福祉サービスにつながっていない家庭を、どう支援につなぐ?
障害のある方やそのご家族のなかには、困りごとを抱えていても、障害福祉サービスや相談支援につながっていない家庭があります。
本人が学校を卒業してから長いあいだ自宅で過ごしている。
親が生活のほとんどを支えている。
障害者手帳は持っているものの、現在は福祉サービスを利用していない。
以前はサービスを利用していたが、何らかの理由で途切れている。
家族が「まだ自分たちでできるから」と支援を求めてこなかった。
こうした家庭は、外から見ると大きな問題がないように見えることがあります。
しかし、親の高齢化や病気、入院などをきっかけに、それまで家族のなかだけで成り立っていた暮らしが急に不安定になることがあります。
親なきあとを考えるとき、本当に支援が必要なのは、すでに多くのサービスにつながっている家庭だけではありません。
むしろ、
「困ったときに、どこへ相談すればよいのかわからない」
「本人のことを家族以外の誰も知らない」
という状態にある家庭こそ、早い段階から地域とつながっておくことが大切です。
この記事では、支援者・専門家や地域の関係者に向けて、福祉サービスにつながっていない家庭をどのように見つけ、どのように支援へつないでいくのかを考えます。
1.なぜ、福祉サービスにつながっていない家庭がある?
福祉サービスにつながっていない理由は、一つではありません。
たとえば、
本人や家族が制度を知らない。
どこへ相談すればよいかわからない。
以前相談したが、うまくいかなかった。
本人が新しい場所や人を苦手としている。
家族が他人に頼ることへ抵抗を感じている。
本人の障害特性から、サービス利用が難しかった経験がある。
親が「自分が支えられるうちは大丈夫」と考えている。
といったことがあります。
なかには、
「支援を必要としていないから、つながっていない」
家庭もあるでしょう。
そのため、サービスを利用していないこと自体を問題と決めつけるべきではありません。
大切なのは、
「今の暮らしは、誰によってどのように支えられているのか」
を見ることです。
家族だけで生活が成り立っており、親に何かあった瞬間に本人の暮らしが維持できなくなる状態であれば、将来に向けて何らかのつながりを考えておく意味があります。
2.「サービス未利用」と「支援につながっていない」は同じ?
同じとは限りません。
障害福祉サービスを利用していなくても、
市区町村の相談窓口とつながっている。
医療機関へ定期的に通院している。
地域の活動に参加している。
学校卒業後も教員や支援者との関係が続いている。
民生委員や地域の人が本人を知っている。
という家庭もあります。
一方で、障害福祉サービスを一部利用していても、
困ったときに相談できる相手がいない。
家族の状況を知っている支援者がいない。
緊急時の支援体制がない。
という場合もあります。
つまり、
「福祉サービスを利用しているかどうか」
だけで、支援につながっているかを判断することはできません。
親なきあとを考えるうえで重要なのは、
本人や家族が困ったときに、相談できる人や場所があること。
本人について、家族以外にも知っている人がいること。
必要になったときに支援へつながる入口があること。
です。
3.支援につながっていない家庭は、どこで見つかる?
