障害のある従業員の親が入院したとき、企業にできること・できないこと
「従業員から、母親が突然入院したと連絡があった」
「親の入院後から遅刻や欠勤が増えている」
「生活面で困っているようだが、会社としてどこまで関わればよいのかわからない」
障害のある従業員を雇用している企業では、こうした場面に直面することがあります。
本人が安定して働いていたとしても、その背景では親が、
朝起こす。
服薬を確認する。
食事を準備する。
通勤の準備をする。
お金を管理する。
困ったときに相談に乗る。
といった日常生活を支えている場合があります。
その親が突然入院すると、家庭内の変化がそのまま就労へ影響することがあります。
一方で、企業は障害福祉事業者ではありません。
従業員の生活全体を会社が支えたり、家族の代わりになったりする必要はありません。
大切なのは、
企業として対応すべきこと。
本人と相談しながら確認できること。
福祉や地域の支援者につなぐべきこと。
を分けて考えることです。
この記事では、障害のある従業員の親が突然入院した場面を想定し、企業にできること・できないことを親なきあとの視点から整理します。
1.親の入院が、なぜ仕事に影響することがある?
親の入院そのものが、必ず仕事へ影響するわけではありません。
本人が一人暮らしをしていたり、グループホームで生活していたり、すでに家族以外の支援者とのつながりが十分にある場合もあります。
一方で、親と同居し、日常生活を親が大きく支えている場合には状況が異なります。
たとえば、
朝起きられなくなる。
朝食を取れなくなる。
服薬が乱れる。
衣服の準備ができなくなる。
通勤方法がわからなくなる。
本人が親のことを心配して眠れなくなる。
といった変化が起こることがあります。
会社から見えるのは、
遅刻。
欠勤。
仕事中の集中力低下。
身だしなみの変化。
体調不良。
本人の不安の強まり。
かもしれません。
その背景に生活環境の大きな変化がある可能性を考えることが大切です。
2.まず企業が確認したいことは?
最初に確認したいのは、本人が安全に働き続けられる状態かどうかです。
たとえば、
現在の勤務を続けることができそうか。
通勤に問題はないか。
体調や睡眠に変化はないか。
勤務時間などについて一時的な配慮が必要か。
本人自身が困っていることは何か。
といったことです。
ここで大切なのは、
「お母さまが入院したそうですが、ご家庭はどうなっていますか」
と家庭事情を詳しく調べることではありません。
あくまで本人の就労に関係する範囲から確認します。
たとえば、
「最近、ご家庭の状況が変わったことで、仕事や通勤で困っていることはありますか」
「今の勤務時間で大丈夫そうですか」
「会社で配慮した方がよいことはありますか」
と本人を中心に聞くことが考えられます。
3.企業ができることは「生活を支えること」ではなく「働き方を整えること」
親の入院によって本人の生活が不安定になると、
「会社として何とかしてあげなければ」
という気持ちが生まれることがあります。
しかし、企業が家庭生活のすべてを支援する必要はありません。
企業だからこそできることがあります。
たとえば、
勤務時間を一時的に調整できるか検討する。
休暇の取得について相談する。
業務量や担当業務を一時的に見直す。
休憩しやすい環境を整える。
本人が状況を説明しやすい担当者を決める。
必要な合理的配慮について本人と話し合う。
といったことです。
つまり、
生活上の問題を会社が解決するのではなく、
生活の変化があるなかでも本人が働き続けるために、職場でできることを考える。
これが企業の大切な役割です。
4.逆に、企業が抱え込まない方がよいことは?
親の入院によって、さまざまな生活課題が見えてくることがあります。
食事。
家事。
服薬。
通院。
金銭管理。
障害福祉サービス。
住まい。
行政手続き。
こうした課題について、企業の担当者がすべて対応しようとすると、会社側の負担も大きくなります。
また、専門的な支援が必要なことを、企業内だけで判断することにも限界があります。
たとえば、
本人の代わりに銀行口座を管理する。
本人の福祉サービスを会社が決める。
家族に代わって日常生活の支援を続ける。
相続や成年後見制度について会社が判断する。
といったことは、企業本来の役割とは異なります。
企業に必要なのは、
「会社で解決できない」
と突き放すことでも、
「会社が全部支える」
ことでもありません。
必要な支援先につなぐことです。
5.本人が福祉につながっているか確認してもいい?
