特例子会社だから考えたい「親なきあと」支援とは
特例子会社で長く働く障害のある従業員が増えていくなかで、企業側にも新しい課題が見え始めています。
それが、従業員本人だけではなく、その親御さんの高齢化です。
入社した頃には元気だった親御さんが、10年、20年と経つなかで高齢になる。
親が病気になる。
介護が必要になる。
入院する。
認知症になる。
そして、これまで親が担ってきた生活上の支援が難しくなる。
こうした変化は家庭内だけで起こるものではありません。
生活リズムが崩れる。
通勤が難しくなる。
服薬や金銭管理が不安定になる。
本人の精神的な不安が強くなる。
その結果として、遅刻や欠勤が増えたり、これまで安定していた就労が難しくなったりすることがあります。
親なきあとは、親が亡くなったあとだけに始まる問題ではありません。
親の高齢化や病気などによって、これまでと同じように本人を支えられなくなったときから、暮らしの変化は始まります。
では、特例子会社は、この問題にどこまで関わるべきなのでしょうか。
この記事では、特例子会社における障害者雇用と「親なきあと」の関係、企業として考えておきたい支援体制について整理します。
1.なぜ、特例子会社で「親なきあと」を考える必要がある?
特例子会社が、従業員の親なきあとをすべて支援する必要があるからではありません。
むしろ重要なのは、
「親の変化が、本人の就労継続にも影響することがある」
と知っておくことです。
障害のある従業員のなかには、働くことそのものは安定していても、その背景で親御さんがさまざまなことを支えている場合があります。
毎朝起こす。
朝食を用意する。
服薬を確認する。
身だしなみを確認する。
通勤の準備をする。
給与や生活費を管理する。
会社から届いた書類を確認する。
本人の不安や悩みを聞く。
こうした支援は、職場からは見えにくいものです。
そのため、親御さんが突然入院したときに初めて、
「これまでの安定した就労を、実は家族がかなり支えていた」
と分かることがあります。
親なきあとを考えることは、家庭の事情に踏み込むことではありません。
現在の就労がどのような生活基盤の上に成り立っているのかを理解し、変化が起きたときに備えることです。
2.特例子会社だからこそ、気づける変化がある?
特例子会社では、障害のある従業員と長期間にわたって関わることがあります。
そのなかで、
以前より遅刻が増えた。
服装や身だしなみに変化が出てきた。
昼食を持ってこなくなった。
疲れている様子が増えた。
本人から家族の話が増えた。
これまで参加していた行事に参加しなくなった。
といった小さな変化に気づくことがあります。
もちろん、こうした変化だけで「家庭に問題がある」と判断するべきではありません。
しかし、
「最近、何か困っていることはありませんか」
と本人へ声をかけるきっかけにはなります。
本人の変化を継続的に見られることは、企業が持っている大切な視点の一つです。
福祉事業所では見えない「働いているときの本人」を、企業は日々見ています。
その気づきを、必要に応じて本人や支援者へつなぐことが、就労継続を支えることにつながります。
3.企業は家族の状況を把握しておくべき?
親なきあとを考えるからといって、企業が従業員の家庭状況を詳しく調査する必要はありません。
親の年齢。
病気。
財産。
相続。
家族関係。
こうした情報を必要以上に収集することは避けるべきです。
企業が確認したいのは、
「本人が働き続けるために、現在どのような支援が必要なのか」
という点です。
たとえば本人との面談で、
「生活面で最近変わったことはありますか」
「通勤や朝の準備で困っていることはありませんか」
「困ったときに相談できる人はいますか」
「生活について相談している支援者はいますか」
といった確認をすることが考えられます。
家庭を把握することが目的ではありません。
本人の就労に影響する変化を早めに捉えることが目的です。
4.親が担っている「見えない支援」をどう考える?
