親なきあと、障害のある子の実家暮らしはどうなる?住まいの選択肢と支援体制
親なきあと、障害のある子が住み慣れた実家で暮らし続けられるのか。多くのご家族が抱える切実な不安の一つです。
実家は本人にとって、生活に慣れ安心できる場所である一方、親が担ってきた支援がなくなった後も暮らしを続けるためには、お金の管理、日常生活の支援、建物の維持、緊急時の対応などをあらかじめ考えておく必要があります。
また、本人の状況によっては、グループホーム(共同生活援助)など、実家以外の住まいが適している場合もあります。
この記事では、親なきあとも実家暮らしを続けるために必要な準備、グループホームなどの住まいの選択肢、相談先について解説します。
親なきあとに障害のある子が実家で暮らす際の課題
障害のある子が親なきあとも実家で暮らし続ける場合、単に家を残すだけでは十分ではありません。
まず考えたいのが、障害年金や預貯金、生活費を本人が管理できるかという「お金の課題」です。
次に、食事、掃除、洗濯、服薬、通院、買い物など、これまで親が担ってきた日常生活の支援を誰が引き継ぐかという課題があります。
さらに、次のような点も確認する必要があります。
- 実家の名義や相続方法
- 固定資産税や修繕費の負担
- 建物や庭の維持管理
- 地域から孤立しないための見守り
- 病気や災害などの緊急時の対応
- 日中活動や就労の場への通所方法
本人ができることと、家族や福祉サービスによる支援が必要なことを整理し、暮らし全体を支える体制を考えることが大切です。
選択肢①|親なきあとも実家で暮らし続けるための準備
住み慣れた実家での生活は、本人にとって環境の変化が少なく、安心につながる場合があります。
一方で、親がいなくなった後も安定した生活を続けるためには、「お金」「生活支援」「住まいの維持」「緊急時」の4つの視点から準備する必要があります。
お金の管理|成年後見制度や日常生活自立支援事業
本人がお金の管理に不安を感じている場合には、判断能力や必要な支援の程度に応じて、日常生活自立支援事業や成年後見制度を検討できます。
日常生活自立支援事業は、契約内容を理解できる方を対象に、社会福祉協議会が福祉サービスの利用手続きや日常的な金銭管理、預金通帳などの保管を支援する制度です。
一方、成年後見制度は、判断能力が十分ではない方について、家庭裁判所が選任した成年後見人等が、預貯金の管理や福祉サービスの契約などを支援する制度です。
成年後見人が日常的な介護を直接行う制度ではないため、生活支援については別に福祉サービスを整える必要があります。
本人にどの程度の支援が必要なのかを確認し、制度の違いを理解したうえで検討することが大切です。
生活の支援|居宅介護や重度訪問介護を利用する
実家での生活を続けるうえでは、居宅介護(ホームヘルプ)が大きな支えになります。
居宅介護では、ヘルパーが自宅を訪問し、食事、入浴、排泄などの身体介護や、掃除、洗濯、調理、買い物などの家事援助を行います。
障害の状態によっては、長時間にわたって日常生活を支援する重度訪問介護を利用できる場合もあります。
そのほか、短期入所、訪問看護、配食サービス、移動支援などを組み合わせることで、本人の生活を支える体制を整えられる可能性があります。
どのサービスを、どの時間帯に、どの程度利用する必要があるかは、本人の状況によって異なります。相談支援専門員と一緒に、生活全体を確認しながらサービス等利用計画を考えていきましょう。
住まいの維持|実家の相続と管理方法を考える
親なきあとも実家に住み続けるためには、家の名義や相続方法を明確にしておく必要があります。
遺言がなく、相続人が複数いる場合には、遺産分割協議が必要となり、実家を誰が相続するかについて意見がまとまらないこともあります。
障害のある子が実家を相続する場合でも、固定資産税、火災保険、修繕費などを継続して支払えるかを確認しなければなりません。
また、本人が建物の管理や修繕の判断をすることが難しい場合には、誰が対応するかも決めておく必要があります。
検討したい主な項目は次のとおりです。
- 実家を誰が相続するか
- 障害のある本人に所有させるか
- 固定資産税や修繕費をどこから支払うか
- 建物の点検や修理を誰が手配するか
