤が不安定になり、結果として勤怠や体調、就労継続に影響が出ることがあります。
本記事では、障害者雇用における「従業員の親の高齢化」が企業に与える影響と、雇用継続のために企業ができる備えについて、社内体制と外部連携の視点から整理します。
なぜ今、障害者雇用で「従業員の親の高齢化」が課題になるのか
障害者雇用の取り組みが広がり、長く働き続ける障害のある従業員が増える中で、本人だけでなく、本人を支える家族の年齢も上がっています。
これまで親が担ってきた生活面のサポートは、本人の安定した就労を支える大切な土台になっていることがあります。
たとえば、朝の声かけ、食事の準備、通院の付き添い、服薬の確認、給与や生活費の管理、会社との連絡調整などです。こうした支えがあることで、本人が安心して働き続けられているケースもあります。
しかし、親自身が高齢になり、体力の低下や病気、介護の必要性が出てくると、これまで当たり前のように続いていた支援が難しくなります。
この変化は、本人の暮らしの安定に影響し、結果として職場での働き方にも表れてくる可能性があります。
8050問題が示す、本人と親が直面する現実
80代の親が、生活に課題を抱える50代の子どもを支える「8050問題」は、障害者雇用の現場においても無関係ではありません。
長年にわたり、親が障害のある子どもの暮らしを支え続けてきたご家庭では、親の高齢化とともに、支援の限界が少しずつ見えてくることがあります。
親自身の健康状態が悪化する、通院や介護が必要になる、体力的に日常のサポートが難しくなる。そのような状況になると、本人の生活リズムや精神面にも影響が出やすくなります。
また、親子だけで悩みを抱え込み、必要な支援につながれないまま孤立してしまうこともあります。
企業としては、この問題を家庭だけの問題として切り離すのではなく、本人が安心して働き続けるための背景として、丁寧に捉えておくことが大切です。
生活基盤の変化が雇用継続に与える影響
親による支援が急に弱まったり、なくなったりすると、本人の生活にはさまざまな変化が生じます。
朝起きられなくなる、食事が不規則になる、服薬を忘れる、通院が滞る、必要な支払いができなくなる。こうした生活面の変化は、少しずつ勤怠や業務への集中力にも影響していきます。
このような変化は、本人の働く意欲が低いから起きるものではありません。
むしろ、本人は働き続けたいと思っていても、生活の土台が揺らぐことで、結果として遅刻や欠勤、体調不良、休職、離職につながってしまうことがあります。
だからこそ、企業は職場で見える変化だけで判断するのではなく、その背景に生活面の課題や家族の状況の変化がないかを、本人の同意とプライバシーへの配慮を前提に確認していく視点が求められます。
従業員の親の高齢化が企業にもたらす3つの雇用リスク
従業員の親の高齢化は、家庭内の問題にとどまらず、企業にとっても雇用継続や職場定着に関わるテーマです。
ここでは、企業が特に意識しておきたい3つのリスクを整理します。
リスク1:生活リズムの乱れによる遅刻・欠勤の増加
親がこれまで行っていた起床の声かけ、食事の準備、身支度の確認などが難しくなると、本人の生活リズムが乱れやすくなります。
朝起きられない、夜更かしが続く、食事を抜いてしまう、服薬が不規則になるといった変化は、勤怠に表れることがあります。
遅刻や欠勤が増えたとき、企業としては注意や指導だけで終わらせるのではなく、「生活面で何か変化が起きていないか」を確認することが大切です。
本人の就労意欲とは別に、暮らしの支えが変化したことで起きている可能性があるからです。
リスク2:親の介護による従業員本人の負担増加
親が高齢になり、介護や見守りが必要になると、障害のある従業員本人がその役割を担うことがあります。
特に、ほかに頼れる家族が少ない場合、本人が通院の付き添いや家事、見守り、行政手続きなどを担わざるを得ない状況になることもあります。
仕事と親の介護を両立することは、大きな負担になります。疲労や睡眠不足が続いたり、勤務時間を減らさざるを得なくなったり、場合によっては働き続けること自体が難しくなることもあります。
企業にとっても、これまで一緒に働いてきた人材が介護をきっかけに離職してしまうことは、大きな損失です。
早い段階から、本人の負担や家庭の状況に気づける関係づくりが重要になります。
リスク3:「親なきあと」への不安による不調や突然の退職
親が亡くなった後の暮らし、いわゆる「親なきあと」に対する不安は、本人にとって大きな心理的負担になることがあります。
住まいはどうするのか、生活費は足りるのか、日々の家事や金銭管理はできるのか、困ったときに誰に相談できるのか。具体的な見通しが立たないまま不安だけが大きくなると、仕事にも集中しづらくなります。
その結果、体調を崩したり、就労意欲が低下したり、突然退職を申し出たりすることもあります。
このような退職は、本人にとっても企業にとっても望ましいものではありません。
将来への不安を一人で抱え込ませないためにも、親が元気なうちから、本人・家族・企業・支援機関が少しずつ準備を進めていくことが大切です。
