コラム
Column
2026.10.28 障害者雇用×親なきあと

障害のある従業員の緊急連絡先、「親だけ」になっていませんか?

障害のある従業員を雇用している企業では、入社時や配属時に緊急連絡先を確認していることが多いと思います。

その連絡先が、

「父」

「母」

だけになっているケースはないでしょうか。

もちろん、親御さんが本人のことを最もよく理解し、日常生活を支えていることは少なくありません。

企業にとっても、体調不良や事故、急な欠勤などがあった際に連絡できる家族がいることは、大きな安心につながります。

一方で、その親御さん自身が高齢になっている場合があります。

親が入院する。

認知症になる。

電話に出られなくなる。

あるいは、本人より先に亡くなる。

そうしたとき、

「会社から連絡できる相手がいない」

「本人の生活状況を知っている人がわからない」

「欠勤の背景に生活上の問題があるようだが、誰に相談すればよいかわからない」

という状況が起こる可能性があります。

親なきあとは、ご家庭だけの問題ではありません。

障害のある方が働いている場合には、生活の変化が就労継続にも影響することがあります。

この記事では、障害者雇用に取り組む企業に向けて、緊急連絡先が「親だけ」になっている状態について、親なきあとの視点から確認しておきたいことを整理します。

1.緊急連絡先が親だけだと、何が問題になる?

親が緊急連絡先になっていること自体が問題なのではありません。

問題になるのは、

「親以外に、本人の生活について一緒に考えられる人が誰もいない」

状態です。

たとえば、本人が職場で体調を崩した場合。

本人が急に出勤しなくなった場合。

いつもと様子が違う場合。

会社は緊急連絡先である親へ電話することがあります。

しかし、その親自身が入院していたらどうでしょうか。

電話がつながらない。

本人も状況をうまく説明できない。

会社は本人の生活状況を把握できない。

そのまま欠勤が続く。

ということも考えられます。

さらに、本人の生活を親が大きく支えている場合には、

朝起こす。

服薬を確認する。

交通手段を整える。

仕事の予定を確認する。

本人の不安を聞く。

会社からの連絡を本人へ伝える。

といったことを親が担っていることがあります。

親の支援が突然なくなると、「家庭の問題」にとどまらず、出勤や職場定着にも影響することがあります。

2.企業は、親なきあとまで考えなければならない?

企業が従業員の生活すべてを支援する必要はありません。

親なきあとについて、会社が家族の代わりになる必要もありません。

企業の役割は、基本的には雇用を継続し、本人が職場で必要な配慮や支援を受けながら働ける環境をつくることです。

一方で、障害者雇用では、生活と就労が密接に関係することがあります。

睡眠が崩れる。

服薬ができなくなる。

通勤が難しくなる。

金銭的な問題が起こる。

家族の介護が必要になる。

こうした生活上の変化が、遅刻、欠勤、体調不良、仕事上の不安定さとして職場に表れることがあります。

企業が確認したいのは、

「家庭の問題を会社で解決すること」

ではなく、

「就労に影響する変化が起きたとき、適切な支援先につなげられる状態になっているか」

ということです。

3.緊急連絡先は、複数登録してもらえば解決する?

緊急連絡先を複数確認しておくことは、一つの備えになります。

たとえば、

父母。

きょうだい。

その他の親族。

などです。

ただし、連絡先を増やせば親なきあとへの備えができるわけではありません。

きょうだいが遠方に住んでいることもあります。

親族との関係が薄い家庭もあります。

そもそも、親族以外の人の方が本人の生活をよく知っている場合もあります。

大切なのは、

「緊急時に誰へ電話するか」

だけでなく、

「本人が困ったときに、どの支援機関とつながっているか」

を確認することです。

たとえば、

相談支援専門員。

障害者就業・生活支援センター。

就労移行支援や就労定着支援の支援者。

グループホーム。

生活介護やその他の障害福祉事業所。

医療機関。

などが本人と関わっている場合があります。

もちろん、企業が本人の同意なく自由に連絡してよいわけではありません。

個人情報やプライバシーへの配慮は必要です。

そのうえで、本人と相談しながら、

「困ったときに相談できる人や機関は誰か」

を確認しておくことには意味があります。

4.親の年齢や健康状態を会社が確認してもいい?