- 将来住めなくなった場合に売却できるか
- 空き家になった場合にどうするか
遺言、信託、成年後見制度などが選択肢となる場合もありますが、家を残すことだけでなく、長期的に管理できる仕組みまで考えることが重要です。
緊急時の備え|連絡先と一時的な受け入れ先を確認する
実家で一人暮らしをする場合、病気、けが、災害、支援者の急な不在などに備える必要があります。
緊急時に誰へ連絡するのか、本人が連絡できない場合に誰が気づくのか、どこで一時的に過ごせるのかを整理しておきましょう。
地域生活支援拠点等では、障害のある方が地域で暮らし続けられるよう、相談、緊急時の受け入れ、体験の機会などを地域の実情に応じて整備しています。
ただし、利用方法や登録の有無、緊急時の対応内容は自治体によって異なります。
市区町村の障害福祉窓口や相談支援専門員に、次のような点を確認しておくと安心です。
- 夜間や休日の相談先
- 緊急時の短期入所先
- 本人の状況を共有している支援者
- 災害時の避難場所や避難方法
- 緊急連絡先となる家族や親族
- 定期的な安否確認の方法
見守り機器や緊急通報サービスを利用する方法もありますが、機器だけに頼らず、人とのつながりも含めて考えることが大切です。
選択肢②|グループホームなど実家以外の住まい
本人の障害特性や必要な支援、実家の状況によっては、グループホームなど実家以外の住まいが適している場合もあります。
グループホーム(共同生活援助)は、障害のある方が地域の住居で共同生活を送りながら、必要な支援を受ける障害福祉サービスです。
実家に住み続けることとグループホームへ入居することのどちらが正しいというものではありません。
本人が安心して生活できるか、必要な支援を受けられるか、長期的に暮らしを維持できるかという視点で考えることが大切です。
グループホームで受けられる支援と費用
グループホームでは、世話人や生活支援員などから、食事、健康管理、服薬、家事、生活上の相談など、本人の状況に応じた支援を受けます。
支援内容や職員配置は事業所によって異なり、夜間も職員がいるところもあれば、巡回や緊急対応を中心とするところもあります。
費用としては、主に次のような負担があります。
- 家賃
- 食費
- 水道光熱費
- 日用品費
- 障害福祉サービスの利用者負担
一定の要件を満たす場合には、家賃の一部について補足給付を受けられることがあります。
ただし、「障害年金の範囲内で必ず生活できる」とは限りません。地域や事業所、本人の収入、必要な支援によって負担額が異なるため、入居前に毎月の収支を確認することが必要です。
親が元気なうちに体験利用をしておく
グループホームを検討する場合は、親が支えられなくなってから急いで探すのではなく、元気なうちに見学や体験利用を進めておくことが大切です。
本人にとって、実家を離れ、他の入居者と共同生活を始めることは大きな環境変化です。
体験利用を通じて、次のような点を確認できます。
- 本人が落ち着いて過ごせるか
- 職員との相性
- 他の入居者との距離感
- 食事や生活時間
- 夜間の支援体制
- 通所先への移動方法
- 本人が困ったときに相談できるか
一度の体験だけで判断する必要はありません。複数のグループホームを見学し、本人の様子を見ながら検討しましょう。
短期入所を利用し、親と離れて過ごす経験を少しずつ重ねることも、将来に向けた準備になります。
本人に合ったグループホームの探し方
グループホームを探す際は、市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所に相談し、地域の情報を集めます。
見学では、建物や居室だけでなく、日々の支援内容や職員体制も確認しましょう。
主な確認項目は次のとおりです。
- 対象としている障害や支援区分
- 日中や夜間の職員配置
- 医療的な支援への対応
- 食事や入浴などの生活時間
- 外出や金銭管理への支援
- 通院や緊急時の対応
- 家族との連絡方法
- 費用と退去条件
空室があっても、本人の支援ニーズと事業所の体制が合わない場合があります。
本人が希望しているか、安心して暮らせそうかという視点を大切にしながら、時間をかけて選ぶことが重要です。
親なきあとの住まいはどこに相談する?
