障害のある子の「親なきあと」問題|死後事務から生活支援までの手続きを解説
障害のある子を持つ親にとって、「親なきあと、この子の生活はどうなるのか」は切実な問題です。
親が亡くなった後には、葬儀や各種解約などの死後事務、相続や財産管理、住まいの確保、福祉サービスの手続き、日々の見守りなど、さまざまな課題が生じます。
これまで親が担ってきた役割を、誰が、どのような仕組みで引き継ぐのか。親が元気なうちから一つずつ整理しておくことが、障害のある子の安心した暮らしにつながります。
この記事では、「親なきあと」に必要となる死後事務や法的な制度、生活支援の仕組み、準備の進め方について解説します。
「親なきあと」で最初に直面する4つの課題
「親なきあと」の問題は、相続やお金だけではありません。
親が亡くなることで、これまで当たり前に行われてきた支援が一度に失われる可能性があります。特に考えておきたいのが、死後事務、お金、日常生活、住まいの4つです。
親が亡くなった後に必要となる死後事務
親が亡くなると、死亡届の提出、葬儀・火葬・納骨の手配、医療費や施設費の精算、年金・健康保険の手続き、公共料金の解約、遺品整理などが必要になります。
親が個人事業を営んでいた場合には、事業の廃止や取引先への対応、帳簿や契約の整理も必要です。
こうした手続きのなかには期限があるものもあり、障害のある子が一人で対応することが難しい場合があります。
誰が死後事務を担うのかを決めないまま親が亡くなると、手続きが滞るだけでなく、子の住まいや生活費にも影響が及ぶ可能性があります。
子の生活を支えるお金の管理
親が亡くなると、親名義の預貯金は相続財産となり、相続手続きが終わるまで自由に使えなくなることがあります。
親の口座から障害のある子の生活費、家賃、医療費、福祉サービスの利用料などを支払っている場合には、支払い方法を切り替える必要があります。
また、親が子の障害年金や手当、預貯金を管理していた場合は、その管理を誰が引き継ぐのかも課題となります。
財産を残すことだけでなく、相続後に誰がどのように管理し、本人の生活のために使うのかまで考えておくことが大切です。
日常生活を見守る人や仕組み
「親なきあと」に必要なのは、法律上の手続きだけではありません。
体調の変化に気づく、通院や服薬を支える、福祉サービス事業所と連絡を取る、困ったときに相談に乗るなど、日々の暮らしを支える仕組みが必要です。
成年後見制度で用いられる「身上保護」は、福祉サービスや医療に関する契約・手続きを支援する考え方です。成年後見人が、日常的な介護や通院の付き添いを直接担うとは限りません。
生活そのものを支えるためには、相談支援専門員、福祉サービス事業所、医療機関、家族や地域の関係者など、複数の人が関わる体制を整える必要があります。
実家や賃貸住宅に住み続けられるか
親名義の実家に住んでいる場合には、誰が家を相続するのか、固定資産税や修繕費をどのように支払うのかを考えなければなりません。
複数の相続人がいる場合は、遺産分割がまとまらず、実家を残すことが難しくなる可能性もあります。
賃貸住宅の場合には、契約名義の変更、家賃の支払い、保証人や緊急連絡先などが課題になります。
住み慣れた家を残すことだけではなく、日常生活の支援や建物の管理まで含めて、その暮らしを長期的に維持できるかを考えることが重要です。
親自身の死後事務を確実に進めるための準備
障害のある子に死後事務の負担を集中させないためには、親が元気なうちに、誰へ何を依頼するのかを整理しておく必要があります。
死後事務委任契約で手続きを託す
死後事務委任契約とは、親が生前に、亡くなった後の事務を第三者へ依頼しておく契約です。
依頼できる内容としては、次のようなものがあります。
- 葬儀や火葬、納骨の手配
- 医療費や施設利用料の精算
- 公共料金や各種サービスの解約
- 行政機関への届出
- 関係者への連絡
- 遺品整理
- ペットの引き渡し
依頼先には、弁護士、司法書士、行政書士、法人などが考えられます。ただし、対応できる業務や費用、預託金の管理方法は依頼先によって異なります。
また、死亡届は法律上、届出人になれる人が定められているため、受任者が単独で行えるとは限りません。契約を結ぶ際には、実際にどこまで対応できるのかを確認することが大切です。
きょうだい・親族へ依頼する場合に確認したいこと
きょうだいや親族へ死後事務を依頼する方法もあります。
本人の希望や家族関係を理解していることは大きな利点ですが、死後事務には時間的・精神的な負担が伴います。
親の考えだけで決めず、依頼される人の意思や生活状況も確認しましょう。
依頼する場合には、葬儀や納骨の希望、連絡先、契約しているサービス、重要書類の保管場所などを一覧にしておくと、手続きの負担を軽減できます。
