コラム
Column
2026.07.14 きょうだい×親なきあと

障害のあるきょうだいと自分の人生|結婚・相続・将来の負担への備え

障害のある兄弟姉妹を持つことが、進学や就職、結婚など、自分自身の人生設計に影響することがあります。

「自分の人生を自由に選んでもよいのだろうか」

「親が亡くなった後、自分が兄弟姉妹を支えることになるのではないか」

そのような葛藤や「親なきあと」への不安を抱えながらも、家族には話しづらく、一人で考え続けている方も少なくありません。

しかし、障害のある兄弟姉妹がいるからといって、自分の人生を諦めたり、将来の介護や生活支援を一人で引き受けたりする必要はありません。

この記事では、結婚や就職といったライフステージごとの悩みと、相続、住まい、成年後見制度、将来の負担に備えるための考え方を解説します。

「自分の人生を歩んでいいの?」きょうだいが抱える葛藤

障害のある兄弟姉妹を持つ方のなかには、幼い頃から家族を気にかけ、自分の希望よりも親や兄弟姉妹を優先してきた方もいます。

親が通院や療育、日常生活の支援に多くの時間を使う姿を見て、

「自分は親を困らせないようにしよう」

「自分だけが好きなことをしてはいけない」

と感じてきた方もいるでしょう。

その経験から、進学、就職、結婚などの選択をする場面でも、家族の将来が頭に浮かび、自分の希望を優先することに迷いが生じる場合があります。

一方で、障害のある兄弟姉妹を持つすべての方が、同じ感情を抱えているわけではありません。

積極的に関わりたい方もいれば、一定の距離を保ちたい方もいます。どのような気持ちであっても、間違いではありません。

自分自身の仕事や結婚、暮らしを大切にすることは、障害のある兄弟姉妹を見放すことではありません。

まずは、自分が何に不安を感じ、将来どのような距離で家族と関わりたいのかを整理することが大切です。

ライフステージ別に考える悩みと向き合い方

進学や就職、結婚などの人生の節目では、それまで漠然としていた「親なきあと」への不安が具体的になることがあります。

ここでは、それぞれの場面で生じやすい悩みと、向き合う際の考え方を整理します。

結婚を考えたときのパートナーへの伝え方

結婚を意識すると、パートナーやその家族に、兄弟姉妹の障害について、いつ、どのように伝えるか悩むことがあります。

伝える時期に、一つの正解があるわけではありません。

将来を一緒に考える関係になった段階で、障害の事実だけでなく、現在の暮らしや利用している福祉サービス、自分が家族とどの程度関わりたいのかを伝えることが大切です。

例えば、次のような点を整理しておくと話しやすくなります。

  • 障害のある兄弟姉妹の現在の生活
  • 親が担っている支援
  • 利用している福祉サービス
  • 将来想定される課題
  • 自分ができること、難しいこと
  • 同居や介護を予定しているか
  • 家族以外の支援体制をどう考えているか

「将来は自分がすべて支えることになる」と曖昧なまま伝えると、パートナーも生活を具体的に想像できず、不安を感じやすくなります。

分からないことは無理に断定せず、「これから家族で整理していく」と率直に伝えてもよいでしょう。

また、結婚や出産を考えるなかで遺伝について不安を感じる場合には、遺伝カウンセリングなどで正確な情報を確認する方法もあります。

就職やキャリアで感じる制約

就職や転職を考える際に、

「実家から離れられない」

「転勤のある仕事は選べない」

「親が高齢になったら仕事を辞めることになるかもしれない」

と感じる方もいます。

まだ具体的な支援を求められていなくても、「いつか自分が担うことになる」という思いから、選択肢を狭めてしまう場合があります。

しかし、将来の支援体制が決まっていないことと、きょうだいが実家の近くに住み続けなければならないことは同じではありません。

日常生活の支援には、居宅介護、グループホーム、生活介護などの障害福祉サービスを利用できる場合があります。

相談支援専門員や福祉サービス事業所など、地域で本人を支える人との関係ができていれば、きょうだいが遠方に住みながら関わることも可能です。

まずは、親が現在行っている支援を書き出し、その役割を誰が担えるのかを整理してみましょう。

自分自身の経済的・精神的な基盤を整えることも、将来に向けた大切な準備です。

親からの「将来はお願い」という言葉

親から、

「親がいなくなったら、あとはお願いね」

「この子のことを見てあげてほしい」

と伝えられることがあります。

親の不安な気持ちは理解できても、その言葉がきょうだいにとって大きな重圧になる場合があります。

まずは、親が何を心配し、どこまでの役割を期待しているのかを具体的に確認しましょう。

親の不安には、次のような内容が含まれていることがあります。

  • 一人で生活できるか
  • お金を管理できるか
  • 福祉サービスの手続きを続けられるか
  • 困ったときに相談できる人がいるか
  • 緊急時に連絡できる人がいるか
  • 親の財産を本人の生活に使えるか