これは地域にとって難しい課題です。
本人や家族から相談がなければ、支援者側から状況を知ることが難しいからです。
しかし、福祉以外の接点から見えてくることがあります。
たとえば、
医療機関。
学校や特別支援学校。
市区町村の窓口。
社会福祉協議会。
地域包括支援センター。
民生委員・児童委員。
障害者就業・生活支援センター。
企業。
地域の障害福祉事業所。
などです。
親が高齢になれば、親自身が介護保険サービスや医療につながることもあります。
そこで、
「高齢の親が、成人した障害のある子と二人で暮らしている」
「親が入院すると、この子の生活を支える人がいない」
といった状況が見えてくることがあります。
つまり、親なきあとへの支援では、障害福祉分野だけで対象家庭を探すのではなく、地域のさまざまな機関が気づきを共有できることが重要です。
4.親の高齢化をきっかけに見えてくる家庭もある
長年、親が本人の生活を支えてきた家庭では、本人より先に親が高齢者支援へつながることがあります。
たとえば、
母親が要介護認定を受けた。
父親が認知症になった。
親が地域包括支援センターへ相談した。
親のケアマネジャーが自宅を訪問した。
こうしたときに、
「この親が支援している成人した子は、今後どうなるのだろう」
という課題が見えてくることがあります。
ここで重要になるのが、高齢者福祉と障害福祉の連携です。
親は介護保険。
子は障害福祉。
と制度ごとに分けてしまうと、家庭全体の課題が見えにくくなります。
実際の暮らしでは、親と子が同じ家で支え合っている場合があります。
親の介護問題と、障害のある子の親なきあとが同時に進んでいることもあります。
制度ではなく「世帯の暮らし」から見る視点が大切です。
5.「支援を使ってください」と言うだけでは、つながらないこともある
支援者から見ると、
「こんなサービスがあります」
「相談支援を利用した方がいいですよ」
と案内すればよいように思えることがあります。
しかし、それだけでは支援につながらない家庭もあります。
長年家族だけで暮らしてきた場合、
他人を家に入れることへの抵抗。
本人が新しい人を怖がる。
親が「家族のことを他人に話したくない」と感じる。
過去の支援で嫌な経験をした。
といった事情があることもあります。
そのため、最初からサービス利用をゴールにするのではなく、
「何に困っていますか」
「最近、大変になってきたことはありますか」
「もし親御さんが入院したら、少し心配なことはありますか」
と、今の暮らしから話を聞くことが大切です。
本人や家族が感じている課題と、支援者側が見ている課題が同じとは限りません。
まず関係をつくり、相談してもよいと思える状態をつくることが支援の入口になります。
6.アウトリーチは、何をすること?
支援につながりにくい家庭について、「アウトリーチ」という言葉が使われることがあります。
アウトリーチとは、相談窓口で待つだけではなく、必要に応じて支援者側から本人や家族のもとへ働きかけ、関係をつくっていくことです。
ただし、
「支援が必要そうだから、自宅へ行ってサービスを勧める」
だけがアウトリーチではありません。
本人や家族の生活歴。
これまでの支援との関係。
本人や家族が大切にしていること。
なぜ現在の生活を選んでいるのか。
を理解しながら、少しずつ関係をつくっていくことが必要です。
特に親なきあとへの支援では、
「将来困るから今のうちに準備しましょう」
と不安を強く刺激するよりも、
「今の暮らしで少し楽にできることはありませんか」
という現在の課題から関わる方が、支援につながりやすい場合があります。
7.本人の意思を置き去りにしていない?
親が高齢になると、
「このままでは大変だから、サービスにつなげなければ」
と周囲が焦ることがあります。
しかし、支援の中心にいるのは本人です。
本人は今の生活をどう感じているのか。
新しい人と関わることをどう感じているのか。
何に困っているのか。
どんな暮らしを続けたいのか。
どのようなことなら試してみてもよいと思っているのか。
本人の意思を確認することが大切です。
言葉による意思表示が難しい場合でも、表情や行動、日常の選択、これまでの生活歴などから本人の意思を丁寧にくみ取ることができます。
支援につなぐこと自体が目的ではありません。
本人が望む暮らしを続けるために、どのような支援やつながりが必要なのかを一緒に考えることが大切です。
8.最初から多くのサービスにつなげる必要はない
支援につながっていない期間が長いと、
「できるだけ早く複数のサービスを利用した方がいい」
と考えたくなることがあります。
しかし、一度に大きく生活を変えることが本人や家族の負担になる場合もあります。
たとえば、
まず相談できる人を一人つくる。
相談支援事業所へ一度相談してみる。
本人が興味を持てる場所を見学する。
短時間だけサービスを体験する。
短期入所の情報だけ聞いておく。
親以外の緊急連絡先を整理する。
という小さなところから始める方法もあります。
親なきあとへの準備は、「サービスをたくさん利用すること」ではありません。
本人と家族が、必要なときに支援へアクセスできる状態をつくることです。