死後事務委任契約と遺言は役割が異なります。葬儀や解約などは死後事務委任契約、財産の相続は遺言というように分けて準備することが重要です。
障害のある子の生活と財産を守る主な制度
「親なきあと」に活用できる制度には、成年後見制度、家族信託、遺言などがあります。
一つの制度ですべての課題を解決できるわけではありません。誰の財産を、どの時点から、どのように管理するのかを整理して選ぶ必要があります。
遺言|財産ののこし方と遺言執行者を決める
遺言は、親の財産を誰に、どのように相続させるかを示す法的な意思表示です。
障害のある子に多く財産をのこしたい場合や、実家を特定の相続人へ引き継ぎたい場合には、遺言を作成しておくことで、遺産分割の負担を軽減できる可能性があります。
ただし、遺言によって財産をのこしても、その後の管理方法まで自動的に決まるわけではありません。
障害のある子が財産管理を苦手としている場合には、成年後見制度や信託など、相続後の管理方法も合わせて考える必要があります。
また、他の相続人の遺留分に配慮し、遺言の内容を実行する遺言執行者を指定しておくことも重要です。
成年後見制度|本人の財産管理や契約を支援する
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が十分でない方の財産管理や契約を、法律面から支援する制度です。
法定後見制度では、本人の判断能力に応じて、家庭裁判所が成年後見人等を選任します。
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来支援を任せたい人と契約を結ぶ制度です。親が子の任意後見人を一方的に決めることはできず、本人が契約内容を理解して意思表示できることが前提です。
成年後見人等は、預貯金や不動産の管理、福祉サービスの契約などを支援します。一方、日々の介護や見守りは、別の福祉サービスや支援者による体制が必要です。
家族信託|親の財産を決めた目的に沿って管理する
家族信託・民事信託は、親が元気なうちに、預貯金や不動産などの財産を信頼できる人へ託し、契約で決めた目的に沿って管理してもらう仕組みです。
例えば、親の生前は親の生活費に使い、親の死後は障害のある子の生活費として給付する設計も考えられます。
ただし、家族信託の対象となるのは、原則として信託契約に入れた財産です。福祉サービスの契約や医療に関する手続きをすべて代行できる制度ではありません。
受託者が長期間にわたって管理できるか、受託者が死亡・辞任した場合に誰が引き継ぐかも考えておく必要があります。
お金だけではない|日々の生活を支える仕組み
「親なきあと」の準備は、遺言や相続手続きだけでは完了しません。
障害のある本人が、どこで、誰と、どのように暮らすのかを考え、親以外にも本人を知る人を増やしておくことが大切です。
日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業は、判断能力に不安があるものの、契約内容を理解できる方を対象として、社会福祉協議会が福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理などを支援する制度です。
利用できる主な支援には、公共料金の支払い、預金の払い戻し、重要書類の保管などがあります。
成年後見制度よりも比較的身近な支援ですが、本人が契約内容を理解できることが前提です。また、不動産の処分や遺産分割などの重要な法律行為には対応できません。
利用条件や支援内容は地域によって異なるため、社会福祉協議会へ確認しましょう。
見守りや相談支援の体制
自宅で暮らす場合には、居宅介護、重度訪問介護、訪問看護、配食、見守りサービスなどを組み合わせる方法があります。
必要な支援は、本人の障害特性や生活能力によって異なります。
まずは相談支援専門員と一緒に、親が現在担っている役割を書き出し、本人ができること、福祉サービスへ任せること、家族が無理なく関われることに分けて考えましょう。
緊急時の連絡先や短期入所先、夜間・休日の相談窓口も確認しておくと安心です。
グループホームなどの住まい
自宅での一人暮らしが難しい場合には、グループホーム(共同生活援助)などが選択肢になります。
グループホームでは、地域の住居で暮らしながら、食事、健康管理、家事、生活上の相談など、必要な支援を受けます。
事業所によって、職員配置、夜間支援、医療対応、費用、雰囲気は異なります。
親が支えられなくなってから急いで探すのではなく、元気なうちから見学や体験利用を進め、本人に合う場所を探しておくことが大切です。
「親なきあと」の準備を進める4つのステップ
ステップ1:現在の暮らしと本人の希望を整理する