これらの課題は、一人のきょうだいがすべて担う必要はありません。

日常生活は福祉サービス、金銭管理は権利擁護の仕組み、手続きは相談支援専門員など、役割を分けることができます。

自分ができることと難しいことを、親へ伝えることも大切です。

罪悪感や孤独感を抱えやすい心の内

障害のある兄弟姉妹への支援に多くの時間を使う親を見ながら、寂しさや我慢を抱えて育った方もいます。

家族の事情を友人には説明しづらく、孤独を感じる場合もあります。

また、

「自分だけ楽しんでよいのだろうか」

「家族から離れて暮らすのは申し訳ない」

「兄弟姉妹を負担に感じる自分は冷たいのではないか」

と罪悪感を抱くこともあります。

兄弟姉妹を大切に思う気持ちと、自分の生活を優先したい気持ちは、どちらも自然なものです。

信頼できる人に話したり、同じ立場の人が集まる「きょうだい会」に参加したりすることで、自分の気持ちを整理できる場合があります。

「親なきあと」に備えて今からできること

親なきあとへの準備は、親が亡くなった後だけを考えるものではありません。

親が病気になったときや、認知症などで判断能力が低下し、これまで通り支えられなくなったときから課題は始まります。

法的な扶養義務、相続、住まい、財産管理、障害年金などについて知り、少しずつ整理していきましょう。

兄弟姉妹の扶養義務を正しく理解する

民法上、兄弟姉妹は扶養義務者に含まれます。

ただし、兄弟姉妹であることだけを理由に、当然に同居や日常的な介護、生活費の全額負担を求められるものではありません。

具体的にどのような扶養が必要になるかは、障害のある本人の収入や財産、公的な給付、きょうだい自身の収入や家庭状況などによって異なります。

自分の仕事や家庭を犠牲にして、すべてを一人で引き受けることを前提にする必要はありません。

まずは障害年金、各種手当、生活保護、障害福祉サービスなど、本人が利用できる制度を確認し、そのうえで家族が無理のない範囲で関わる方法を考えます。

相続で揉めないための生前準備

親が亡くなった後の相続は、障害のある本人の生活に大きく関わります。

親としては、障害のある子に多く財産を残したいと考えることがあります。

一方で、多くの財産を相続させても、本人が管理できるとは限りません。また、説明のないまま財産の配分に差をつけると、他の相続人が不公平に感じる可能性もあります。

親が元気なうちに、次の点を整理しておきましょう。

  • 親が所有している財産
  • 本人の生活に必要な資金
  • 実家や不動産を誰が引き継ぐか
  • 財産を誰が管理するか
  • 他の相続人へどう説明するか
  • 遺言執行者を誰にするか

遺言、生命保険、生命保険信託、民事信託・家族信託などが選択肢となる場合があります。

財産の分け方だけでなく、相続後の管理まで考えることが重要です。

親なきあとの住まいを考える

親なきあとに障害のある本人がどこで暮らすかは、生活設計の中心となる課題です。

親が住んでいた実家で暮らし続ける方法もありますが、建物の維持管理、固定資産税や修繕費、日常生活の支援、緊急時の対応を考える必要があります。

一人暮らしが難しい場合には、グループホーム(共同生活援助)が選択肢になります。

そのほか、在宅サービスを利用しながら自宅で暮らす、支援付き住宅や入所施設を利用するなど、住まいには複数の形があります。

親が支えられなくなってから急いで探すのではなく、親が元気なうちに見学や体験利用を行い、本人が安心して暮らせる場所を考えておきましょう。

成年後見制度について知る

障害のある本人が、預貯金や不動産の管理、福祉サービスの契約を自分で行うことが難しい場合には、成年後見制度が選択肢になります。

法定後見制度は、本人の判断能力がすでに不十分な場合に、家庭裁判所が成年後見人、保佐人、補助人などを選任する制度です。

任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来支援してもらう人と内容を決めておく制度です。

親が、子の任意後見人を一方的に決められるわけではなく、本人が契約を理解し、自分の意思で契約できることが前提です。

また、成年後見人が日常的な介護を直接担うとは限りません。

財産管理や契約と、日々の生活支援は分けて考える必要があります。

障害年金や公的支援を確認する

障害年金、特別障害者手当、医療費助成などは、本人の生活を支える重要な制度です。

申請や更新が必要なものも多いため、親が現在どの制度を利用し、いつ手続きをしているのかを一覧にしておきましょう。

まとめておきたい情報には、次のようなものがあります。

  • 制度の名称
  • 支給額と支給時期
  • 更新時期
  • 必要書類
  • 問い合わせ先
  • 年金証書や受給者証の保管場所

自治体の障害福祉窓口や相談支援事業所で、利用できる制度を確認できます。

将来の負担を一人で抱え込まないための行動

漠然とした不安は、何が起こるのか分からないことから生まれます。

現在の暮らしや親が担っている役割を整理し、利用できる制度や支援を知ることで、具体的な課題として考えられるようになります。

家族で話し合う機会をつくる

親なきあとや相続の話は、家族にとって話しづらいテーマです。

最初からすべてを決めようとせず、まずは次のような内容を確認しましょう。

  • 親が現在行っている支援
  • 本人が望んでいる暮らし
  • 利用している福祉サービス
  • 緊急時の連絡先
  • きょうだいができること、難しいこと
  • 財産や住まいについての考え

