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2026.07.16 暮らし・相続×親なきあと

親の認知症・判断能力低下に備える|障害のある子の「親なきあと」生活設計

障害のある子を持つ親にとって、「親なきあと」は切実な問題です。

親なきあとという言葉から、親が亡くなった後のことを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし実際には、親が病気になったときや、認知症によって判断能力が低下し、これまでと同じように子を支えられなくなったときから、さまざまな課題が表面化します。

親が元気で判断能力のあるうちに、障害のある子の将来の暮らしを考え、生活を支える人や仕組み、お金の管理方法などを整理しておくことが大切です。

この記事では、親の認知症や判断能力の低下によって生じるリスクと、今から始められる「親なきあと」の生活設計について解説します。

「親なきあと」問題は、親の認知症や判断能力の低下から始まる

「親なきあと」問題とは、親が高齢や病気、認知症、逝去などによって、これまでと同じように障害のある子を支えられなくなったときに生じる、暮らしや財産管理、住まい、福祉サービスなどに関する課題の総称です。

親が存命であっても、認知症などによって判断能力が低下すると、財産の管理や契約、行政手続きを自分で行うことが難しくなる場合があります。

それまで親が子の生活費を負担し、福祉サービスの手続きを行い、通院や日常生活を支えていた家庭では、親の判断能力低下をきっかけに、これまでの生活を維持できなくなる可能性があります。

つまり、「親なきあと」は親が亡くなった後に突然始まるものではありません。親が子を支える力を少しずつ失っていく過程から始まる問題として、早めに備えておくことが重要です。

親の判断能力が低下するとどうなる?3つのリスク

親の判断能力が低下すると、これまで当たり前に行ってきた子への支援が、思うように続けられなくなることがあります。

特に注意したいのが、お金の管理、日常生活の支援、福祉サービスや契約に関する手続きです。

リスク1:お金の管理が難しくなる|銀行口座を利用できない可能性

親が障害のある子の生活費や医療費、福祉サービスの利用料を負担している家庭は少なくありません。

しかし、親の認知症が進み、金融機関が本人の意思を確認できないと判断した場合、親名義の預金について、家族による引き出しや振り込みが難しくなることがあります。

認知症になったことだけで、すべての銀行口座が一律に凍結されるわけではありません。ただし、預金は口座名義人本人の財産であり、家族であっても当然に自由な引き出しが認められるわけではありません。

親名義の預金に子の生活資金を依存している場合、必要なときにお金を動かせず、生活費やサービス利用料の支払いに支障が生じる可能性があります。

リスク2:日々の生活サポートが途絶える

障害のある子の生活を支えているのは、お金や制度だけではありません。

食事の準備、掃除や洗濯、服薬の確認、通院への付き添い、福祉サービス事業所への送迎、外出時の見守りなど、親が日常的に担っている支援は多岐にわたります。

親が認知症になったり、病気やけがで入院したりすると、こうした支援が突然途絶えることがあります。

家族にとっては当たり前になっている支援でも、親以外の人には、どのような手助けが必要なのか分からない場合があります。支援が途切れることで、本人の生活リズムや健康状態に影響が生じる可能性もあります。

リスク3:福祉サービスの更新や契約が滞る

障害のある方の暮らしは、障害福祉サービスや障害年金、各種手当、医療制度などによって支えられています。

制度によっては、定期的な更新や書類の提出、医師の診断書の取得などが必要です。親がこれらの手続きを担っている場合、判断能力の低下や入院によって、申請や更新が遅れることがあります。

また、賃貸住宅の契約更新、新しい住まいへの転居、福祉サービスの利用契約など、本人や親の意思確認が必要になる場面もあります。

親は、成人した障害のある子の当然の法定代理人ではありません。これまで親が事実上手続きを手伝ってきた場合でも、将来にわたって同じように対応できるとは限らないため、本人の状況に応じた仕組みを考えておく必要があります。

親が元気なうちに始める「親なきあと」生活設計の4ステップ

親の認知症や判断能力の低下に備えるためには、親が元気なうちから準備を進めることが重要です。

すべてを一度に決める必要はありません。現在の暮らしや支援の状況を整理し、将来起こり得る変化について、本人や家族、支援者と少しずつ話し合っていきましょう。

ステップ1:障害のある本人の情報を整理して共有する

最初に取り組みたいのが、障害のある子本人に関する情報の整理です。

例えば、次のような内容をまとめます。

  • 障害の特性や必要な配慮
  • 得意なこと、苦手なこと
  • コミュニケーションの方法
  • 不安を感じやすい場面
  • かかりつけの医療機関
  • 服用している薬
  • 利用している福祉サービス
  • 一日の生活リズム
  • 緊急時の連絡先
  • 本人が望んでいる暮らし