親なきあとを考えるとき、一度整理しておきたいのが、家族が日常的に担っている「見えない支援」です。
たとえば、
起床。
食事。
服薬。
金銭管理。
通院。
買い物。
行政手続き。
予定管理。
相談相手。
会社との連絡。
などです。
本人が安定して働いていると、こうした生活上の支援は企業から見えないことがあります。
しかし、親が支えられなくなったときには、その一部が就労にも影響します。
だからといって、
「親がやっていることを会社が引き継ぐ」
必要はありません。
まず、
本人自身でできること。
少し支援があればできること。
継続的な支援が必要なこと。
を分けて考えます。
そして必要な部分について、相談支援や障害福祉サービス、医療、地域の支援などにつなげていく。
親が担っていることを、一つの企業や一人の支援者へ移すのではなく、本人を中心とした社会のつながりへ少しずつ移していく視点が重要です。
5.親の高齢化に気づいたら、企業は何をすればいい?
最初から「親なきあと対策」を始める必要はありません。
まずは本人の現在の暮らしと就労に変化がないかを見ることです。
たとえば、
親の入院によって通勤に影響が出ている。
家事を担う人がいなくなり、本人が疲れている。
親の介護を本人が担い始めている。
家庭環境の変化によって不安が強くなっている。
といったことがあれば、本人と話をします。
そのうえで、生活上の支援が必要であれば、
相談支援専門員。
障害者就業・生活支援センター。
就労定着支援事業所。
自治体の相談窓口。
その他の地域の支援機関。
などとの連携を本人と一緒に考えます。
企業が問題を解決するのではなく、
「必要な支援につながるきっかけをつくる」
という立場が重要です。
6.家族との面談を増やせば、親なきあと支援になる?
家族との連携が有効な場合はあります。
特に、本人が希望している場合や、家族が日常生活を大きく支えている場合には、家族から得られる情報が就労支援に役立つことがあります。
一方で、
「親なきあとが心配だから、家族との関係を強くする」
だけでは十分ではありません。
むしろ、親だけが本人と会社をつなぐ存在になってしまえば、親が支えられなくなったときに連携が途切れる可能性があります。
親御さんとの関係を大切にしながら、
本人と企業が直接話せる。
本人自身が困ったときに相談できる。
本人と福祉の支援者がつながっている。
企業と外部支援者が必要なときに連携できる。
という関係もつくっていくことが大切です。
「親との連携」から「本人を中心とした連携」へ。
少しずつ支援の形を広げていくことが、親なきあとへの備えになります。
7.企業が「できること」と「できないこと」を整理する
親なきあとへの課題が見えてくると、障害者雇用担当者が、
「どこまで会社で支えればよいのだろう」
と悩むことがあります。
企業ができることには、
本人の変化に気づく。
本人の話を聞く。
職場で必要な配慮を考える。
相談できる支援者がいるか確認する。
本人の同意を得て外部支援者と連携する。
社内で対応方針を共有する。
といったことがあります。
一方で、
本人の日常生活を全面的に支える。
親に代わって金銭管理をする。
本人の住まいを会社が決める。
相続や成年後見などの判断を会社が行う。
家族間の問題を会社が解決する。
といったことまで企業が担うものではありません。
企業が親の代わりになる必要はありません。
だからこそ、
「企業で支えること」
と
「外部へつなぐこと」
を分けて考える必要があります。
8.担当者個人の経験だけに頼っていない?
特例子会社では、障害者雇用について豊富な経験を持つ担当者がいることがあります。
本人や家族との信頼関係が深く、
「何かあったら○○さんに相談すれば大丈夫」
という状態になっているケースもあるでしょう。
これは大きな強みです。
一方で、担当者個人に支援が集中すると、その担当者が異動・退職したときに対応が難しくなることがあります。
親なきあとへの対応も同じです。
重要なのは、担当者一人が詳しくなることだけではありません。
たとえば、
親の高齢化による変化をどう捉えるか。
本人から相談があったとき誰へ共有するか。
どこまで企業で対応するか。
どの段階で外部支援につなぐか。
地域にどのような相談先があるか。
といった基本的な考え方を社内で共有しておくことが大切です。
個人の経験を、企業の支援体制へ変えていく。
それが、長期的な障害者雇用を支える基盤になります。
9.すべての従業員に同じ「親なきあと支援」が必要?