ここは慎重に考える必要があります。

企業が、障害のある従業員の親の病歴や健康状態まで詳しく把握する必要はありません。

一方で、本人自身が、

「母が高齢で、最近通院が増えている」

「父が入院していて、朝の準備ができなくなった」

と話している場合には、それが就労へどのような影響を与えているのかを確認することは考えられます。

大切なのは、

「親御さんは何歳ですか」

「病気は何ですか」

と家庭情報を集めることではありません。

たとえば、

「最近、通勤や生活で困っていることはありませんか」

「ご家族の状況が変わって、仕事に影響していることはありますか」

「困ったときに相談できる支援者はいますか」

といった、本人の就労や生活に必要な範囲から確認することが大切です。

企業が親なきあとを考えるときも、中心にいるのは本人です。

5.本人が相談支援専門員につながっているか、企業は知っておいた方がいい?

本人の同意が得られるのであれば、生活面で相談できる支援者がいるかを確認しておくことには意味があります。

相談支援専門員は、障害福祉サービスを利用している方について、本人の生活全体を見ながらサービス等利用計画の作成やモニタリングなどを行います。

また、障害者就業・生活支援センターなど、就労と生活の双方を支援する機関につながっている方もいます。

企業で生活上の課題が見えたとき、

「会社では対応できないので、ご家族にお願いします」

だけになってしまうと、親が支援できない場合に行き場がなくなります。

一方で、

「生活面について相談できる支援者がいる」

と分かっていれば、本人の同意のもとで必要な連携を検討できます。

企業が支援機関の役割を代わるのではありません。

企業と福祉、それぞれが自分の役割を持ちながらつながることが大切です。

6.親が緊急連絡先から外れたら、きょうだいを登録すればいい?

きょうだいが本人との関係もよく、本人自身も希望しているのであれば、緊急連絡先になる場合もあるでしょう。

ただし、

「親が高齢だから、次はきょうだい」

と自動的に考えることには注意が必要です。

きょうだいには、きょうだい自身の生活があります。

仕事。

家庭。

子育て。

住んでいる場所。

本人との関係性。

なども異なります。

親なきあとへの備えを、

「親からきょうだいへ役割を移すこと」

だけで考えると、きょうだいへ負担が集中する可能性があります。

緊急連絡先は必要ですが、それとは別に、

本人自身で説明できることを増やす。

支援者とつながる。

会社側でも必要な情報を本人と一緒に整理する。

といった備えを考えることも大切です。

7.緊急連絡先より、「本人自身の情報」を整理することも大切?

はい。

緊急時に家族へ連絡できることは大切ですが、家族につながらなければ何も分からない状態は避けたいところです。

本人と相談しながら、職場で必要な情報について整理しておく方法があります。

たとえば、

体調が悪くなったときに本人がしてほしいこと。

服薬など職場で配慮が必要なこと。

本人が強い不安を感じる場面。

本人が理解しやすい説明方法。

通勤で困ったときの相談先。

本人が利用している支援機関。

緊急時に本人自身が連絡できる人。

などです。

もちろん、会社が本人の生活情報を必要以上に収集することは適切ではありません。

必要なのは、就労を継続するうえで必要な情報です。

「親に聞かなければ本人のことが何も分からない」

という状態から、

「本人自身と相談しながら、必要なことを確認できる」

状態へ少しずつ変えていくことも、親なきあとを見据えた雇用支援につながります。

8.親の入院をきっかけに欠勤が増えたら、どう考える?

親が入院したあと、

遅刻が増えた。

欠勤が続く。

服装が乱れる。

疲れている様子がある。

仕事中の不安が強くなった。

といった変化が見られることがあります。

このとき、

「本人の勤務態度が悪くなった」

とだけ捉えないことが大切です。

その背景に、

朝の準備をしてくれる人がいなくなった。

食事が十分に取れていない。

服薬が乱れている。

夜間に不安で眠れていない。

親のことが心配で仕事に集中できない。

といった生活上の変化があるかもしれません。

企業だけで生活問題を解決する必要はありません。

しかし、

「最近何か変わったことがありますか」

と本人に確認し、必要に応じて支援機関につなげることはできます。

勤務上の変化を「問題行動」としてだけではなく、生活の変化を知らせるサインとして見ることも重要です。

9.企業と福祉が連携するとき、何を共有すればいい?