雇用継続のために企業ができる具体的な対策
従業員の親の高齢化に伴う課題は、企業だけで解決できるものではありません。
一方で、企業だからこそ気づける変化や、企業として整えられる体制もあります。
大切なのは、本人や家族の課題を企業が抱え込むことではなく、本人が安心して働き続けられるように、必要な支援につながるための橋渡しを行うことです。
ここでは、社内体制と外部連携の両面から、企業ができる対策を整理します。
定期的な面談で生活や家庭の変化を早めに把握する
最も基本となるのは、従業員本人との定期的な面談です。
面談では、業務上の課題や目標だけでなく、体調、通勤、生活リズム、家庭での変化、将来への不安などについて、無理のない範囲で話を聞くことが大切です。
ただし、家庭の状況に踏み込みすぎることは避ける必要があります。
「家庭のことを聞き出す」のではなく、「働き続けるうえで困っていることがないかを一緒に確認する」という姿勢で関わることが重要です。
本人が安心して話せる関係があると、親の体調変化や生活面の不安が大きくなる前に、必要な支援につなげやすくなります。
生活スキル向上につながる研修や情報提供を行う
親の支援が少しずつ難しくなっていく中で、本人が自分でできることを増やしていくことも大切です。
企業では、業務スキルだけでなく、生活スキルに関する情報提供や学びの機会をつくることができます。
たとえば、金銭管理、健康管理、服薬や通院の管理、休日の過ごし方、困ったときの相談方法、行政手続きの基本などです。
大がかりな研修でなくても、面談や社内勉強会の中で、少しずつ学べる機会をつくることはできます。
生活スキルの向上は、本人の自信につながります。そして、将来への漠然とした不安を、少しずつ具体的な準備へ変えていくきっかけにもなります。
地域の就労支援機関や福祉サービスとつながる
生活面の課題は、企業内だけで対応することが難しい場合が多くあります。
そのため、地域の障害者就業・生活支援センター、相談支援事業所、自治体の福祉窓口、社会福祉協議会、医療機関、NPO法人など、外部の支援機関とつながっておくことが重要です。
日頃から連携先を把握しておくことで、本人や家族が困ったときに、必要な支援へつなぎやすくなります。
企業の役割は、生活課題をすべて解決することではありません。
本人の同意を前提に、適切な支援先へ橋渡しをすること。それが、企業にとっても無理のない支援につながります。
成年後見制度や日常生活自立支援事業などの情報を届ける
「親なきあと」に向けた大きな不安の一つが、金銭管理や財産管理です。
給与の管理、生活費の支払い、契約手続き、住まいの確保などに不安がある場合、成年後見制度や日常生活自立支援事業などが選択肢になることがあります。
ただし、これらの制度は本人の権利や生活に深く関わるものです。企業が制度利用を判断したり、利用を促しすぎたりすることは避ける必要があります。
企業としてできることは、制度の存在や相談窓口を情報として伝え、本人や家族が必要に応じて専門家に相談できるようにすることです。
制度ありきではなく、本人の意思や暮らしに合った支援を一緒に考える姿勢が大切です。
企業の取り組み事例から考える「親なきあと」を見据えた支援
従業員の親の高齢化や「親なきあと」に向き合う企業では、すでにさまざまな取り組みが始まっています。
ここでは、企業が自社で取り組みを考える際の参考として、代表的な事例を紹介します。
事例1:本人・親・会社による定期的な三者面談
特例子会社などでは、本人、親、会社の担当者が定期的に面談を行い、職場と家庭の状況を共有しているケースがあります。
面談では、仕事の状況だけでなく、家庭での過ごし方、体調、通院、将来の暮らしに関する不安などを話し合います。
会社は本人の変化に早く気づくことができ、家族は職場での様子を知ることで安心しやすくなります。
大切なのは、面談を「問題を指摘する場」にしないことです。
本人が安心して働き続けるために、本人・家族・会社が同じ方向を向いて考える場として設計することが、信頼関係づくりにつながります。
事例2:地域の相談支援事業所やNPO法人との連携
地域の相談支援事業所やNPO法人と連携し、従業員の生活面の相談につなげられる体制を整えている企業もあります。
仕事に関する相談は会社が受け止め、住まい、金銭管理、福祉サービス、家族の支援など生活面の課題は専門機関につなぐ。
このように役割を分担することで、企業がすべてを抱え込まずに済みます。
本人にとっても、職場以外に相談できる先があることは安心につながります。家族にとっても、会社だけでなく地域の支援者とつながることで、将来への不安を少しずつ整理しやすくなります。
障害者雇用の「親の高齢化」に関するよくある質問
障害のある従業員の親の高齢化については、人事担当者や現場の管理職から、対応の始め方や外部機関との連携について多くの相談が寄せられます。
ここでは、企業が実務で悩みやすいポイントを整理します。
障害のある従業員の親が高齢化した場合、企業はまず何から対応すべきですか?
