きょうだいの「親なきあと」の不安を軽くする|共倒れを防ぐための準備と支援
障害のある兄弟姉妹を持つ人は、一般に「きょうだい児」や「きょうだい」と呼ばれることがあります。
きょうだいのなかには、幼い頃から家族を気にかけ、自分の気持ちを抑えたり、親が亡くなった後の生活に大きな不安を感じたりしてきた方もいます。
「親がいなくなったら、自分が兄弟姉妹を支えなければならないのではないか」
「自分の進学や仕事、結婚はどうなるのだろう」
そのような不安を抱えていても、家族には話しづらく、一人で考え続けている方も少なくありません。
しかし、「親なきあと」は、きょうだい一人がすべてを背負う問題ではありません。
障害のある本人の希望を大切にしながら、親子やきょうだいで将来について話し合い、福祉サービスや公的制度を活用することで、家族だけに負担が集中しない生活を考えることができます。
この記事では、きょうだいが抱えやすい気持ちや、「親なきあと」に想定される課題、共倒れを防ぐために親が元気なうちから始めたい準備について解説します。
「きょうだい児」とは?障害のある兄弟姉妹を持つ人の複雑な胸の内
「きょうだい児」とは、障害や病気のある兄弟姉妹を持つ子どもを指す言葉として使われてきました。
成人した方も含めて「きょうだい」や「きょうだい当事者」と呼ばれることもあります。
ただし、障害のある兄弟姉妹を持つすべての方が、同じ経験や感情を抱えているわけではありません。
兄弟姉妹との関係を大切にしたい方もいれば、一定の距離を保ちたい方もいます。家族を支えることに喜びを感じる方もいれば、長年にわたって負担や葛藤を抱えてきた方もいます。
大切なのは、「きょうだいだから、こう感じるはずだ」と決めつけず、一人ひとりの立場や気持ちに目を向けることです。
親の関心が偏っているように感じる寂しさや孤独感
障害のある子への通院や療育、日常生活の支援に多くの時間が必要な家庭では、親の関心や時間がそちらに集中しやすくなることがあります。
その結果、きょうだいは、
「自分は後回しにされている」
「自分のことでは親を困らせてはいけない」
と感じることがあります。
親に心配をかけないように、悩みを話さず、「良い子」「手のかからない子」でいようとする場合もあります。
親は同じように愛情を注いでいるつもりでも、きょうだいの側に寂しさや孤独感が残ることがあります。
ヤングケアラーとして家族を支えてきた葛藤
家庭によっては、きょうだいが幼い頃から、障害のある兄弟姉妹の見守りや身の回りの手伝い、家事などを担っていることがあります。
家族の一員として自然に手伝っている場合もありますが、その役割が年齢や成長に見合わないほど重くなると、ヤングケアラーとしての負担が生じる可能性があります。
友人と過ごす時間や、勉強、部活動などに使う時間が限られ、同年代との生活の違いに寂しさを感じることもあります。
家族を思う気持ちと、自分の時間を大切にしたい気持ちは、どちらも自然なものです。
「自分が面倒を見なければ」という将来へのプレッシャー
きょうだいのなかには、親から明確に頼まれていなくても、
「親がいなくなったら、自分が支えることになる」
と考えている方がいます。
親が何気なく口にした「将来はお願いね」という言葉や、親族からの期待が、長く心に残っている場合もあります。
進学、就職、転勤、結婚、住む場所などを考えるたびに、障害のある兄弟姉妹の将来が頭に浮かび、自分の選択肢を狭めてしまうこともあります。
しかし、きょうだいであることだけを理由に、同居や介護、生活全般を当然に引き受ける必要はありません。
どのように関わるかは、本人の希望や家族の状況、利用できる福祉サービスを踏まえて、無理のない範囲で考えることが大切です。
兄弟姉妹を負担に感じることへの罪悪感
障害のある兄弟姉妹を大切に思っていても、時には負担に感じたり、距離を取りたいと思ったりすることがあります。
そのような気持ちを抱いた自分に対して、
「冷たい人間なのではないか」
「家族なのに、こんなことを考えてはいけない」
と罪悪感を持つ方もいます。
しかし、兄弟姉妹を大切に思う気持ちと、自分の人生を守りたい気持ちは、相反するものではありません。
同居や日常的な介護は難しくても、時々連絡を取る、支援者との話し合いに参加する、緊急時の連絡先になるなど、関わり方にはさまざまな形があります。
「親なきあと」にきょうだいが直面する5つの課題
親が担ってきた役割は、精神的な支えだけではありません。
日常生活の支援、金銭管理、福祉サービスの手続き、医療機関との連絡、住まいの維持など、外からは見えにくい役割を数多く担っています。
親が支えられなくなったとき、これらをすべてきょうだいが引き継ぐ必要はありません。
まずは想定される課題を知り、本人、家族、福祉サービス、行政などに役割を分けていくことが重要です。
1.生活のサポートを誰が担うのか
食事の準備、掃除や洗濯、入浴、服薬の確認、通院への付き添いなど、親が日常的に担っている支援は多岐にわたります。
手厚い支援が必要な場合に、きょうだい一人がそのすべてを担うことは、仕事や家庭生活との両立が難しく、心身の負担が大きくなる可能性があります。
居宅介護、短期入所、生活介護、グループホームなど、利用できる障害福祉サービスを確認し、家族が担わなくてもよい部分を増やしていくことが大切です。