本人の同意を得ながら確認することは考えられます。
たとえば、
相談支援専門員。
障害者就業・生活支援センター。
就労定着支援。
グループホーム。
その他の障害福祉事業所。
医療機関。
など、本人がすでにつながっている支援者がいる場合があります。
親の入院によって生活上の課題が生じているのであれば、
「生活面について相談できる方はいますか」
「必要であれば、支援者の方と一緒に考えることもできますが、どうでしょうか」
と本人に確認する方法があります。
本人の同意が得られれば、就労継続に必要な範囲で企業と支援者が連携することも考えられます。
企業が福祉サービスの調整役になる必要はありません。
本人を適切な相談先へつなげられることが重要です。
6.本人が福祉につながっていない場合はどうする?
障害者雇用で働いているからといって、すべての人が障害福祉サービスを利用しているわけではありません。
親が生活を支えてきたため、これまで福祉とのつながりを必要としてこなかった人もいます。
その場合、
「相談支援専門員につなげなければ」
と企業側が一方的に決めるのではなく、まず本人が何に困っているのかを確認することが大切です。
必要に応じて、
市区町村の障害福祉相談窓口。
基幹相談支援センター。
障害者就業・生活支援センター。
地域の相談支援事業所。
などの情報を本人へ伝える方法があります。
会社が支援先を決めるのではなく、
「こういう相談先があります」
と選択肢を示し、本人が相談することを支える。
そのくらいの距離感が適切な場合もあります。
7.家族へ直接連絡して対応を決めてもいい?
緊急時には、本人が登録している緊急連絡先へ会社が連絡する場面もあります。
一方で、親が入院しているからといって、企業と家族だけで本人の今後について話を進めることには注意が必要です。
本人は成人した一人の従業員です。
本人の意思を確認できる状況であれば、
どのような支援を希望しているのか。
家族へ何を伝えてよいのか。
支援者と連携してよいのか。
といったことを、まず本人と確認することが大切です。
障害があるからといって、
「本人ではなく親に聞く」
ことを当然にしない。
親なきあとを考えるうえでも重要な視点です。
本人自身が職場で必要なことを伝えたり、自分の希望を選んだりできるよう支援することが、将来の暮らしにもつながります。
8.勤務が不安定になったとき、企業はどう見ればいい?
親の入院後に、
遅刻が増えた。
連絡なしの欠勤があった。
業務ミスが増えた。
身だしなみが変わった。
集中できない様子がある。
ということが起こる場合があります。
もちろん、企業として就業上のルールを確認することは必要です。
一方で、すぐに「勤務態度の問題」とだけ捉えないことも大切です。
その背景に、
生活リズムが崩れている。
食事が十分に取れていない。
服薬ができていない。
親の入院による精神的な不安が大きい。
通勤を支えていた親がいない。
といった事情がある可能性があります。
本人と状況を確認し、
企業でできる配慮と、
生活面で外部支援が必要なこと、
を切り分けて考えていきます。
9.支援者との連携では、どこまで情報共有する?
企業と福祉が連携するときには、本人のプライバシーへの配慮が必要です。
家族の事情や本人の障害に関する情報を、必要以上に共有する必要はありません。
まず確認したいのは、
「何のために情報共有するのか」
です。
たとえば、
安定した出勤を支えるため。
職場での配慮方法を考えるため。
勤務時間の調整について相談するため。
本人の最近の変化について、生活面の状況とあわせて考えるため。
と目的を明確にします。
そのうえで、本人の同意を得ながら必要な範囲で共有します。
企業は職場での状況を伝える。
支援者は生活面から必要な情報を伝える。
それぞれの立場から本人の就労継続を支えることが大切です。
10.親が退院したら、元に戻せば終わり?