こうした情報は、将来、親に代わって本人を支える人にとって大切な手がかりになります。

作成した情報は保管するだけでなく、きょうだいや親族、相談支援専門員、福祉サービス事業所など、必要な人と共有しておきましょう。

ステップ2:生活を支える人と役割を整理する

障害のある子の将来を、親一人やきょうだい一人だけで支え続けることには限界があります。

親が元気なうちから、本人の生活に関わる人や機関を増やし、複数の人で支える体制をつくることが大切です。

相談支援専門員、福祉サービス事業所の職員、医療機関、自治体の担当者、親族など、それぞれが担える役割を整理します。

例えば、日常生活の支援を福祉サービスが担い、金銭管理には別の仕組みを利用し、緊急時の連絡調整を親族が行うなど、役割を分けて考える方法があります。

きょうだいがいる場合も、親に代わってすべてを担ってもらうことを前提にせず、きょうだい自身の生活を大切にしながら、無理のない関わり方を話し合うことが必要です。

ステップ3:お金の管理と相続の計画を立てる

障害のある子の将来を考えるうえで、お金の準備は重要です。

まずは、障害年金、給与や工賃、各種手当などの収入と、住居費、食費、医療費、福祉サービスに伴う費用などの支出を整理します。

そのうえで、次のような点を考えます。

  • 本人名義の財産はいくらあるか
  • 親が負担している生活費はいくらか
  • 将来必要になる住居費や支援費はいくらか
  • 親の財産を誰に、どのように残すか
  • 財産を管理する人や仕組みをどうするか
  • 他の相続人とのバランスをどう考えるか

必要に応じて、遺言、生命保険、生命保険信託、家族信託、成年後見制度などを検討します。

特定の制度だけですべてを解決しようとするのではなく、本人の判断能力や家族構成、財産の内容に合わせて考えることが大切です。

ステップ4:将来の住まいと日中の活動場所を考える

親が子を支えられなくなったあと、本人がどこで、どのように暮らすのかを考えておく必要があります。

選択肢としては、現在の自宅で生活を続ける、グループホームへ入居する、親族と暮らす、入所施設を利用するなどが考えられます。

自宅で生活を続ける場合には、ホームヘルプなどの在宅サービス、建物の維持管理、修繕費、緊急時の対応なども考える必要があります。

グループホームや入所施設を検討する場合は、親が支えられなくなってから急いで探すのではなく、早めに情報を集め、見学や体験利用を行うことが大切です。

また、住まいだけでなく、就労移行支援、就労継続支援、生活介護など、日中をどこでどのように過ごすかも生活設計の重要な要素です。

障害のある子の生活設計で活用できる主な制度

障害のある子の将来を支えるためには、福祉サービスに加え、財産管理や契約、相続に関する制度を活用する方法があります。

制度ごとに対象となる人や、できること、できないことが異なるため、「誰のために、何を備える制度なのか」を確認して検討しましょう。

成年後見制度|本人の財産管理や契約を支える

成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方について、財産管理や契約などを法律面から支援する制度です。

家庭裁判所が選任した成年後見人等が、本人の預貯金の管理や、福祉サービス・施設利用に関する契約などを支援します。

一方で、成年後見人が食事の準備や通院への付き添い、日常的な介護を直接担うとは限りません。日々の生活支援については、福祉サービスや家族、地域の支援者など、別の体制を整える必要があります。

また、本人にとって本当に法的な支援が必要かを整理したうえで利用を検討することが大切です。

遺言|財産の承継方法を明確にする

遺言は、親が亡くなった後、自分の財産を誰に、どのように引き継ぐかを示すための法的な意思表示です。

障害のある子に生活資金を残したい場合や、財産の分け方を明確にしておきたい場合に有効です。

ただし、障害のある子へ多くの財産を残すだけでは、その後の管理方法まで決まるわけではありません。

本人が財産を管理することが難しい場合は、誰がどのように管理し、本人の生活のために使うのかも考える必要があります。

また、他の相続人の遺留分や、遺言執行者を誰にするかも含め、法的に有効な形式で作成することが重要です。

任意後見契約|親自身の判断能力低下に備える

任意後見契約は、親自身が将来、認知症などによって判断能力が低下したときに備え、財産管理や契約を支援してもらう人と、その内容をあらかじめ決めておく制度です。

契約は公正証書によって締結し、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じます。

任意後見契約は、基本的には親本人を支える制度です。

親自身の財産や生活が適切に管理されることで、障害のある子への急激な影響を抑えられる場合があります。

ただし、任意後見人が当然に子の財産を管理したり、親の財産を自由に子へ渡したりできるわけではありません。親への支援と、障害のある子への支援は分けて考える必要があります。