「今日は親が行っていることを書き出す」「次回は住まいについて考える」というように、テーマを分けて進めても構いません。

「きょうだい会」などで同じ立場の人とつながる

障害のある兄弟姉妹を持つ人の悩みは、家族や友人には説明しづらいことがあります。

「きょうだい会」やオンラインコミュニティでは、他の人が家族とどのような距離で関わっているのかを知ることができます。

同居や介護を担わない選択、緊急時だけ関わる方法など、関わり方は一つではありません。

話すことに抵抗がある場合は、他の人の体験を聞くだけでもよいでしょう。

自分自身の人生を大切にする

障害のある兄弟姉妹を大切に思うことと、自分の人生を大切にすることは矛盾しません。

自分の仕事、結婚、家庭、住む場所を、自分の希望に基づいて考えることは当然のことです。

関わり方は、同居や介護だけではありません。

時々連絡を取る、必要な話し合いに参加するなど、自分の生活に合った方法を選べます。

家族との関係やこれまでの経験から、距離を保ちたいと考える方もいます。その気持ちも尊重されるべきものです。

「親なきあと個別相談」で課題を整理する

「親なきあと」には、住まい、生活や就労、福祉サービス、お金、相続、財産管理、きょうだいの関わり方など、複数の課題があります。

あしたパートナーズの「親なきあと個別相談」では、ご本人とご家族の現在の状況を伺いながら、今考えることと、少し先に検討することを一つずつ整理します。

きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にせず、それぞれの生活や気持ちを踏まえた関わり方を考えます。

「何から考えればよいか分からない」「家族で話し合えていない」という段階からでも、現在親が担っている役割を確認するところから始められます。

障害のある兄弟姉妹との将来に関するよくある質問

結婚を考えている相手には、いつ伝えればよいですか?

伝える時期に決まった正解はありません。

二人の信頼関係が深まり、将来を一緒に考える段階になったときに、現在の生活や利用している支援、自分が今後どのように関わりたいかを伝えることが考えられます。

分からないことについては、「これから家族で整理する」と率直に話しても構いません。

親が亡くなった後、介護や生活の責任をすべて負うのですか?

きょうだいであることを理由に、介護、同居、金銭管理、行政手続きなど、すべてを一人で担わなければならないわけではありません。

日常生活には福祉サービス、財産管理には成年後見制度などを利用できる場合があります。

きょうだいが担うこと、制度や支援者へ任せることを分けて考えることが重要です。

障害のある本人へ財産を多く残す方法はありますか?

親が、障害のある子へ多く財産を残す内容の遺言を作成する方法があります。

生命保険や生命保険信託、民事信託・家族信託などを活用できる場合もあります。

ただし、多くの財産を残すだけでは、その後の管理方法まで決まりません。

本人の判断能力や家族構成、他の相続人の遺留分なども踏まえて考える必要があります。

まとめ|兄弟姉妹も、自分自身の人生も大切にする

障害のある兄弟姉妹を持つ方のなかには、結婚、就職、住む場所などを考えるたびに、家族の将来が気にかかる方もいます。

「親がいなくなったら、自分が支えなければならない」

「自分だけが自由に生きてはいけない」

と感じ、自分の希望を後回しにしてしまう場合もあります。

しかし、「親なきあと」は、きょうだい一人がすべてを背負う問題ではありません。

まずは、親が現在担っている役割を整理し、次のように分けて考えることが大切です。

  • 障害のある本人ができること
  • 福祉サービスへ任せること
  • 相談支援などで調整すること
  • 成年後見制度などで支えること
  • 家族やきょうだいが無理なく関われること

障害のある兄弟姉妹を大切に思いながら、自分の仕事、結婚、家庭、暮らしを大切にすることはできます。

「親なきあと」の準備とは、誰かが自分の人生を犠牲にすることではありません。

障害のある本人と家族それぞれの立場や希望を尊重し、無理なく続けられる暮らしと関わり方を整えていくことです。

なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。

個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。

きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。

「何から考えればよいか分からない」

「家族だけでは話し合いが進まない」

という段階でも構いません。

まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。


執筆者

首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役

ともに、“あした”を
つくる。

お問い合わせ

あしたパートナーズへのお問い合わせ、相談、セミナーへの登壇依頼などは
お問い合わせフォームよりご連絡ください。