2.お金を誰が管理するのか
障害のある本人の生活には、障害年金、給与や工賃、各種手当、親から引き継ぐ財産などが関わります。
本人がお金の管理を苦手としている場合には、日々の支払いを誰が支えるのか、預貯金や不動産を誰が管理するのかを考える必要があります。
遺言、生命保険、家族信託、成年後見制度などの選択肢がありますが、制度ごとにできることや対象が異なります。
財産を残すことと、その財産を長期的に管理する仕組みは分けて考えることが必要です。
3.行政や医療、福祉の手続きを誰が行うのか
障害福祉サービスの更新、各種手当の申請、医療機関との連絡など、親が担っている手続きは少なくありません。
きょうだいが遠方に住んでいたり、仕事や子育てをしていたりする場合、平日に行政窓口や医療機関へ出向くことが大きな負担になることもあります。
また、成人した本人について、きょうだいであることを理由に、すべての契約や手続きを当然に代理できるわけではありません。
相談支援専門員、福祉サービス事業所、成年後見人等が関われる体制を考えておく必要があります。
4.結婚やキャリアへの影響
「親なきあと」の役割を一人で背負おうとすると、きょうだい自身の人生設計に影響することがあります。
障害のある兄弟姉妹の近くに住むために、希望する地域への転居や転勤を諦めたり、支援のために仕事を減らしたりすることも考えられます。
結婚を考える際にも、パートナーやその家族にどのように伝えるか、不安を感じる方がいます。
きょうだい自身が、自分の人生を選ぶことに罪悪感を持つ必要はありません。
家族だけに依存しない支援体制を整えることは、きょうだいが仕事や結婚などを自由に考えられる環境をつくることにもつながります。
5.家族や親族との意見の違い
親が家族の中心となって調整を行ってきた場合、親がいなくなることで、家族や親族の関係が変化することがあります。
障害のある本人への関わり方、相続、住まいの管理などについて、意見が一致しない場合もあります。
一人は積極的に関わりたいと考え、別のきょうだいは距離を保ちたいと考えることもあるでしょう。
どちらが正しい、間違っているということではありません。
それぞれの生活状況や、これまで担ってきた役割によって考え方が異なるのは自然なことです。
共倒れを防ぐために、親が元気なうちから始めたい4つの準備
「親なきあと」は、親が亡くなった後に突然始まるものではありません。
親が高齢になり、病気や認知症によって、これまでと同じように支えられなくなったときから、少しずつ課題が表面化します。
すべてを一度に決める必要はありません。家族それぞれの気持ちを確認しながら、課題を一つずつ整理していきましょう。
ステップ1:親子・きょうだいで将来について話す
最初から役割分担を決めるのではなく、まずはそれぞれが感じている不安や希望を共有することから始めます。
例えば、次のような内容を話し合います。
- 親が現在担っている支援
- 親が支えられなくなったときに困ること
- 障害のある本人が希望する暮らし
- きょうだいができること、難しいこと
- 家族以外へ任せたいこと
- 緊急時の連絡方法
- お金や住まいに関する親の考え
きょうだいには、「将来は面倒を見てほしい」と結論を押しつけるのではなく、関わらないという選択も含めて本人の考えを確認することが大切です。
ステップ2:障害のある本人の希望を確認する
「親なきあと」の暮らしを考えるうえで、中心となるのは障害のある本人です。
どこで暮らしたいのか、誰と暮らしたいのか、どのような仕事や日中活動を続けたいのかを、できる限り確認します。
言葉で伝えることが難しい場合でも、日々の表情や行動、好きなこと、苦手な環境などから、安心できる暮らしを考えることができます。
グループホームや短期入所などを検討する場合には、親が元気なうちに見学や体験利用を行うことも大切です。
ステップ3:利用できる福祉サービスを整理する
障害のある本人の生活を、家族だけで支える必要はありません。
利用できるサービスには、次のようなものがあります。
- グループホーム(共同生活援助)
- 居宅介護
- 短期入所
- 生活介護
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型・B型
- 自立生活援助
- 相談支援
本人の障害特性や必要な支援、自治体の状況によって利用できるサービスは異なります。
相談支援専門員や自治体の障害福祉窓口へ相談し、本人に合った支援を確認しましょう。
ステップ4:お金と財産管理を考える
まずは、障害年金、給与や工賃、各種手当などの収入と、住居費、食費、医療費などの支出を整理します。
そのうえで、親の財産を誰にどのように残すか、相続後に誰が管理するかを考えます。
遺言、生命保険、家族信託、成年後見制度などは選択肢になりますが、一つの制度ですべてを解決できるわけではありません。
本人の判断能力、家族構成、財産の内容、将来の暮らし方を踏まえ、何のためにどの制度を利用するのかを整理することが大切です。
きょうだいが頼れる相談先
「親なきあと」の不安や家族に対する複雑な気持ちを、きょうだい一人で抱え込む必要はありません。