まずは、本人との信頼関係をつくり、現在の状況を丁寧に把握することから始めることが大切です。
定期的な面談の中で、体調、勤怠、生活リズム、家族の状況、将来への不安などについて、本人のペースに合わせて確認していきます。
そのうえで、企業としてできる配慮や、外部支援機関につなぐ必要があるかを検討します。
いきなり家庭の事情に踏み込むのではなく、「働き続けるうえで困っていることを一緒に考える」という姿勢で関わることが大切です。
従業員の家族から親の高齢化について相談された場合、人事は何を伝えればよいですか?
まずは、相談してくれたことに対して丁寧に受け止める姿勢を示すことが大切です。
そのうえで、会社として本人が安心して働き続けられるように、できる範囲で一緒に考えていくことを伝えます。
あわせて、社内で利用できる制度や相談窓口、地域の障害者就業・生活支援センター、相談支援事業所、自治体の福祉窓口など、外部の相談先を案内できるとよいでしょう。
家族だけで抱え込まなくてよいこと、会社だけで抱え込むのでもなく、必要な支援先とつながりながら考えていけることを伝えることが、安心につながります。
「親なきあと」に備えて、企業はどのような外部機関と連携すればよいですか?
まず連携先として考えられるのは、障害者就業・生活支援センター、自治体の障害福祉窓口、相談支援事業所、社会福祉協議会などです。
本人がすでに福祉サービスを利用している場合は、相談支援専門員、グループホーム、就労支援事業所なども重要な連携先になります。
金銭管理や財産管理に関する課題がある場合は、成年後見制度に詳しい専門職、社会福祉士会、司法書士会、弁護士会などの相談窓口が選択肢になります。
企業がすべてを判断する必要はありません。
本人や家族の同意を前提に、必要な支援機関につながれる関係を日頃から整えておくことが大切です。
まとめ|親の高齢化に早めに気づき、支え合える体制を整える
障害者雇用の現場において、従業員の親の高齢化は、これから多くの企業が向き合うテーマです。
親が担ってきた生活面の支えが少しずつ難しくなることで、本人の暮らしが不安定になり、勤怠や体調、就労継続に影響が出ることがあります。
しかし、この課題は企業だけで抱え込むものではありません。
本人の声を聞き、家族の不安によりそい、必要に応じて地域の福祉サービスや専門機関につなぐ。そうした小さな備えの積み重ねが、本人が安心して働き続けるための土台になります。
親の高齢化は、ある日突然始まる問題ではありません。
だからこそ、変化が大きくなる前から、本人・家族・企業・支援機関が少しずつつながり、将来に向けて一緒に考えていくことが大切です。
その取り組みは、障害のある従業員の雇用継続だけでなく、誰もが安心して働き続けられる職場づくりにもつながっていきます。
なお、あしたパートナーズでは、障害のある従業員とそのご家族が、将来への不安を一人で抱え込まず、安心して働き続けられる環境づくりを、企業・法人の皆さまとともに進めています。
企業向けの「親なきあと支援プログラム」では、親なきあと問題に関するセミナー・ウェビナーの開催、オンラインコミュニティの利用優待、企業・法人の担当者からの相談対応などを通じて、従業員とご家族のこれからを支える仕組みづくりをサポートしています。
https://www.ashita-partners.com/service/support.html
障害者雇用における定着支援や、ご家族を含めた将来への備えに課題を感じている企業・法人の皆さまは、ぜひ一度ご相談ください。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