企業と支援者の連携では、

「どこまで情報を共有すればよいのか」

と迷うことがあります。

すべての情報を共有する必要はありません。

重要なのは、目的を明確にすることです。

たとえば、

安定して出勤するために必要なこと。

職場で本人が困っていること。

最近見られる変化。

企業でできる配慮。

生活面で支援機関に確認したいこと。

といった、就労継続に必要な情報を中心にします。

本人の同意を得ながら、

企業は就労の情報。

支援者は生活支援の情報。

を必要な範囲で共有する。

そうすることで、企業が生活支援まで抱えたり、福祉側が職場の状況を知らないまま支援したりすることを避けやすくなります。

企業と福祉の連携については、次の記事でも詳しく扱います。

10.企業が今から確認しておきたいことは?

すべての従業員について親なきあとを詳しく確認する必要はありません。

一方で、障害者雇用の支援体制を見直す際には、

緊急連絡先は最新か。

親以外の連絡先は必要か。

本人が困ったときの相談先を把握しているか。

外部支援機関とつながっているか。

連携が必要になったとき、本人の同意をどのように確認するか。

親の支援がなくなると就労に影響しそうな従業員はいないか。

といった点を確認してみることができます。

目的は家庭事情を把握することではありません。

親に何かあったときにも、

「会社だけでは分からない」

「家族にもつながらない」

「本人も相談先を知らない」

という状態をできるだけ避けることです。

よくある質問(FAQ)

Q1.緊急連絡先は、親以外も必ず登録してもらうべきですか?

一律に必須とするものではありません。

本人の状況や社内ルール、本人の希望などを踏まえて考える必要があります。

重要なのは、連絡先の人数だけでなく、家族につながらない場合に本人が相談できる支援先があるかという点です。

Q2.相談支援専門員の連絡先を会社が把握してもいいですか?

本人の同意なく把握・利用することは避ける必要があります。

本人が連携を希望し、同意している場合には、就労継続に必要な範囲で連携することが考えられます。

情報共有の目的や範囲を明確にすることが大切です。

Q3.本人が支援機関につながっていない場合はどうすればいいですか?

本人が困っている場合には、障害者就業・生活支援センターや自治体の相談窓口など、地域の支援機関について情報提供する方法があります。

企業が本人に代わって支援を決めるのではなく、本人の意向を確認しながらつなぐことが大切です。

Q4.親の高齢化について本人に聞くのは失礼ではありませんか?

親の年齢や病気そのものを詳しく聞くことが目的ではありません。

本人の就労に影響する変化や、困ったときの支援体制について確認するという視点が大切です。

必要性のない家庭情報まで収集しないよう配慮する必要があります。

まとめ|「親に連絡すれば何とかなる」から、その次の支援体制へ

障害者雇用では、親御さんが本人の就労を支える大切な存在になっていることがあります。

その関係を否定する必要はありません。

一方で、

緊急連絡先が親だけ。

本人について相談できる相手も親だけ。

生活上の変化が起きたら会社が連絡する先も親だけ。

という状態であれば、親が支えられなくなったときに、本人の雇用にも影響する可能性があります。

だからこそ、

親以外に相談できる人はいるか。

本人がつながっている支援機関はあるか。

会社と福祉が必要なときにつながれるか。

本人自身が相談できることを増やせるか。

を少しずつ確認していく。

企業が家族の代わりになる必要はありません。

親から会社へ役割を移す必要もありません。

本人を中心に、企業、家族、福祉、地域がそれぞれの役割でつながっていること。

それが、親なきあとにも働き続けるための一つの備えになります。

障害のある従業員の「親なきあと」を、社内で考えるきっかけに

障害者雇用の現場では、

「親が高齢になってきた従業員について、会社としてどこまで考えればよいかわからない」

「生活上の変化が、欠勤や就労継続に影響している」

「家族に何かあったとき、社内で誰がどのように対応すればよいのか整理できていない」

といった課題が出てくることがあります。

あしたパートナーズでは、企業・障害福祉事業者向けに、「親なきあと」問題の全体像や相談事例、障害福祉制度、社内で意識しておきたい対応や外部連携について学ぶ「親なきあと研修」を実施しています。

障害のある従業員の就労継続を考えるうえで、親の高齢化や家族状況の変化をどのように捉えるのか。まずは社内で共通認識を持つところから始めてみてください。

親なきあと研修について詳しくはこちら


執筆者

首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役

ともに、“あした”を
つくる。

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