相談することは、障害のある兄弟姉妹を見放すことではありません。
自分自身の生活も大切にしながら、無理のない関わり方を考えるための一歩です。
自治体の障害福祉窓口や相談支援事業所
本人の暮らしや福祉サービスについては、自治体の障害福祉窓口、相談支援事業所、基幹相談支援センターなどへ相談できます。
将来、親が支えられなくなった場合の住まいや生活についても、早めに伝えておくことが大切です。
「きょうだい会」やピアサポート
障害のある兄弟姉妹を持つ人同士が集まる「きょうだい会」や、オンラインでの交流の場もあります。
家族や友人には話しづらい気持ちでも、似た経験を持つ人には話しやすいことがあります。
参加が負担に感じられる場合は、話を聞くだけにしたり、オンラインで参加したりする方法もあります。
法律やお金の相談先
遺言、相続、信託、成年後見制度などについては、内容に応じて弁護士、司法書士、税理士などへ相談する方法があります。
将来の生活費や家計については、ファイナンシャルプランナーへ相談することも考えられます。
ただし、お金や法律だけを切り離さず、障害のある本人がどのように暮らすのかという生活設計と合わせて考えることが大切です。
家族の課題を整理する「親なきあと個別相談」
「親なきあと」には、暮らし、住まい、福祉サービス、お金、相続、財産管理、きょうだいの関わり方など、複数の課題が関係します。
そのため、
「何から考えればよいか分からない」
「家族で話すと感情的になってしまう」
「きょうだいにどこまでお願いしてよいか分からない」
というご家族も少なくありません。
あしたパートナーズの「親なきあと個別相談」では、ご本人とご家族の現在の状況を伺いながら、将来考えられる課題を一つずつ整理します。
きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にせず、それぞれの生活や気持ちを踏まえた関わり方を考えます。
最初から具体的な相談内容が決まっていなくても問題ありません。
現在親が担っている役割や、本人が利用している福祉サービスを確認するところから始めることができます。
きょうだい児の「親なきあと」に関するよくある質問
Q.障害のある兄弟姉妹の将来を考えると、自分の人生を犠牲にしそうでつらいです
自分の人生を大切にしたいと感じることは、自然なことです。
障害のある兄弟姉妹を大切に思う気持ちと、自分の仕事や結婚、暮らしを守りたいという気持ちは両立します。
同居や介護を担わなくても、関わり方にはさまざまな形があります。
まずは現在親が担っている役割を整理し、福祉サービスや支援者へ任せられることを確認しましょう。
Q.親が元気なうちに、何から話し合えばよいですか?
最初から相続や役割分担の結論を出す必要はありません。
「将来どのように暮らしたいか」
「今、親が行っていることで、今後困りそうなことは何か」
といった話しやすい内容から始めましょう。
家族だけでは話しにくい場合は、相談支援専門員などに同席してもらう方法もあります。
Q.他のきょうだいが関わろうとしません
他のきょうだいにも、それぞれの生活やこれまでの経験があります。
無理に同じ役割を求めるのではなく、まずは障害のある本人の生活に必要な支援を整理しましょう。
家族が担わなくてもよいことを福祉サービスや制度へ移し、それぞれができる範囲を確認することが大切です。
まとめ|きょうだいも自分の人生を大切にできる準備を
きょうだいが抱える「親なきあと」への不安は、決して特別なものではありません。
親がいなくなった後の暮らしやお金、手続きについて十分な情報がないまま、
「自分がすべてを背負うのではないか」
と感じている方もいます。
大切なのは、きょうだい一人に将来の責任を集めないことです。
障害のある本人の希望を確認し、親が担っている役割を整理したうえで、福祉サービス、相談支援、財産管理の仕組みなどへ役割を分けていく必要があります。
きょうだいが関わる場合も、その方法は同居や介護だけではありません。
定期的に連絡を取る、本人を気にかける、必要な話し合いに参加するなど、それぞれの生活に合った関わり方があります。
「親なきあと」の準備とは、障害のある本人だけを守るためのものではありません。
親、障害のある本人、きょうだいの誰か一人に負担が偏ることを防ぎ、それぞれが安心して自分の生活を続けられる仕組みを整えることです。
まずは、家族それぞれが感じていることを知り、今の暮らしのなかで親だけが担っている役割を一つずつ見つけることから始めてみましょう。
なお、あしたパートナーズでは、障害のある子がいる親御さんの「親なきあと」に関する個別相談を行っています。
個別相談では、ご家族の構成や所有する資産、現在感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、きょうだいのこと、事業承継といった課題を一つずつ整理していきます。
「何から考えればよいのか分からない」「家族だけでは話し合いが進まない」という段階でも構いません。障害のある子とご家族にとって、無理なく続けられる備えを一緒に考えていきます。
お気軽に個別相談ください。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