まずは、親が現在担っている支援、本人の収入や支出、利用している福祉サービス、医療機関、財産、住まいなどを整理します。
あわせて、障害のある本人が、将来どこで、誰と、どのように暮らしたいのかを確認しましょう。
言葉で希望を伝えることが難しい場合でも、本人が安心できる環境や日々の様子から考えることができます。
ステップ2:必要な役割を分ける
親が担っている役割を、家族の誰か一人へそのまま引き継ぐ必要はありません。
生活支援は福祉サービス、財産管理は成年後見制度や信託、死後事務は親族や受任者、緊急時対応は地域の支援体制というように、役割を分けて考えます。
きょうだいがいる場合も、将来の支援をすべて任せることを前提にせず、本人の生活を尊重しながら無理のない関わり方を確認することが大切です。
ステップ3:必要な制度と費用を確認する
遺言、死後事務委任契約、成年後見制度、家族信託などは、内容や財産額、依頼先によって費用が異なります。
専門職へ支払う費用だけでなく、成年後見人等への継続的な報酬、信託した財産の管理費、実家の固定資産税や修繕費なども考える必要があります。
金額を一律に決めつけず、複数の方法を比較し、何のために必要な費用なのかを確認しましょう。
ステップ4:優先順位を決めて実行する
すべての準備を一度に行う必要はありません。
例えば、最初に本人の情報をまとめ、次に家族で住まいについて話し、その後に遺言や財産管理を検討するなど、優先順位を決めて進めます。
契約や制度を利用した後も、家族の状況、本人の生活、財産の内容が変われば見直しが必要です。
定期的に内容を確認し、今の状況に合った備えになっているかを確かめましょう。
親なきあとと死後事務に関するよくある質問
「親なきあと」の準備は何から始めればよいですか?
まずは、現在親が行っていることを書き出しましょう。
本人の生活、利用している福祉サービス、収入と支出、住まい、財産、緊急連絡先などを整理します。
すぐに遺言や後見制度を決める必要はありません。親が支えられなくなったときに困ることを見つけ、誰がどのように担うかを考えることが第一歩です。
死後事務委任契約と成年後見制度はどう違いますか?
死後事務委任契約は、親が亡くなった後の葬儀や解約、精算などを第三者へ依頼する契約です。
成年後見制度は、判断能力が十分でない本人の財産管理や契約を、生前から継続的に支援する制度です。
対象となる人と目的が異なるため、必要に応じて別々に準備します。すべての家庭に両方が必要とは限りません。
頼れる親族がいない場合はどうすればよいですか?
親の死後事務は、対応できる専門職や法人と死後事務委任契約を結ぶ方法があります。
障害のある本人の財産管理や契約については、成年後見制度などが選択肢になります。
日々の生活支援については、相談支援専門員、福祉サービス事業所、社会福祉協議会などと関係をつくり、家族以外にも本人を知る人を増やしておくことが大切です。
まとめ|親の役割を一つずつ仕組みに変えていく
障害のある子の「親なきあと」問題は、親自身の死後事務、子の財産管理、住まい、福祉サービス、日々の生活支援など、複数の課題が関わるテーマです。
遺言や成年後見制度、家族信託、死後事務委任契約は、将来に備えるための選択肢ですが、制度を利用すること自体が目的ではありません。
大切なのは、障害のある本人が、親がいなくなった後も、安心できる場所で必要な支援を受けながら暮らせることです。
まずは、親が現在担っている役割を整理し、本人ができること、福祉サービスへ任せること、財産管理の仕組みで支えること、家族が無理なく関われることに分けて考えてみましょう。
親なきあとへの準備とは、親の役割を誰か一人に引き継ぐことではありません。
暮らしを支える役割を少しずつ複数の人や制度へつなぎ、家族だけに負担が集中しない仕組みを整えていくことです。
なお、あしたパートナーズでは、障害のある方とそのご家族の「親なきあと」に関する個別相談を行っています。
個別相談では、ご家族の構成や現在の暮らし、所有する財産、将来感じている不安などを伺いながら、住まい、生活や就労、お金、相続、きょうだいの関わり方といった課題を一つずつ整理します。
きょうだいがいる場合も、将来の支援を担うことを前提にするのではなく、それぞれの生活や気持ちを踏まえ、家族にとって無理のない備えを考えていきます。
「何から考えればよいか分からない」
「家族だけでは話し合いが進まない」
という段階でも構いません。
まずは、現在の暮らしと、親が担っている役割を整理するところから始めていきます。
執筆者
首藤 徹也(しゅどう てつや)
一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事
株式会社あしたパートナーズ 代表取締役