一つでもつながりができれば、そこから次の支援へつながることがあります。
9.地域で「気づいた人」が抱え込まない仕組みが必要
支援につながっていない家庭に最初に気づく人は、障害福祉の専門職とは限りません。
親のケアマネジャーかもしれません。
医療機関かもしれません。
民生委員かもしれません。
企業の障害者雇用担当者かもしれません。
近所の人かもしれません。
大切なのは、その人が家庭の問題を一人で解決しようとしないことです。
「気になる家庭がある」
という情報を、適切な相談機関へつなげられる地域の仕組みが必要です。
たとえば、
市区町村の障害福祉担当部署。
基幹相談支援センター。
相談支援事業所。
地域生活支援拠点等。
などが相談先になることがあります。
個人情報や本人・家族の意思への配慮は必要ですが、支援者同士が制度の境界を越えて連携できることが大切です。
親なきあとは、障害福祉だけで完結する問題ではありません。
高齢者福祉、医療、就労、地域福祉など、地域全体で気づき、つないでいく必要があります。
10.目指すのは「サービス利用」ではなく「孤立しないこと」
親なきあとを考えるとき、
「この家庭を福祉サービスにつなげなければ」
という言葉になりがちです。
しかし、本当に目指したいのは、サービス利用そのものではありません。
本人や家族が孤立しないこと。
困ったときに相談できること。
本人について家族以外にも知っている人がいること。
必要になったときに支援へつながれること。
そして、本人自身が自分の暮らしについて選べること。
こうした状態をつくることです。
福祉サービスは、そのための大切な手段の一つです。
地域の人とのつながりや医療機関、就労先などが重要な役割を持つこともあります。
「サービスにつながっているか」ではなく、
「本人が社会とつながっているか」
という視点で考えることが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1.福祉サービスを利用していない家庭は、支援が必要な家庭なのでしょうか?
一律には言えません。
本人や家族が困っておらず、現在の暮らしが安定している場合もあります。
重要なのは、サービス利用の有無だけでなく、家族が支えられなくなった場合に本人の暮らしがどうなるのか、困ったときの相談先があるのかを見ることです。
Q2.家族が支援を拒否している場合、どうすればいいですか?
無理にサービス利用を勧めても、関係が途切れてしまうことがあります。
なぜ支援を望んでいないのか、過去にどのような経験があったのか、現在何に困っているのかを丁寧に確認することが大切です。
緊急性が高い場合などを除き、まず相談できる関係をつくることから始める方法があります。
Q3.高齢の親と障害のある子が暮らしている場合、どこへ相談すればいいですか?
市区町村の障害福祉担当部署、相談支援事業所、基幹相談支援センターなどが相談先になることがあります。
親自身に介護の課題がある場合には、地域包括支援センターなど高齢者分野の支援機関との連携も重要です。
地域によって体制が異なるため、自治体で確認してください。
Q4.本人がサービス利用を嫌がっている場合は?
本人が何を嫌がっているのかを確認することが大切です。
支援そのものを望んでいないのか、知らない場所や人への不安なのか、過去の経験が影響しているのかによって対応は異なります。
本人の意思を尊重しながら、小さな体験や相談から始めることも考えられます。
まとめ|「支援につなぐ」より先に、「つながりをつくる」
福祉サービスにつながっていない家庭には、それぞれの理由があります。
制度を知らなかった。
相談先がわからなかった。
家族だけで支えてきた。
支援を使った経験がうまくいかなかった。
本人が変化を苦手としている。
だからこそ、
「福祉サービスを使いましょう」
と伝えるだけでは、支援につながらないことがあります。
まず、その家庭の暮らしを知る。
本人や家族が何を大切にしているのかを知る。
困っていることがあれば聞く。
そして、必要になったときに相談できる人になる。
そこから始めることが大切です。
親なきあとへの備えは、すべての家庭を同じ福祉サービスへつなぐことではありません。
家族だけで抱え込まず、本人を知っている人が地域にいること。
困ったときに相談できる場所があること。
必要な支援へつながる道が残っていること。
本人が社会から孤立しないこと。
それが、親なきあとにも本人の暮らしを支える大きな力になります。
親なきあとについて、どこにつなげばよいか迷ったら
「支援につながっていない家庭があり、このままでよいのか気になる」
「障害福祉だけではなく、親の高齢化や相続など複数の課題が重なっている」
というケースもあります。
あしたパートナーズの「親なきあと相談」では、障害のある本人やご家族の暮らしを中心に、住まい、生活・就労、お金、人とのつながりなどを整理し、必要に応じて地域の支援者や専門家との連携を考えています。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