必要ありません。
障害の種類や程度、本人の生活状況、家族との関係、利用している福祉サービスなどは一人ひとり異なります。
一人暮らしをしている人。
グループホームで暮らしている人。
家族と同居している人。
親が生活の多くを支えている人。
すでに複数の支援者とつながっている人。
状況はさまざまです。
そのため、
「親なきあと支援チェックリストを全員に実施する」
だけでは、本当に必要な支援は見えにくいかもしれません。
大切なのは、
本人の現在の暮らし。
本人の希望。
就労を支えている人。
生活上の変化。
困ったときの相談先。
を一人ひとり見ていくことです。
親なきあとという言葉から将来だけを見るのではなく、まず「今の本人」を見ることが出発点です。
10.特例子会社に求められるのは「支えること」だけではない
企業には、福祉とは異なる大切な役割があります。
それは、「働く」という社会とのつながりを支えることです。
仕事がある。
職場へ行く。
同僚と会う。
自分の役割がある。
給与を受け取る。
誰かから必要とされる。
こうした日常は、本人の暮らしの大切な一部です。
親が高齢になっても、親が入院しても、親なきあとになっても、本人の生活は続いていきます。
そのなかで仕事を続けられることは、生活の安定だけでなく、人とのつながりを維持することにもつながります。
だからこそ特例子会社が親なきあとを考える意味は、
「家族の代わりになること」
ではありません。
本人がこれからも働き続けられるよう、企業だけで抱え込まず、福祉や地域とつながる仕組みをつくることです。
よくある質問(FAQ)
Q1.特例子会社は、従業員の親なきあとまで支援する必要がありますか?
本人の生活全体を企業が支援する必要はありません。
一方で、親の高齢化や入院など生活上の変化が就労継続に影響する場合があります。企業としてできる対応と、外部の支援につなぐ対応を分けて考えることが重要です。
Q2.親の年齢を従業員全員に確認した方がよいですか?
親の年齢そのものを一律に把握することが目的ではありません。
本人の就労や生活に変化がないか、困ったときに相談できる人や支援機関があるかなど、就労継続に必要な範囲で確認することが大切です。
Q3.家族との連携ができていれば十分でしょうか?
家族との連携は大切ですが、それだけでは十分とは限りません。
親が支えられなくなることも想定し、本人自身との関係や、相談支援専門員など地域の支援者とのつながりもつくっておくことが重要です。
Q4.親なきあとについて、企業はいつから考えればよいですか?
親が亡くなったあとからではなく、親の高齢化や病気などによって本人の暮らしに変化が見え始めた段階から考えることができます。
大きな問題が起きる前に、社内の支援体制や外部との連携先を確認しておくことが備えになります。
まとめ|特例子会社だけで支えないことも、「親なきあと」支援
障害のある従業員が長く働く。
それは企業にとっても、本人や家族にとっても大切なことです。
そして、働く期間が長くなれば、本人だけでなく家族も年齢を重ねていきます。
これまで親御さんが支えてきた暮らしが、少しずつ変わっていく。
その変化が就労にも表れてくる。
これからの障害者雇用では、そうした場面に向き合う企業も増えていくでしょう。
だからといって、企業が家族の代わりになる必要はありません。
本人の変化に気づく。
本人の話を聞く。
企業でできることを考える。
そして、企業だけでは支えられないことを、福祉や地域へつなぐ。
本人を中心に、家族、企業、支援者、地域がそれぞれの役割を持つ。
「会社が支える」から、「会社も社会の支援の一員としてつながる」へ。
その体制をつくっていくことが、特例子会社における親なきあと支援の一つの形です。
「親なきあと」を、担当者だけの課題にしないために
「親の高齢化が気になる従業員がいるが、どこまで企業が関わるべきかわからない」
「家族に何かあったときの対応が、担当者の経験に委ねられている」
「福祉や地域の支援者と、どのように連携すればよいかわからない」
こうした課題に備えるためには、一部の担当者だけが知識を持つのではなく、マネージャー・スタッフ・指導員など、障害のある従業員に関わる人たちが基本的な考え方を共有しておくことが大切です。
あしたパートナーズでは、企業・障害福祉事業者向けに、「親なきあと」問題の全体像や相談事例、障害福祉制度、企業として意識しておきたい対応、地域の支援者・専門家との連携について学ぶ「親なきあと研修」を実施しています。
親なきあとへの対応を、担当者個人の経験から、企業としての支援体制へ。
その第一歩として、社内で共通認識をつくるところから始めてみてください。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