親が退院し、本人の生活が落ち着けば、一時的な勤務調整などを元に戻すこともあるでしょう。
ただし、
「今回は無事に終わった」
だけで終わらせず、本人と一度振り返ってみることには意味があります。
今回、何に困ったのか。
親が担っていたことは何だったのか。
会社以外に相談できる人はいたのか。
生活面の支援者はいたのか。
次に同じことが起きたときはどうするのか。
を確認します。
もちろん、企業が親なきあと計画を作る必要はありません。
しかし、
「今回の親の入院で、本人の就労にどのような影響があったのか」
を確認しておくことで、次に変化が起きたときの対応は大きく変わります。
親の入院は、一時的な出来事であると同時に、将来の親なきあとを考えるきっかけになることもあります。
よくある質問(FAQ)
Q1.親の入院について、企業から詳しく聞いてもいいですか?
本人の就労に必要な範囲で確認することが大切です。
親の病名や治療内容など、業務に必要のない情報まで聞く必要はありません。
「家庭の変化によって、仕事や通勤で困っていることがあるか」という視点から本人と話すことが考えられます。
Q2.親が入院したら、会社から相談支援専門員へ連絡してもいいですか?
本人の同意なく自由に連絡するのではなく、まず本人の意向を確認することが大切です。
本人が連携を希望する場合には、就労継続に必要な範囲で情報共有を行うことが考えられます。
Q3.生活が安定するまで休職してもらった方がいいですか?
一律に判断することはできません。
本人が働き続けることを希望し、勤務時間や業務内容の調整によって就労を継続できる場合もあります。
本人と話し合いながら、会社の制度や業務上可能な対応を検討することが大切です。
Q4.企業が福祉の相談先まで把握する必要がありますか?
すべての制度を詳しく理解する必要はありません。
一方で、障害者就業・生活支援センターや地域の相談窓口など、「生活上の課題が見えたときに、どこへつなげられるか」という基本的な相談先を把握しておくことには意味があります。
まとめ|企業が「親の代わり」になる必要はない
障害のある従業員の親が突然入院したとき、企業が本人のために何かできないかと考えることは自然なことです。
一方で、会社が生活すべてを抱え込む必要はありません。
企業ができるのは、
本人の状況を確認すること。
本人の意思を聞くこと。
職場でできる配慮を考えること。
就労上の変化に気づくこと。
必要なときに外部の支援者へつなぐこと。
です。
そして、企業だけでは対応できない、
住まい。
食事。
服薬。
金銭管理。
障害福祉サービス。
家族関係。
といった生活課題は、必要な支援者と一緒に考える。
企業ができることと、できないことを明確にすることは、本人を突き放すことではありません。
むしろ、
企業は就労を支える。
福祉は暮らしを支える。
医療は健康を支える。
家族や地域も、それぞれの役割で関わる。
本人を中心に、それぞれがつながることが重要です。
親なきあとに働き続けられる環境をつくるために必要なのは、企業が家族の代わりになることではありません。
「会社だけ」「家族だけ」にならない支援の形を、本人と一緒につくっていくことではないでしょうか。
障害のある従業員の「親なきあと」を、社内で考えるきっかけに
障害者雇用の現場では、
「親が高齢になってきた従業員について、会社としてどこまで考えればよいかわからない」
「生活上の変化が、欠勤や就労継続に影響している」
「家族に何かあったとき、社内で誰がどのように対応すればよいのか整理できていない」
といった課題が出てくることがあります。
あしたパートナーズでは、企業・障害福祉事業者向けに、「親なきあと」問題の全体像や相談事例、障害福祉制度、社内で意識しておきたい対応や外部連携について学ぶ「親なきあと研修」を実施しています。
障害のある従業員の就労継続を考えるうえで、親の高齢化や家族状況の変化をどのように捉えるのか。まずは社内で共通認識を持つところから始めてみてください。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