家族信託|親の財産管理をあらかじめ託す

家族信託は、親が判断能力のあるうちに、預貯金や不動産などの財産を信頼できる家族等へ託し、定めた目的に沿って管理してもらう仕組みです。

適切に契約を設計しておけば、親の判断能力が低下した後も、信託した財産について受託者が管理を続けることができます。

ただし、家族信託の対象となるのは、原則として信託契約に含めた財産です。福祉サービスの契約や医療に関する手続きなど、財産管理以外の行為をすべて代行できる制度ではありません。

受託者を誰にするのか、その人が長期間管理できるのかまで含めて検討する必要があります。

制度だけでなく、日々の暮らしを支える仕組みを考える

「親なきあと」の準備というと、遺言や成年後見制度、家族信託などに目が向きやすくなります。

しかし、法的な制度やお金の準備だけで、障害のある子の生活が成り立つわけではありません。

本人がどこで暮らすのか、困ったときに誰へ相談するのか、体調の変化に誰が気づくのか、休日をどのように過ごすのかといった、日々の暮らしを支える仕組みも必要です。

親が元気なうちから福祉サービスを利用し、本人が家族以外の人と関係を築くことも、大切な準備になります。

親がすべてを担い続けるのではなく、少しずつ地域や支援者へ役割を渡していくことが、「親なきあと」の生活設計につながります。

「親なきあと個別相談」で家族の課題を整理する

「親なきあと」には、暮らし、住まい、福祉サービス、お金、相続、財産管理など、複数の課題が関わります。

しかし、すべてのご家族に共通する一つの正解があるわけではありません。

あしたパートナーズの「親なきあと個別相談」では、ご本人とご家族の現在の状況や、将来感じている不安を伺いながら、今考えること、少し先に検討すること、将来の選択肢として知っておくことを整理します。

「何から考えればよいか分からない」という段階からでも構いません。

現在の暮らしや、親が担っている役割を一つずつ確認することが、準備の第一歩になります。

親の認知症と障害のある子の将来に関するよくある質問

Q.親が認知症になったら、子の生活費を銀行から引き出せなくなりますか?

親が認知症になっただけで、直ちにすべての銀行口座が凍結されるわけではありません。

ただし、金融機関が親本人の意思を確認できないと判断した場合、家族による預金の引き出しや契約変更が難しくなることがあります。

親が元気なうちに、金融機関の代理人制度、任意後見契約、家族信託などの選択肢を確認し、将来の財産管理方法を考えておくことが大切です。

Q.障害のある子のために成年後見制度は必ず必要ですか?

成年後見制度を、すべての方が必ず利用しなければならないわけではありません。

本人の判断能力、保有している財産、必要となる契約、家族や支援者による支援体制などによって、制度の必要性は異なります。

法的な権限を持つ人の支援が必要になった場合には有効な制度ですが、本人が現在困っていることや、将来予想される手続きを整理したうえで検討することが大切です。

Q.何から準備を始めればよいですか?

まずは、親が現在行っている支援を書き出すことから始めましょう。

本人の生活、収入と支出、利用している福祉サービス、医療機関、家族以外の支援者などを整理します。

すぐに遺言や後見制度の利用を決める必要はありません。

親が支えられなくなったときに困ることを見つけ、その役割を誰に、どのように引き継ぐかを一つずつ考えることが大切です。

まとめ|親が元気なうちから、障害のある子の暮らしを少しずつ地域へつなぐ

「親なきあと」問題は、親が亡くなった後だけに生じるものではありません。

親が認知症になったとき、病気やけがで入院したとき、介護が必要になったときなど、これまでと同じように子を支えられなくなった段階から始まります。

そのため、親が元気で判断能力のあるうちに、障害のある子の将来の生活設計を考えておくことが大切です。

まずは、本人の生活や必要な支援を整理し、親が担っている役割を書き出してみましょう。

そのうえで、家族や福祉サービス事業所、相談支援専門員などと情報を共有し、親以外にも本人を知る人や、困ったときに相談できる人を増やしていきます。

お金についても、単に財産を残すだけではなく、その財産を誰がどのように管理し、本人の暮らしのために使うのかまで考える必要があります。

成年後見制度、家族信託、遺言、任意後見契約などは、将来を支えるための選択肢です。ただし、どの制度が適しているかは、ご本人とご家族の状況によって異なります。

「親なきあと」に向けた準備とは、親がいなくなった後のためだけに行うものではありません。

親が元気なうちから、障害のある本人が地域のなかで安心して生活できる環境を少しずつ整えていくことでもあります。

なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。

個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。

きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。

「何から考えればよいか分からない」

「家族だけでは話し合いが進まない」

という段階でも構いません。

まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。


執筆者

首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役

ともに、“あした”を
つくる。

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