親なきあとの住まいには、福祉サービス、不動産、相続、お金など、複数の課題が関係します。
最初から相談内容を一つに絞る必要はありません。まずは現在の暮らしや不安を整理し、課題に応じた相談先を確認しましょう。
市区町村の障害福祉窓口・基幹相談支援センター
障害福祉サービスやグループホームについて相談する場合は、市区町村の障害福祉窓口、相談支援事業所、基幹相談支援センターなどが主な相談先となります。
利用できる障害福祉サービス、地域のグループホーム、短期入所、緊急時の支援体制などについて相談できます。
「実家で暮らし続けたいが、どのような支援が必要か分からない」という段階でも相談できます。
社会福祉協議会
社会福祉協議会では、地域福祉に関する相談や、日常生活自立支援事業などを行っています。
日常的な金銭管理や福祉サービスの利用手続きに不安がある場合には、制度の対象となるかを確認できます。
地域によって実施している事業が異なるため、お住まいの地域の社会福祉協議会へ問い合わせましょう。
法律やお金に関する相談先
実家の相続、遺言、成年後見制度、信託などについては、弁護士、司法書士、税理士などが相談先となります。
将来の生活費や住居費、修繕費などを整理する場合には、ファイナンシャルプランナーへ相談する方法もあります。
大切なのは、制度だけを先に決めるのではなく、本人が将来どのような生活を望んでいるかを踏まえて考えることです。
「親なきあと個別相談」で住まいと暮らしを整理する
親なきあとの住まいを考える際には、実家を残すか、グループホームを選ぶかという二つの選択肢だけではありません。
本人の生活能力、必要な支援、日中活動、家族構成、財産の状況などを整理したうえで、現実的に続けられる暮らしを考える必要があります。
あしたパートナーズの「親なきあと個別相談」では、現在の暮らしやご家族の不安を伺いながら、住まい、生活支援、お金、相続、きょうだいの関わり方などを一つずつ整理します。
最初から実家暮らしかグループホームかを決める必要はありません。
「何から考えればよいか分からない」という段階から、親が担っている役割や、本人に必要な支援を確認していきます。
よくある質問
親なきあとも実家で暮らすには、どのような支援を利用できますか?
本人の状況に応じて、居宅介護、重度訪問介護、訪問看護、短期入所、配食サービスなどを組み合わせることが考えられます。
金銭管理については、日常生活自立支援事業や成年後見制度が選択肢となる場合があります。
必要な支援は一人ひとり異なるため、相談支援専門員と一緒に現在の生活を整理し、支援体制を考えることが大切です。
グループホームの準備はいつから始めればよいですか?
年齢だけで一律に決める必要はありませんが、親が元気で、本人と一緒に見学や体験利用ができるうちから準備することが望ましいでしょう。
本人が新しい環境に慣れるには時間がかかる場合があります。また、希望するグループホームに空きがないこともあります。
すぐに入居する予定がなくても、地域にどのような選択肢があるかを知っておくことが大切です。
きょうだいに負担をかけず、実家暮らしを続けることはできますか?
福祉サービス、相談支援、金銭管理の制度、見守りなどを組み合わせることで、きょうだいだけに負担を集中させない体制を考えることができます。
ただし、実家の修繕や緊急時の対応など、家族の関与が必要になる場面もあります。
きょうだいができることと難しいことを確認し、家族以外へ任せることを増やしていくことが重要です。
まとめ|住まいだけでなく、暮らしを支える仕組みまで考える
親なきあとも障害のある子が実家で暮らし続けるためには、お金の管理、日常生活の支援、実家の維持管理、緊急時の備えを整える必要があります。
実家を残すことが、そのまま本人の安心につながるとは限りません。
本人が家の管理を続けられるか、必要な福祉サービスを利用できるか、地域で孤立せずに生活できるかまで考えることが大切です。
一方で、グループホームなどの住まいも有力な選択肢です。
大切なのは、親や家族の希望だけで決めるのではなく、障害のある本人がどのような場所で、誰と、どのように暮らしたいのかを確認することです。
親が元気なうちから、実家での生活と実家以外の生活の両方について情報を集め、見学や体験利用を進めておきましょう。
「親なきあと」の住まいを考えることは、家をどこにするかを決めることだけではありません。
本人が安心して毎日を過ごし、困ったときに助けを求められる暮らしの仕組みを、少しずつ整えていくことです。
なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。
個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。
きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。
「何から考えればよいか分からない」
「家族だけでは話し合いが進まない」
という段階でも構いません。
まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
